<前節・サガン鳥栖戦のレビュー>
「自分の前にこぼれてこい!」
そう願っていた背番号8の前に、絶好機が訪れる。
走り込みながら彼が心掛けたのは、しっかりと抑えてキックを枠に飛ばすこと。コンパクトに振り抜いた右足から放たれた一撃は、ブロックに来た相手選手の股を抜き、浮き上がるような弾道でゴールネットに突き刺さった。
1点を追いかける後半37分に決めたゴールは、低く、鋭く、そして力強い同点弾。高宇洋選手にとっては、これが味の素スタジアムでの初得点となった。
だが、彼の表情に笑顔はない。逆転で4連勝を達成するべく、小さくジャンピングガッツポーズをしながら自分のポジションに戻っていく。そしてピッチに両ひざをついて両拳を握り締めて雄叫びを上げ、逆転勝利への強い意識を自らに、そしてすべての青赤に伝播させた。
その想いが伝わったのか、一気に攻勢に出る東京。スタジアムにも逆転ムードが高まっていく。身体を投げ出したブロックやファインセーブを見せていた守備陣、そして途中投入された選手たちも攻撃で存在感を見せていた。
だが、懸命に守るサガン鳥栖を最後まで崩しきれずに、試合はこのままタイムアップ。リバウンドメンタリティを発揮しながらも逆転には至らず、1-1の引き分けに終わった。
「ラスト10分は逆転できるチャンスや雰囲気をみなさんも感じてくれていたと思うし、僕たちもそれを感じながらやれていた。だからこそ決め切れないといけない。味スタで勝ち切れないのは自分たちの弱さ。とても悔しい」
試合後の笑顔なきインタビュー。同点ゴールを決めながらも勝てなかった悔しさが募る彼の表情には、4連勝を逃した無念さが詰まっていた。
<マッチプレビュー>
インターナショナルマッチウィーク明けの初戦は、“金J”開催となるアウェイのヴィッセル神戸戦。週明けに神戸がAFCチャンピオンズリーグエリートを戦うことを受けて、金曜開催のナイトゲームに日程が変更された。
10月5日に行われた明治安田J1リーグ第33節サガン鳥栖戦は、相手のハイプレスと5バックに攻めあぐねる前半、徐々に対応して主導権を握る後半という展開になったが、先制されて追いつきながらのドロー。味の素スタジアムでまたも勝ち切ることができず、今シーズン初のリーグ戦4連勝をめざした一戦で悔しい引き分けに終わってしまった。
しかし、決して内容面をネガティブに捉える必要はない。後半は各ポジションで攻守に選手個々が持ち味を発揮。連勝中に見せていた良い守備から良い攻撃への転換を見せるシーンもあり、勝利を手にできなかった一方で東京らしさを発揮できた点は前向きに考えたい。
対する神戸はリーグ戦6連勝中。首位のサンフレッチェ広島に勝点1差まで迫っている状況だ。前線からの積極的なハイプレスを武器に圧力を強め、鋭いカウンターで一気にゴールを陥れるスタイルは変わらず。経験豊富な選手たちに牽引され、前年度王者が連覇に向けてラストスパートをかけてきた。
アウェイに乗り込む東京は今節、センターバックの木本恭生選手が警告累積で出場停止となるため、最終ラインの再編成が求められることになる。試合のポイントは相手の果敢なプレスにどう対処していくのか。しっかりと後方からボールをつなぐだけでなく、状況を見ながらリスクを回避してロングキックで神戸のプレスを無効化し、ポストプレーの活用や鋭く裏のスペースを突く攻撃も視野に入れておきたい。ここは連勝中に見せてきた臨機応変さが問われる試合になりそうだ。
リーグ戦の連勝は3で止まってしまったが、4戦無敗とチーム状況は上向きにある。優勝争い中の神戸にしっかりと青赤の実力を示すことで終盤戦、そして未来につなげていきたいゲームとなる。
[ピーター クラモフスキー監督インタビュー]
Q、サガン鳥栖戦は相手の堅い守備もあり、引き分けに終わりました。
A、試合ごとにチャレンジがあります。鳥栖戦は最初の20分間が非常に難しい試合展開でした。耐える時間も多くありましたが、うまく戦い、前半終了にかけてポジティブに戦うことができていました。後半に入り、試合の流れやリズムをうまく掴んで戦うことができていたと思います。ですが、隙を与えてしまい、相手に先制点を与えてしまいました。それでも選手たちはそれぞれの個性を発揮し、諦めずにすべてを出し切ってくれました。それが同点ゴールに繋がったと思います。
Q、今節はヴィッセル神戸との一戦です。
