365 -成長の分岐点-

COLUMN2024.5.08

365 -成長の分岐点-

「みんなが助けてくれたので結果で恩返しをしたかったのですが、不甲斐ないプレーになってしまいました。いちから見つめ直してこのピッチに戻ってこられるように練習したいと思います」

2023シーズン5月6日。北海道コンサドーレ札幌戦。試合当日のスターティングメンバーが札幌ドーム内で発表される。

安斎颯馬”の名前がアナウンスされると、東京側の応援スタンドからは歓声と拍手が沸き起こった。


北の大地で、いわば“サプライズ出場”を果たした安斎颯馬選手だったが、試合は1-5の大敗。完膚なきまでに叩きのめされ、華々しいJ1リーグデビューとはならなかった。

ミックスゾーンで悔しさを滲ませながら冒頭のコメントを残した安斎選手は、J1リーグの舞台、プロの世界の厳しさを胸に、スタジアムを後にした。



札幌で味わった悔しさを糧に、一つひとつ歩みを止めることなく前進した安斎選手。

今シーズンに入ると、1月の沖縄キャンプと宮崎キャンプに参加。2月には、早稲田大学に在学中ながら2025シーズンからの加入内定を1年前倒してプロ契約を締結。クラブの期待も感じ、予定よりも一足早くプロの世界に足を踏み入れた。

その期待に応えるかのように、右肩上がりの成長曲線を描き続けている。リーグ戦開幕から数試合はベンチを温めることが多かったが、第6節の浦和レッズ戦でスタメン起用されると、攻守において躍動。出場停止となった第9節のFC町田ゼルビア戦を除いて6試合にスタメン出場し、自らの実力をピッチで示してポジションを勝ちとった。


時は流れ、J1リーグデビューからちょうど1年が経った、2024シーズンの5月6日。

昨シーズンと同日、同カードとなった札幌戦。

この一戦を控えた安斎選手は「あの試合は、ピッチ上でどん底を味わいましたし、非常に不甲斐ない試合でした。“今シーズンの東京は違うな”と感じてもらうには絶好の相手。成長した姿を結果で示したいです」と、1年越しのリベンジを誓った。

その視線からは、虎視眈々と勝利を渇望する熱量を感じた。



満を持して臨んだ札幌戦。この試合も右ウイングの位置でプレーした安斎選手は、前半開始早々の3分に決定機に関わる。仲川輝人選手の中央突破に並走し、ボックス付近でボールを受けると、右足を振り抜いてシュートを放つ。相手ゴールキーパーにセーブされてしまったが、攻撃における積極的な姿勢が試合早々に形になった。

そして真骨頂でもある攻守両方での関わりがチームに勝利を呼び込む。

後半20分、敵陣深い位置でクイックリスタートを仕掛けた札幌ディフェンス陣のパスのズレを見逃さず、安斎選手がボールにチャレンジしてインターセプト。ディエゴ オリヴェイラ選手、仲川選手と細かくボールを繋ぎ、ディエゴ選手がゴールに流し込む。東京に3連勝を呼び込んだ逆転ゴールは、安斎選手の一瞬の隙を見逃さない判断が、12シーズンぶりの札幌の地での勝利を手繰り寄せた。


まさに有言実行の活躍。昨シーズンからの成長過程が垣間見える活躍を結果で示した。

試合後に安斎選手はこのように答えてくれた。

「昨シーズンの今日、札幌ドームでJ1リーグデビューをして、とてつもなく悔しい想いをしました。あの日味わった悔しさは、今日までの原動力になっていたと思います。あの試合を一度も忘れたことはないですし、あの試合の経験は僕自身を奮い立たせるパワーです。自分があの日から積み上げてきたものが全てではありませんが、実った瞬間でした。ですが、この試合に勝つことだけがサッカー人生のすべてではありません。ここをまた新たなスタートラインにして、一歩一歩進んでいきたいと思います」。

見つめる先はまた新たなプロサッカー選手としての景色。5月6日という日が、成長を証明するメモリアルな一日になった。


ここから長く続いていくであろうサッカー人生を振り返った時に、きっと5月6日がターニングポイントだったと思い出せるはずだ。

安斎選手の成長が、東京を次のステージに押し上げる。