<前節・京都戦のレビュー>
厳しい戦況のなかにも、東京の未来に明るい光が射す瞬間があった。
アウェイ2連戦の2戦目、京都サンガF.C.との一戦は、序盤から厳しい戦いを強いられた。前半5分には早くもゴールネットを揺らされるも、ファウルの判定により難を逃れる立ち上がり。相手の好機をヤクブ スウォビィク選手のビッグセーブで凌ぐなど、相手の勢いに押される形で前半を終えた。
後半に入ると、ややオープンな展開でお互いにカウンターで攻める展開が増えてくる。そうしたなか、着実にフィニッシュにつなげた京都に比べて、東京はなかなか有効なチャンスまで持ち込むことができない。前節の柏レイソル戦で後半に猛攻を見せた展開から一変し、ブロックを敷く相手の攻略に苦しんだ。
そんなチームを活性化したのが、後半12分に投入された俵積田晃太選手と後半33分に投入された荒井悠汰選手だった。
俵積田選手は持ち味の突破力を生かして相手陣内の深くまで切れ込んでいき、ゴール前にラストパスを供給するシーンを作った。荒井選手も、球際の強度に戸惑ってリズムに乗るまでに時間が掛かったが、終盤にはカットインからのクロスでゴール前に鋭いボールを入れてチャンスへとつなげた。
結果としてゴールをこじ開けることはできず、アディショナルタイムに追加点を許す厳しい一戦。勝点をとれなかった悔しさが重く心に残るなか、自分の力でチームを生き返らせよう、ビハインドをひっくり返してやろうという若い力は、唯一残った未来への光明だった。
両翼に立つルーキーが東京に歓喜をもたらす。その日は遠くないはずだ。
<プレビュー>
リーグ開幕戦は浦和レッズを相手に2-0で勝利を収めたが、その後は公式戦3試合で勝利がない。アルベル監督が今シーズンの目標の一つとして掲げる「安定した戦い」の実現には、まだ課題が残る。
一方で、その間にFC東京U-18に所属する2種登録の佐藤龍之介選手をはじめ、多くの選手が今シーズン初出場を飾り、それぞれの第一歩を踏み出した。
前節の京都サンガF.C.戦に敗れた直後、寺山翼選手はピッチに拳を打ちつけた。その時の想いを「試合中もファン・サポーターが声を張り上げて応援してくれているのに、申し訳なさを感じた」と言葉にする。
続くルヴァンカップのセレッソ大阪戦に0-1で敗れた時、野澤零温選手はユニフォームで顔を覆った。試合後には「練習後の自主練で積み重ねはできていた。だから、結果につながらなかったのは残念で悔しい」と悔しさをにじませた。
若手の台頭で新しい姿を見せつつある東京が、今節は横浜FCをホームに迎える。横浜FCの司令塔は東京のアカデミーで育ち、誰よりも青赤を愛した三田啓貴選手。味スタの熱気と東京の強さを肌で知っている相手を前に、ふがいない戦いはできない。ここから上昇気流に乗るためにも、求められるのは勝利だけだ。
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[アルベル監督インタビュー]
Q、ルヴァンカップのセレッソ大阪戦で負けましたが、内容は良かったと思います。明日の横浜FC戦にどう繋げていきたいですか。
A、セレッソ戦のポジティブなポイントは、決定的なチャンスを8回ほど作れたことです。ボール保持率は大きく下回ってしまいましたが、相手がボールを保持していたところは危険なゾーンではありませんでした。そういう意味では、ボール保持率に関しては気にしていません。改善点として、チャンスは作れましたが、もう少しボールを保持し、我々自身が試合を支配しなければいけませんでした。
新潟では、よりボールを保持することにこだわりを持っていました。今、東京で取り組んでいることの方が、より難易度は高いと思います。ボールを保持するのか、前に早くいくのかというところのバランスを保つことがやはり難しいです。ただ、今我々は良い方向に進んでいることは間違いないという実感がありますし、心配していません。ルヴァンカップで若い選手たちが、活躍したことも我々にとっては良いニュースです。彼らのパフォーマンスを踏まえ、彼らが十分リーグ戦でもチャンスを与えられるにふさわしい選手だということを証明してくれました。
これまでプレー機会に恵まれていなかった、徳元悠平選手、野澤大志ブランドン選手、木村誠二選手など良いパフォーマンスをしていた選手が複数いたことも、我々にとってはポジティブなポイントです。だからこそ、試合に負けたことにある種の怒りを感じました。一方で、満足している自分もいました。東京の未来が明るいことを実感できた試合だったからです。
Q、ベンチメンバーの選択肢が広がることで、後半の戦術変更の幅が広がり、監督としてもポジティブな要素になったのではないでしょうか。
