5シーズンぶりに腕章を巻いた森重真人は変容を遂げるチームのなかで、キャプテンとしてチームをいかに導こうとしていたのか――。チーム最古参選手が飾らない言葉で、今シーズン覚えた手応えの中身を言葉にしていった。そこに並んだのは、リアルなトーキョーの変化だった。
乗り越えた最初の壁
Q、まずは、今シーズンもお疲れ様でした。変化に富んだこの1年で、チームはどう成長したと思いますか?
A、開幕前は選手全員が、新鮮な気持ちで新たなサッカーに意欲的に取り組めていたと思っています。実際、このサッカーをやりたいと思っている選手も多かったと思う。もちろん試合を重ねる中で、理想と現実の差を痛感するときもあった。ときには戸惑いや、迷うこともあったと思います。また、出場機会の有無で、それぞれが異なる感情を持っていたかもしれない。そうした経験をしながらも進んできた。時間がかかることも理解していたので、キャプテンとして信じ続けよう、とにかく疑わないようにしようと思ってきました。試合結果によっては、疑いの目も向けられる。そういうときでも、チームが一つの方向に向かってやり続けることを意識してきました。シーズン終盤を迎えて、少しずつ自信を持って試合ができるようになってきたし、どうにか形にできつつあるという手応えもつかめています。1年を通していろんなことを乗り越えても、また新たな課題に直面してきた。それでも運任せではなく、自分たち次第でどうにかしてきたからこそ、そうした新たな壁もみんなで前向きに乗り越えていけたんです。そういったいい循環も生まれたという意味で、開幕前に想定していた最初の壁はうまく乗り越えられたと感じています」
Q、苦しい時期もあったと思いますが、どうやって乗り越えたのでしょうか?
A、監督の提示したサッカーを最善の方法として、みんなで取り組もうと決めて今シーズンをスタートしました。シーズン途中にはいろいろな思いはあるけれど、監督を信じて自分たちも足並みを合わせないと、どこかで疑心暗鬼に陥ってしまう。技術的なことよりも、そこを揃えられたことが一番大きかったと思います。
Q、5シーズンぶりのキャプテンで、チームがうまくいかないときにどう振る舞えるかは一つのテーマでした。
A、経験ある選手たちが文句を言いだすと、良くも悪くも若い選手たちが影響を受けてしまう。まずは年長者がしっかりとした姿勢を見せることで、年下の選手の不安を取り除き、やっていることは間違っていないんだということを示すことができる。今は、自分の理想としている集団にはなりつつあるなと感じます。課題があれもこれもあって、手がつけられないという感じではない。自分たちのやろうとしているサッカーに対して議論を交わしながら一つひとつ課題をクリアにしてきました。毎日、純粋に楽しく練習もできているし、厳しさもある。そこは(長友)佑都君の影響が大きいと思うし、(東)慶悟みたいにやるべきことがわかっている選手たちも揃っていた。そういう僕たちベテランに、(渡邊)凌磨や、(塚川)孝輝のような選手がしっかり反応してくれた。それを見て後輩たちも自分たちも同じように振る舞わなきゃいけないとなる。サッカーに対する純粋な姿勢や、まず行動に移すこと、同じ目標に向かうことがチーム全体としてうまくできていたと思います。
チームを支えた2人の存在
Q、練習終わりに長友選手と一緒に2人で走っている光景がおなじみになってきました。
A、オレは、佑都君に引っ張られてきました。自分が年を取ったと思っても、隣には日本代表でワールドカップをめざしている人が一つ年上にいるから(笑)。やっぱり自分は、まだまだだなって思わせてくれる。周りから35歳で頑張っていると言われるけど、『いやいやもっとすごい人がうちにはいるんだよ』ってなるから。あの人が隣にいてくれたのは、個人的にも大きかったです。
Q、長友選手は、これまでどのクラブでもチームのために行動を移してきました。そんな彼がいることで、チームの支えになっていたはずです。
A、めちゃくちゃ大きいです。僕も何があっても監督批判や、ネガティブな発言はしないと決めて今シーズンをスタートさせました。時間がかかることもわかっていたし、どこかで不満が噴出したらまずいという場面も必ずくると思っていた。でも、一番影響力がある佑都君がふとしたタイミングで『いいチームになってきたよ』と、言ってくれる。佑都君の言葉には、みんなが耳を傾けてくれるので、めちゃくちゃありがたかったし、キャプテンとしてもやりやすかったです。
Q、東選手は苦しみながらも、自分の居場所をつくった選手でした。
