<マッチレビュー>
この1週間、東京は激動の時間を過ごしてきた。14日にアルベル監督が退任し、16日にはピーター クラモフスキー監督の就任が決定。しかし、新監督のチームへの合流は20日以降となるため、ルヴァンカップグループステージの最終戦、京都サンガF.C.との一戦は安間貴義ヘッドコーチが暫定で指揮を執ることになった。
プライムステージ進出に向けて非常に難しい状況ではあるが、東京としてこの先、目の前の試合の一戦一戦に勝ちにいく姿勢は変わらない。試合前日、森重真人キャプテンは「アウェイまで来てくれるファン・サポーターのために戦っている姿勢を見せ、勝利を届けないといけない」と言葉に力を込めた。
次のステージに進むために勝利は最低条件。今シーズン、公式戦ではわずか1勝しかしていないアウェイゲームで意地を見せ、3シーズンぶりのタイトル奪還へ向けて正念場の試合に臨んだ。
東京は、安部柊斗選手と松木玖生選手のダブルボランチに加えて渡邊凌磨選手がトップ下に入る陣形でスタート。右サイドバックには小泉慶選手が入り、ここまでルヴァンカップの全試合でスタメン起用されてきた野澤大志ブランドン選手がゴールマウスを任された。
1stHALF—森重魂の一撃と仲川の巧な一撃
安間貴義ヘッドコーチのもと、サッカーのベースとなる戦う姿勢の部分を見直してきた東京は、立ち上がりから高い集中力を見せる。前半5分過ぎには3本連続でコーナーキックを獲得。その3本目、松木選手のボールに合わせたのは森重選手。高い打点のヘディングシュートでネットを揺らした。ゴール後、チームメイトが歓喜で駆け寄るなか、背番号3はベンチに一直線に向かって安間ヘッドコーチと喜びを分かち合い、ベンチメンバーとも喜びを共有した。
しかし、先制点を奪ってからは京都のプレスに苦しむ。中盤でのコンタクトプレーが増え、ボールを保持できなくなり、マイボールを失ったところからカウンターを受けるシーンが目立った。そして前半18分には、左サイドの深い位置まで侵入されると、クロスボールをクリアし切れずに平戸選手に同点ゴールを許した。
試合が振り出しに戻ってからもゲームのテンションは落ち着かない。両チームのアグレッシブな姿勢が良い意味で目立ち、互いにぶつかり合う好ゲームの様相を呈す。そのなかで東京は前半28分にチャンスメイク。相手をペナルティエリア付近に押し込んだ展開から、焦れずにボールを動かしてスペースを探ると、松木選手がペナルティエリア右サイドのスペースを縦に仕掛けてゴール前に折り返す。これを仲川輝人選手が逆サイドネットに決めて、再びリードを奪った。
その後、両チームともにゴール前の攻防はあったがスコアが動くことはなく、東京が1点のリードを保ったまま試合を折り返した。
2ndHALF—リードを守り切りプライムステージへ進出
後半から京都がディフェンスラインの2選手を入れ替えたのに対し、東京は選手交代なくスタートする。
五分五分の展開だった前半を受けて後半の主導権争いが注目されるなか、東京がギアを上げて強度で相手を上回る。
後半4分、前線からディエゴ オリヴェイラ選手、塚川孝輝選手、渡邊凌磨選手が次々と連動してプレスをかけると、渡邊選手が奪い切ったボールをゴール前まで運び、最後はフリーのディエゴ選手へラストパス。ゴールキーパーも渡邊選手に引き寄せられるなか、ディエゴ選手が冷静に流し込んでリードを広げた。
2点のリードを得てからは、東京がある程度余裕を持って試合を進めていき、ピンチの場面では野澤大志ブランドン選手がファインセーブでゴールを守った。
終盤に突入してからは、反撃に出た京都に押される展開になるが、森重選手とエンリケ トレヴィザン選手が中央を固めて集中力を高く保って撥ね返し続ける。
7分のアディショナルタイムに入っても出足の鋭さが落ちることなく、ボールを失えば全員で守備に奔走し、押し込まれた際には素早くプレスバックしてボールサイドに寄せ切って京都に好機を作らせない。
最後まで集中力を切らさず、3-1でタイムアップを迎え、公式戦の連敗を3で止めるともにアウェイゲームでは4月22日のリーグ戦第9節のサンフレッチェ広島戦以来の勝利を挙げた。
ルヴァンカップグループステージの成績はガンバ大阪に次ぐ2位ながら、全5グループの2位集団の中で上位3チームに入り、プライムステージへの進出が決定。試合後、スタジアムには『眠らない街』のチャントが響き渡り、選手、スタッフたちがファン・サポーターと喜びを分かち合った。