A、後半からだけではなく、スタートからも良い加速ができることにつながっています。交代が5人できるというルールが、やはり大きく影響しています。試合終盤30分という長い時間のなかで、試合が劇的に変わる展開があると思います。これまでも途中出場した渡邊凌磨選手や、安部柊斗選手、塚川孝輝選手が、後半に途中出場をして試合の流れを劇的に変えたということは記憶に新しいと思います。渡邊選手、安部選手、そして松木玖生選手も不在ということはとても残念ですが、ルヴァンカップで選手たちが良いパフォーマンスを見せてくれました。ベンチに置くメンバーに選択肢が増えることももちろんですし、チームのなかでポジション争いのレベルが高まったことは良いニュースだと思います。俵積田晃太選手、寺山翼選手、荒井悠汰選手など彼ら若い選手も十分リーグ戦でも活躍できるレベルを持っていることを証明してくれたと思います。松木選手も熊田選手もまだ19歳や18歳で彼らの活躍も期待したいです。東京にはたくさんの若手選手が在籍しています。彼らの成長を引き続き促し、東京の将来を担う選手に育ってくれることを願っています。
Q、俵積田選手に明確な武器であるドリブルをどう使って欲しいと思っていますか。
A、俵積田選手と荒井選手は、彼らに初日から求めているプレーををしっかりとやれていると思います。前線で、特にサイドで1対1を仕掛けていく選手は大胆にプレーし、失敗してもやり続けろと伝えています。それをしなければ、プレーチャンスなんか巡ってこないぞと初日から伝えています。私は若手選手が好きだから起用しようと思っているわけではありません。ただ、若い選手で、ハングリー精神を持っている選手、それをしっかりと表現する選手は、成長を助けたいと思います。だからこそ、ハングリー精神を持つことを若手選手に求めています。ハングリー精神を持ち、勇気を持って大胆なプレーをすることしか求めていません。二人はしっかりできていると思いますし、寺山選手も含めて良い方向に進んでいます。彼らの成長を促していきたいと思わせてくれています。若手選手が本気で成長したい、活躍したいと思っているならば、私は彼らを支える準備があります。年齢を少し重ねた20代中盤から後半の選手には高いパフォーマンスを求めます。外国籍選手には違いを見せるプレーを求めます。
Q、戦術面では何を求めていますか。
A、守備の戦術を学ぶのは簡単です。俵積田選手は、大きな武器があります。1対1をうまく活かせと伝えているだけです。1対1の明確な状況で守備のサポートが来ていないのであれば、どんどん仕掛ける。カバーリングが遅れているのに勝負しないのであれば、そんな選手を必要としません。1対1の状況だから仕掛ける、取られたら当然ベンチでは監督が怒鳴っている。それに耐えないといけない。でもやれ、と。監督の私が怒っていても、それは聞き流して、またやり続ける。そういったことを彼に求めており、それをやっていると思います。
[選手インタビュー]
<中村帆高選手>
Q、ルヴァンカップのセレッソ大阪戦を振り返ってください。
A、大会によってモチベーションが変わることは一切ありません。リーグ戦は考えず、C大阪戦で全部出し切ることだけを考えていました。ルヴァンカップでは、メンバーも大きく変わったので意思統一を図ったりと戦術を確認できる時間がほとんどありませんでした。難しい試合になると思っていましたが、東選手が先頭に立ち、まずは戦うところはぶらさずにできたと思います。特に前半は、攻め込まれる時間もありましたが、全員でしっかり守り、自分たちの良い流れも作れたと思います。失点に関しては、自分も反省しなくてはいけないところがあります。シュートまで行くことができても、前半に1点を取らないとあのような展開になってしまいます。C大阪はその1点を確実に取ってきました。改めてゴールを奪うまでがサッカーだと思いました。個人としても、チームとしてもっと追求していかなくてはいけないと感じました。
Q、キャプテンマークを巻きましたが、何を意識しましたか。
A、キャプテンは、これまでの公式戦含めて人生で初めてでした。変にキャプテンらしく声を出してプレーをしようと考えても無理だと思っていたので、いつも通りのプレーを心がけました。後半は特に攻めこまれる時間も多く、チームとして耐えなければいけない時間があって、みんなも疲れが出ていて陣形が間伸びしていました。キャプテンマークを巻いたことで、苦しい時間帯にキャプテンの一言で少しでも軌道修正したり、チームを引っ張ることの重要性を改めて感じました。森重選手、ディエゴ選手、東選手の存在が、本当に頼もしく感じました。色々な苦労が凄くあったと思いますが、今も東京を引っ張ってくれていますし改めて凄さを感じました。
Q、横浜FCは東京から移籍した選手もいますがどのような思いで臨みたいですか。