A、慶悟が文句を言ったり、チームに悪影響がある振る舞いを見せたことは一度もなかった。試合に出られない時も一番黙々とやっていたし、そういう姿をいつも見せてくれていた。それは今年に限らず、今までの慶悟を見ていてもすごくわかる。自分のポジションがどうであろうが、やるべきことに集中できる選手なので。慶悟の存在もこのチームには大きかったです。
Q、そうした経験のある選手発信で、コミュニケーションの輪が広がったのも今シーズンの特長でした。
A、今取り組んでいるサッカーには、話さないと解決できないことがたくさんあります。細かなすり合わせも必要で、受け手と、出し手の関係や、左右どちらの足にパスを出すのかに至るまで細部にこだわらなければいけない。多岐にわたって話し合わないと作り上げられないものだからこそ、話す機会も自然と多くなっていきました。それも、今やっていることを楽しく思えたからこそ、選手間で主体的な議論ができました。ここはやり続けながらも、ここはもっと突き詰めないといけないとか。その先の成功体験も味わえたからこそ、もっとやろうと議論もより活発になっていったと思います。
2023シーズンは充実のその先へ
Q、シーズンを通して不安定な戦いが続いた一方で、言い換えれば悪い試合が続かなかったことも今季の特徴だと思います。
A、今までのベースがあったことも大きかった。新しくやることだけでなく、今までの自分たちの良さもあった。特に、守備面において強度高く守備をすること、モチベーション高く試合に臨むこと、1対1で負けないこと。そういうところが薄れていくと試合に負けることが多かった。攻撃だけに偏ると、立ち返る場所もなくなる。何をしていいのかわからなくなってズルズル負け込んでしまう。でも、これまでの成功体験がこのチームには残っています。今までの自分たちの強みと、今取り組んでいることの強み。その二つがあるからこそ、うまくバランスを微調整しながら戦えたのかなと思います。長いシーズンでは、内容的には勝ちゲームでなくても勝点を拾えた試合もあった。そこから、少しでもいい時間帯を長くしようと努力もしてきた。そういった試合で何かヒントを得ながら積み上げもできた。それぞれの試合の敗因もハッキリしていたので、同じミスは2回しないという流れもできていたのだと思います。
Q、アルベル監督が求めていることは非常にシンプルだからこそ、膨大な余白も残されている。それを埋めていくことさえ楽しめるようになってきましたか?
A、そうですね。でも、完成することはないだろうと思うからこそ、楽しいと思えるのかもしれません。練習をしていても試合をしていても新たな発見がある。こんなに楽しいなと思いながらサッカーをするのも久々だなって思います。
Q、では、来シーズンに向けた課題はどう感じていますか?
A、やっぱり点を取るところ。その精度が一番かなと。こういうサッカーだからこそ、最後はクオリティと個人のアイディアが必要になってくると思います。
Q、得点パターンや崩しのカタチが、チームで共有できればさらによくなりそうですが?
A、そこは、もう少し先の段階だと思います。ある程度、現状では後ろからのビルドアップもできてきて、中盤を経由してボールをつないでゴール前まで運べるようになってきた。シーズン終盤は引いた相手からゴール奪うところで、躓いているという印象だったと思う。ボールを保持しながら、この場合はこのスペースが空くということも、パターン化して話し合えばできてくるとは思う。今後、そうした課題が出てきたときに、またみんなで乗り越えていければいい。
Q、では、東京をどんなチームにしていきたいと考えていますか?
A、スタジアムに観に行きたくなるチームに変わりつつあると思っています。だからこそ、観ていて楽しいサッカー、ワクワクするサッカーをやり続けたい。サッカーは点を取ることで、一番盛り上がるスポーツ。そうしたところに、みんなで挑戦している姿を見せ続けて、もっともっと攻撃的なサッカーができれば、さらに魅力的なチームになると思います。
Q、最後に、今年も1年間応援してくれたファン、サポーターのみなさんにメッセージをお願いします。
A、今年は我慢を強いることも多かったシーズンだと思います。来年はここまで我慢させた分、結果で答えていきたいと思っています。自分たちも、そこが楽しみだし、来年は見ている人にももっと楽しんでもらえるサッカーができると思うので、期待してほしいと思います。1年間応援ありがとうございました。
Text by 馬場康平(フリーライター)