A、神戸は昨シーズンのJ1リーグ優勝クラブですし、直近の試合でも多くの勝利を積み重ねています。そのような良い流れに乗り、戦っているからこそ、神戸は上位に位置しています。今節はアウェイでの一戦になります。彼らの勢いを警戒する必要もありますが、我々にも直近の試合で掴んだ良い流れがあります。我々がしっかりと戦えることを示していきたいと思います。強いメンタルと強く戦い抜く力、自分たちの決まりごとを表現するだけだと思います。
Q、攻撃力の高い相手にどのような対策を講じますか。
A、神戸には非常に能力の高い選手が揃っていますが、自分たちが相手のどこを突いて、どのようにゲームをコントロールするかが一番大切なことです。ディフェンディングチャンピオンと戦うことへのリスペクトは当然ありますし、神戸も連覇に向けて激しく戦ってくることが予想されますが、まずは我々の戦い方にフォーカスすることです。勝点3のためにすべてを出し切ります。
[選手インタビュー]
<ディエゴ オリヴェイラ選手>
Q、直近の試合ではチームとして、多くの点をとることができています。この中断期間でどのような積み上げを行いましたか。
A、今、縦の関係を組んでいる荒木遼太郎選手はクオリティの高い選手なので非常にプレーがしやすいです。この数試合だけでなく、今シーズンは彼がチームに良い影響をもたらしてくれていると思います。今も非常に良い関係が築けていると思いますが、まだ5試合あるのでさらに良い関係を築いていきたいです。
Q、リーグ戦8試合負けなしで現在2位のヴィッセル神戸との試合になります。どのように臨みますか。
A、昨シーズンも優勝していて、現在も2位で優勝争いをしているとても調子の良いチームです。もちろんアウェイということで、非常に難しい試合になると思いますが、私たちも直近4試合では3勝1分と非常に良い流れに乗っています。ディフェンディングチャンピオンなので、もちろんリスペクトの気持ちを持って試合に臨みますが、試合に勝つのは私たちです。
Q、リーグ戦も終盤になり、ここから上位に食い込むためにも残りの試合が重要になってきます。
A、残りの試合が少なくなり激しい試合も増えてきました。疲労も溜まってきていますが、トレーニングや練習試合を通して良い雰囲気のなかで準備をすることができています。もっとも良い状態で神戸戦に向けて準備をしていますので、ファン・サポーターのみなさんに勝利を届けられるように全力を尽くします。
<野澤大志ブランドン選手>
Q、直近の試合では安定した守備が連勝に繋がりました。
A、直近の試合では3連勝などもありましたが、誰一人として現状に満足している選手はいません。ですが、ゲームをコントロールする局面は増えてきている手応えはありますし、点をとるタイミングやうまく試合を進めることができない時間帯でも全員で意識を合わせたディフェンスができています。ゲームの組み立てや作り上げる過程の部分で、ハッキリとプレーができていたと思います。
Q、前節のサガン鳥栖戦では難しいゲーム展開を救うビッグセーブもありました。
A、僕たちが攻守において試合を支配して勝ち切ることが一番の理想ですし、そこをめざしています。鳥栖戦は0-0の時間が続いたなかで相手に先制を許し、引き分けという結果に終わってしまいました。ここから上位をめざすためには、自分たちが主導権を握って、結果に繋げるサッカーを意識していきたいです。
Q、野澤大志選手個人としての手応えはいかがですか。
A、僕自身、もっともっとできると思っています。相手のシュートやボールの持ち方をはじめとする分析もそうですし、ビルドアップや準備のところなど、攻守におけるボールへの関わり方を味方と声を掛け合いながらさらに高めていきたいです。チームが勝つために、個人のクオリティを高めていきたいと思います。
Q、タレントが揃う攻撃陣、多くの得点パターンを持つヴィッセル神戸を相手に警戒するポイントを教えてください。
A、非常にタフな相手ですし、耐える時間帯も必然的に出てくると思います。隙を与えないこと、良い状態や良い選択、チームとしての決まりごとを表現することが重要です。簡単ではない相手に対して、守備の決まりごとを忠実に行うこと、イレギュラーなシーンになった時に、いかに柔軟に対応できるかが問われると思っています。非常に緊張感のある一戦ですが、その緊張感を楽しみたいと思います。