4/20名古屋グランパス戦 馬場康平コラム 「健太さんを正々堂々迎え撃つ」(4/1公開)
ここ一番で、日頃の行いがあらわれる――。なんとも僕には耳が痛い話だが、選手たちにとっては日頃が練習で、大一番は毎回の試合ということだ。そうした日々の積み重ねがあらわれているチームが、味の素スタジアムでぶつかる。
今シーズンから長谷川健太監督が就任した名古屋グランパスは、生みの苦しみから抜け出そうと試行錯誤が続いていた。前任のマッシモ フィッカデンティ監督が率いた、自陣で待ち受ける堅守速攻型のチームからのアップデートに四苦八苦しているようだった。
しかし、ここに来て光明を見いだしたようだ。10日のJ1リーグ第8節、北海道コンサドーレ札幌戦に0-2で完敗。その敗戦を機に、指揮官は「自分自身がどんなサッカーをやりたいかを選手たちに話した」という。システムを3-5-2に変更して臨んだ、3日後のJリーグYBCルヴァンカップでサンフレッチェ広島相手に見せた戦いぶりは、まさに長谷川監督が目指すサッカーそのものだった。
前へ――。
アグレッシブが服を着たような指揮官は、その意識を名古屋に植え付けようとしている。それは昨シーズンまで率いたFC東京でもそうだった。何度も聞いた「インテンシティ」「ファイト」「ハードワーク」といったフレーズは今でも耳に残っている。指導したどのチームでも、ボール扱いが達者な選手を必死に走らせ、戦わせてきた。名古屋でも、そうなるものだと思っていたが、どこか遠慮していた節があったのかもしれない。だが、ここにきてリミッター解除といったところだろう。ここ2試合は、しつこいくらいの激しさを求める健太イズム全開の名古屋へと変貌しようとしている。
東京時代に語った言葉で、印象深く残っているフレーズがある。
「チームづくりをしているとね。カチッと音がなるときがあるんだよ、カチって。パズルがはまるみたいにね」
その音を鳴らしたのは、きっと丸山祐市の復帰だろう。前節の鹿島アントラーズ戦後、「彼が戻ってきたことが立ち位置の変更に至った」と、口にしているからだ。新たな名古屋の設計を紐解いてみると、それがよく分かる。3-1-4-2の立ち位置だが、中央は非常に堅牢だ。ボールを相手に握られると、中を閉じてそこから外へと押し出していく。アンカー脇を狙う相手に対しては2枚のインサイドハーフを引かせるだけでなく、役者がそろった3バックが積極的に飛び出して埋めるカタチも採っている。このことからも、チーム全体が前への意識を強く持っていることが分かる。
そして、ボールの移動中にスプリントして前線からボールをハントする、おなじみの健太流“ファストブレイク”も健在だ。柿谷曜一朗や、金崎夢生といったテクニック自慢が二度追い、三度追いしながらボールの出所を封じてくる。マテウス カストロを最前線に置く狙いもそこにあるはずだ。鹿島戦でも、そのショートカウンターが最大の決定機となった。前半28分に、稲垣が相手ゴールキーパーのパスを敵陣でさらい、そこから仙頭、マテウスとつなぎフィニッシュに至っている。
とにかく前へ、前へ、相手ボールでも勢いよく出てくる。本当に前のめりな、あのよく知るサッカーだ。
この生まれ変わった名古屋と東京はどう戦うのか――。
答えは一択だろう。戦い方を変える必要などない。
正々堂々と、これまで開幕前から続けてきたことをやるだけだ。自陣を狩り場にさせないためには、まず際をつくらせない球離れの速さが必要になる。それも、アルベル監督が一貫して求めているところだ。
ボールを走らせて相手を消耗させ、食いつく守備に対しては3人目の動きが有効になる。たとえばウイングが降りてきてできたスペースにインサイドハーフや、サイドバックが飛び出していく。立ち位置を変えて相手を動かす流動的なトライアングルは、まさにポジショナルプレーの真骨頂だろう。試合を支配するためには、失ったボールの即時回収が欠かせない。表裏一体のテーマで、そもそも球際で負けていては名古屋の思うツボだ。
新たなゲームモデルに取り組む両チームも、実装から数か月が経過した。少しずつ色濃くなったスタイルがぶつかる。そこには、日頃の行いがあらわれる。
そして、大事なことなので、以前書いたコラムの話をまたしつこくしようと思う。これはおかえり、ただいまの話ではない。
「複雑?」
いやいや、名古屋を率いる長谷川健太監督に真っ向から勝負を挑まなければいけない。それは熱い、熱い指導者から教わった、フットボールのマナーだからだ。さあ勝負だ、健太さん。
Text by 馬場康平(フリーライター)