MATCH DETAILS
<FC東京>
STARTING Ⅺ
GK野澤大志ブランドン
DF小泉慶/森重真人/エンリケ トレヴィザン(後半45+5分:土肥幹太)/長友佑都
MF安部柊斗/松木玖生/渡邊凌磨(後半19分:東慶悟)
FW塚川孝輝(後半19分:俵積田晃太)/ディエゴ オリヴェイラ(後半25分:ペロッチ)/仲川輝人(後半25分:野澤零温)
SUBS
GK児玉剛
DF徳元悠平
GOAL
前半8分:森重真人/前半27分:仲川輝人/後半4分:ディエゴ オリヴェイラ
<京都サンガF.C.>
STARTING Ⅺ
GK若原智哉
DF麻田将吾/井上黎生人(後半0分:アピアタウィア久)/白井康介
MF金子大毅/谷内田哲平(後半20分:福岡慎平)/山田楓喜(後半25分:宮吉拓実)/平戸太貴/佐藤響(後半0分:福田心之助)
FWパトリック(後半20分:木下康介)/木村勇大
SUBS
GK太田岳志
MF松田天馬
GOAL
前半18分:平戸太貴
[安間貴義ヘッドコーチ記者会見コメント]
Q、試合を振り返ってください。
A、この地に、背中を押しに来ていただいたファン・サポーターのみなさんに本当に感謝しています。何よりも難しい一週間でしたが、何よりも次に進まないといけない試合で、しっかりと次に進めたこと、勇気を持ってプレーしてくれた選手たちに感謝したいです。
Q、4-2-3-1を採用した理由とボールを早く前に入れて動かしていくゲームプランはどう決めたのかを教えてください。
A、今いる現状の選手で勝ち進まないといけないとなった時に、この布陣が一番ベストだと思いました。安部柊斗選手と松木玖生選手を近くに置くことで、離れずにできたスペースに流動的にみんなが出たり入ったりできたと思います。さらに、センターバックを合わせることで安定したボールさばきができたと思うので、2点目のようなスペクタクルなゴールが生まれたと思っています。なおかつリスクマネジメントの部分で、ずっとカウンターを受けていたので、さらにプラス1枚で受け止めようという意図でした。もちろん、すべてのカウンターを防げるわけではありませんが、前半の最後のようにみんなで戻ってきて防いだ場面は、最近はなかなか見られなかったプレーだったと思います。攻撃の迫力はもちろんですが、守備の迫力をあれだけ出せたのは久しぶりですし、軸にしてやっている部分なので良かったです。
Q、選手たちが解放されたようにプレーしていたように見えました。強調したことは何ですか。
A、今週、ハードな練習もしましたし詰め込む作業もしました。それに対して選手がすごく良い反応をしてくれて、『どうだ?』と聞くと、『試合をするのが楽しみ』と返ってきていました。試合前からそういう姿勢を示してくれていました。
Q、主力選手が多く並んだなか、ゴールキーパーには野澤大志ブランドン選手を起用しました。
A、ルヴァンカップはこれまで全試合を野澤大志ブランドン選手で戦って来ているわけですから、この試合だけ逃げるのではなくて、野澤大志選手にもう1回挑んでもらおう、と。後半の交代については、攻撃の意図が多く、そこは今までの選択と変わらないですね。
[選手インタビュー]
<森重真人選手>
Q、試合の振り返りをお願いします。
A、選手全員の気持ちを感じた試合でした。90分とおして、強い気持ちで臨んだことがこのような結果に繋がったと思います。どのような形であれ、勝つために臨んだ一戦でしたので、何が何でもゴールを決めたかったですし、(先制点は)その気持ちがボールに乗ってくれたと思います。今日のような全員でゴールを奪う、ゴールを守る姿勢を継続したいと思います。
Q、一度は追い付かれましたが、下を向くことなく戦う姿が印象的でした。ピッチ内で今までとは違う雰囲気が漂っていたと思います。
A、全員が足を止めることなく、攻守においてハードワークしていました。ひとつのボールを必死に追いかけ、相手のゴールをめざし、勝利のために90分間戦えたことは、結果に関係なく良かったと思います。
Q、試合後のインタビューでは「安間ヘッドコーチのために」と話していました。あらためて安間ヘッドコーチへの想いを聞かせてください。
