25年の軌跡 vol.6<br />
進むべき道

COLUMN2023.10.12

25年の軌跡 vol.6
進むべき道

「もっともっとビッグになって、世界一のサイドバックになって、また青赤のユニホームを着て、この(味の素スタジアムの)ピッチに立てるようにしたい」

2010シーズンのあの涙声のスピーチからずいぶんと時が経った。長友佑都から始まった青と赤から世界への流れは、その後も加速していった。

2019シーズンには雨降る味の素スタジアムで、レアル マドリードへと移籍する久保建英がマイクの前に立った。

「日本に帰ってきてから、今までほぼ東京でやってきて、最初はあまり練習とかも行きたくなくて、つらい時期もありました。良いことばかりではなかったですけど、こうやって一人前のサッカー選手として、東京を背負って世界に羽ばたいていけることを非常に誇らしく思います。東京に来てから4年半になると思いますが、(ヨーロッパに)行きたくなくなるくらい濃い時間だったと思います。苦渋の決断ではありましたが、自分の決断に誇りを持って、また東京での時間を自分は忘れないので……本当にありがとうございました」

その言葉を置き土産に、旅支度を整えて機上の人となった。


それぞれが荷物に夢や希望を詰めて旅立っていく。久保にも見据える目標が存在するというが、「でも、それを口にしてもできなければ意味がない」と、言葉にはしてこなかった。そんな彼が、東京時代に唯一語った夢がある。

「誰もが子どもの頃に憧れた選手がいる。いつか自分もそういう選手になりたい」

当時描いた原稿は『久保建英が、転がるボールに胸を焦がす子どもたちの新たなロールモデルとなる日は、もうそう遠くない未来なのかもしれない』という一文で締めた。

それからさらに年月を経てワールドカップカタール大会のピッチにも立ち、今シーズンはレアル ソシエダの一員としてUEFAチャンピオンズリーグの舞台でも戦っている。間違いなく子どもたちの憧れの対象となった、“TAKE”はさらなる冒険をここから見せてくれるはずだ。

そして、先陣を切った長友はあれから11年後の2021シーズン夏に約束を守り、再び東京に帰ってきた。だからこそ、このクラブが大切にしてきた思いや誇りを言葉にしてきた。


「諦めない姿勢や、スピリットを見せないといけない。それが東京の伝統でもある。そうしたいろんなモノを受け継いできた僕たちが示さないといけない。前に前に出て躍動感のある動きと、ひたむきな姿勢にサポーターは心を揺さぶられて感動するのだと思う。それを届けていきたい」

四半世紀の時を刻んだ青赤が進むべき道を指し示す大きな背中がある。長友佑都や、久保健英を育んだ土壌は、次なるサイクルへと入った。

Text by 馬場康平(フリーライター)

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25年の軌跡 vol.1 忘れてはならないこと
25年の軌跡 vol.2 初タイトルまでの道のり
25年の軌跡 vol.3 青い東京
25年の軌跡 vol.4 降格と昇格で得られたもの
25年の軌跡 vol.5 進むべき道