A、三田啓貴選手や中村拓海選手など自分たちを知っている選手が二人もいることは凄く脅威になると思います。実際に横浜FCの中心選手でもあるので、やりづらさもあります。今、自分たちは公式戦で2連敗しています。怪我人もいるなかで厳しい状況ではありますが、それを言い訳にはしたくないですし、こういう時こそピッチに立った選手が戦う姿勢をしっかり見せたいです。
Q、中村拓海選手の存在はいかがですか。
A、ポジション争いをした仲間として、本当にリスペクトをしています。自分とは対局にいるプレースタイルだと思いますし、日々プレーを練習で見て勉強していました。中村選手も、自分の武器を見ていたと思いますし、お互いが持っていない武器を持っていました。毎日がすごく刺激的でしたし、ポジション争いでは負けたくない気持ちで毎日練習していました。そういう選手が敵としているので、より負けたくない思いがあります。まずは、チームが勝てるように頑張りたいと思います。
Q、離れた期間もあり、お互いがどれだけ成長したかを見せる場所でもあると思います。
A、あまり意識はしていません。中村拓海選手が上手いことは知っています。J2リーグを経て、J1リーグに戻ってきて、変わっていても僕はあまり驚かないです。それぐらい凄い選手だと知っています。なので、勝つことでしか、自分を納得させられない部分があります。ですが、そこはあまり考えずにプレーしていきたいと思います。
Q、今シーズン、どの試合も相当熱量を持ってプレーしていると思いますがいかがですか。
A、今年は絶対に、どんなことからも逃げたくない気持ちがあります。目の前の相手に絶対負けたくないです。弱さがある自分からも逃げたくないですし、覚悟を持って戦いたいです。ただその結果として、柏戦では退場になってしまいました。長友選手や森重選手からも声かけられましたが、情熱と冷静さを常に共存させることが重要だと言われました。そこは本当に身をもって体感しましたし、本当に良い勉強になりました。チームには凄く迷惑をかけてしまいましたが、この経験を絶対に無駄にしてはいけないと思っています。あの経験を2節にできたことで、さらに自分は成長できたと思っています。ですが、熱いプレーは絶対に変えたくないですし、戦う気持ちは絶対に変えたくないと思っていますし、そこは上手く頭は冷静に、心は燃やして頑張りたいと思います。
Q、今シーズン熱量を持ってプレーするきっかけは何ですか。
A、今までは、自信を持ってプレーしているつもりでも、自信がなかったり、最後のとこで弱い自分が出ていました。そんなメンタリティでは上なんて絶対に行けない、ギラギラ感が足りないと長友選手にずっと言われていました。今シーズンは、自分への自信のなさやネガティブに考えてしまう部分を全部取っ払い、気持ちを全面に出してやっていきたいです。長友選手が今シーズンもプレーすることになりましたが、1試合もスタメンを渡すつもりはありません。本当にそのぐらいの覚悟がないといけないと思います。
Q、その気持ちが背番号2を背負ったことにも表れていますね。
A、背番号2は、歴代のすごい先輩方がつけてきて凄く重い番号です。プレッシャーもあります。今までは37番でプレッシャーを負いたくない思いがありました。ですが、そのメンタリティだといけないですし、撥ね返すくらいの強い選手にならないと、最終的に辿り着きたいステージにはいけないと思いました。そこで覚悟を持って「2」をつけようと決めました。それが今、気持ちの面に出ていると思います。
Q、長友選手から「ギラギラ感」について言われたのはいつ頃ですか。
A、昨シーズンから言われていました。長友選手が右サイドバックでずっと出場していて、それを理由に自分はもう無理だと逃げていました。それを長友選手に見透かされていました。長友選手がワールドカップ後に引退するかどうかの時、このまま引退してしまったら、どうすればいいだろうと思っていました。モヤモヤする時間だったのですが、続けることが決まり、長友選手が「もう、お前に任せた」と言ってくれるくらいにやらないといけないと思っています。今シーズン、東京でやると決めた時にそういう覚悟でサインしました。最近「やっと燃えてきたな」と言ってもらえました。本当に感謝しています。もっともっとギラギラ感を出していきたいです。
<東慶悟選手>
Q、J1リーグ通算350試合出場おめでとうございます。
A、ありがとうございます。
Q、今シーズン、4試合を終えた時点での感想をお願いします。
A、開幕戦で浦和に勝利し、柏戦は引き分け、京都戦はアウェイで敗戦となったため好調とは言えないスタートです。課題をしっかりと見つめ、改善しながら上をめざしていくことが重要だと思います。今は怪我人がいたり、松木選手が代表でいなかったり、バタバタしている感じがあります。なんとかみんなで乗り越えていきたいと思っています。