A、安間ヘッドコーチとは、これまで色々なことを話し合いましたし、苦しい時もともに戦ってきました。僕だけではなく全員が、支えてくださっていた安間ヘッドコーチのためにも勝ちたい、という強い想いが試合中のプレーにも出ていたと思います。
Q、チームとして新たな一歩を踏み出せたような試合でした。ここからの試合、どのようにチームとして高めていきますか。
A、今日のような一体感を継続して、さらに高めていきたいと思います。新監督の就任も決まっているので、今日のようにチームとして戦う姿勢をもっと見せていきたいです。ファン・サポーターのために、熱く戦う姿で示していきたいと思います。
<仲川輝人選手>
Q、すばらしい形で崩し、ゴールが決まりました。振り返ってください。
A、松木玖生選手に感謝しています。あとはチームとしてのボールのつなぎ方や崩し方など共有していた部分が試合で表現できました。それが結果につながりました。みんな気持ちが入っていたので、やっと点がとれましたし、勝つことができて良かったです。
Q、前回の試合、ガンバ大阪戦では「自分のせいだ」とかなり悔しがっていました。
A、そこまで意識していませんでしたが、チームのみんなに様々な感情や想いがあるなかで、それが出てきた結果がこの勝利だと思いますし、どのような状況になっても苦しい時にみんなで乗り越えられる集団が強いチームだと思います。このような険しい壁を越えて、チームがやろうとしているサッカーで勝利できました。90分間をとおしてできていたわけではありませんが、前半は特に良かったと思いますし、後半の入り方も勢いを持ってゴールを取れました。チームが最低限やろうとしていることがしっかりと表現できた勝利だったと思います。
Q、この勝利を次にどのようにつなげたいですか。
A、勢いというか、気持ちを出してみんなで戦ったこの試合を、アウェイの地に忘れていかないようにしないといけません。次はホームで試合がありますし、これから強い東京として巻き返していくためにも、全試合勝つつもりでいかないと目標も達成できませんし、ファン・サポーターも満足してくれないと思うので、すべての試合で勝つために戦いたいと思います。特に今シーズンはアウェイで1勝しかできていなかったので、やっとファン・サポーターの応援に報いることができたと思っています。
<野澤零温選手>
Q、勝利している展開で試合に入りました。どのようなことを意識していましたか。
A、勝っていましたし、チームのスタミナが落ちてきている時間帯でもあったので、自分がもう一度ギアを上げてエンジンをかけて、「もっといくぞ」という気持ちで臨みました。
Q、これまで出場してきた試合ではご自身に厳しい評価をすることが多かったと思います。今日のプレーについてはどのように評価していますか。
A、ウイングで出場して、前線での起用でしたので当然ながら点を獲りたいという気持ちもありましたが、プレスをかけたりボールを回したりというプレーで貢献できたかなと感じています。個人的な結果は残せませんでしたが、チームの勝利への貢献という点では、これまで出場した試合以上にできたかな、成長できているのかな、と思っています。
Q、ハーフタイムにはファン・サポーターから名前を呼ばれていました。期待の表れだったと思います。
A、あのように名前を呼ばれると、期待してくれているんだなと感じますし、選手としてももっともっとファン・サポーターのみなさんに喜びを届けられるように、と気持ちも高まります。いつも支えてくださるみなさんのサポートに結果でしっかりと応えられるように、もう一度突き詰めてやっていきたいと思います。
Q、野澤零温選手が出場してチームが勝利した試合が、安間貴義ヘッドコーチの指揮だったことに想いがあるのではないですか。
A、安間ヘッドコーチが自分に色々なことを教えてくれて、今回、自分のことを信じてメンバーに入れてくれて、そして試合にも出場させてもらいました。信頼をしてもらったなかでこうして勝利という結果を出せたので、その点ではひとつ期待に応えることができたのかなと思います。ただ、個人的なところでまだまだ突き詰めないといけないことがたくさんあるので、もっと成長して、安間ヘッドコーチだけではなくて支えてくれるスタッフやファン・サポーターのみなさんに恩返しできるようにやっていきたいと思います。