Q、アルベル監督体制2シーズン目で、東選手は引き続きアンカーの位置でプレーしています。2シーズン目で意識を変えた部分はありますか。
A、昨シーズンに積み上げてきたものを今シーズンは継続しないといけません。めざすサッカーもですが、勝負にこだわる部分や最後の質、勝負どころでこだわらないといけないシーズンですし、僕も含めて突き詰めないといけないと思います。チームの改善とともに、そういう部分も一つひとつクリアしていきたいです。
Q、相手チームも東京がボールをつないでくることを分かってきて、守備でプレッシャーが強くなっていると思います。相手の変化を感じることはありますか。
A、相手も自分たちのサッカーをしてきます。前からガンガンくるチームや強度を高くプレッシャーにくる相手が続いていると思います。相性はもちろんありますが、自分たちのやれることをやらないといけないです。スタイルだけでなく、最後のディテールはどの試合でも重要になります。3試合終えてみて、そこはカギになると改めて思いました。
Q、練習に対してはどんな気持ちで臨めていますか。
A、個人的に普段の練習や試合がすごく楽しいです。そういう感覚でやれていますし、1シーズンを通してやり続けたいと思います。これが勝利につながるとより楽しい部分が広がってくると思いますし、そういうシーズンにしたいです。
Q、J1リーグ通算350試合出場達成についてお聞きしたいと思います。まずは率直な感想をお願いします。
A、実感はあまりないですが、振り返ると初出場の記憶は今でも残っています。初出場は大分トリニータ時代の埼玉スタジアムでのアウェイ浦和戦でした。あれから350試合出場はあっという間だったと思います。試合以外にも多くのストーリーがありここまでやってこられました。関わった全ての人に感謝したいです。改めて家族の存在の大きさが分かりましたし、ファン・サポーターや選手、監督には本当に感謝したいと思います。一人ではここまでこられなかったですし、これからもそういう人たちの支えでもっと試合に出場できるようにやっていきたいです。
Q、350試合のなかで、特に印象に残っている試合はありますか。
A、間違いなく初出場の試合だと思います。「75試合目を覚えているか」と言われても確実に覚えていないです。100試合、200試合と記念はありますが、プロになって初めて出た試合は印象深いです。あの時の気持ちを忘れてしまっていたら今はありません。あの時の気持ちを思い出す節目として300、350試合があると思います。350試合出場と言われ、改めて1試合目の時を思い出すことが良いと思います。
Q、東京で印象に残っている試合を挙げるとすれば何ですか。
A、たくさんあり過ぎて難しいです。勝った試合はもちろん嬉しいですし、負けた試合もとても印象に残っていたりします。
Q、J1リーグは1シーズン34試合しかないので、フル出場を10年やっても350試合にはいきません。そう考えると、すごい記録だと思います。ここまで安定して試合に出続けられた理由や秘訣はありますか。
A、秘訣は多分ないと思います。毎試合、試合に向けて準備とケアをしてきました。僕だけの力ではJ1リーグで350試合出場は無理だったと思いますし、自分で言うのも変ですが、すごい記録だと思います。多くの人の支えがあり、ここまでこられたということは間違いないですし、実感もしています。サッカー選手として体が動く限り、心が保つ限りやっていきたいと思います。
Q、ここ最近の東京は若手選手の活躍が目立っていると思います。350試合に出場した経験から若手選手に「こういうところを見て欲しい」と思うことがあればお願いします。
A、言葉ではなく、いつも僕がクラブハウスでやっている姿を見て何かを感じ取ってくれたら嬉しいですし、そこは見て感じて欲しいと思います。特別なことしているわけではないですが、当たり前のことを毎日やってきて、今につながっていると思います。一人でも二人でも自分のやっていることから何かを感じて、未来につなげてくれたら嬉しいです。
Q、今シーズンから声出し応援が全席で解禁となりました。開幕戦は約40,000人のファン・サポーターが入り、久しぶりに味の素スタジアムが良い雰囲気に包まれました。2019シーズンのコロナ前に戻った感覚はありますか。
A、開幕からすごく良い雰囲気を作っていただき、アウェイでも多くのファン・サポーターが駆けつけてくれました。パワーになると改めて感じました。声援がないことが当たり前になっていたので、声のある応援が新鮮に感じると思いました。やはり、サッカー、スポーツはあのような雰囲気のなかで試合をすることが一番だと感じました。声援によって良いプレーが引き出されると思いますし、もっと引き出して欲しいです。応援してくれる人のためにももっと全力でプレーしたいと思います。