度重なる怪我との苦しい戦いが
明るい未来につながると信じて
人に、選手にストーリーあり。2024シーズンを戦い抜いた全青赤戦士を選手ごとに紹介する『2024 PLAYER’S REVIEW』。果たして彼らはいかなる想いを抱えながらシーズンを過ごしていたのだろうか。自信、手応え、課題、喜び、悔しさ……。それぞれが送った今シーズンの戦いを、本人の言葉を紡ぎながら振り返る。
新たなポイントゲッターとして大きな期待を集めて東京に加わった小柏剛。怪我がちな体質を改善すべく開幕前のキャンプから肉体改造に臨んだが、出場した試合では印象的なプレーを見せながらも度重なる負傷に悩まされ、シーズンを通じてピッチに立つことは叶わなかった。ピッチに立てば一定の手応えはあったものの、自分自身でも“稼働率”の低さは納得できていない。それでもチームのため、未来のために背中で引っ張り続けてきた男の青赤初年度とは、どのようなものだったのか。
ため息が日を重ねる毎に深くなる。小柏剛はそんな懊悩(おうのう)とする時間をこう振り返る。
「個人的には満足なんていっていないし、納得いかないシーズンだった。自分自身にも期待していたし、周りにも期待してくれる人がいた。それに応えられず残念でしかない。不甲斐ない気持ちで一杯だし、一番は試合時間のところ、そこは(怪我の)課題を克服できていないし、残念に思われても仕方がない」
明治大学時代からの数年越しのラブコールが実り、大きな期待を背負って今シーズンから青赤に袖を通した。
古巣の北海道コンサドーレ札幌ではプロ入りしてから怪我を繰り返し、満足に戦えたシーズンは限られていた。だからこそ、新天地ではそんな体質を改善するべく、開幕前から一人チームの輪を外れてトレーニングを積むなど我慢を余儀なくされた。辛抱強く自らの肉体と向き合い、迎えた明治安田J1リーグ第9節FC町田ゼルビア戦では移籍後初得点も挙げた。「さあ、ここからだ」と期する想いはあったが、その試合で負傷退場して再び戦列を離れてしまう。
「出場した時は良いプレーを見せられたと思うし、自分自身ももう少し時間があればと思うところはあった。試合に出られない選手は、出ているどの選手よりも評価は低くなる。そもそもスタートラインに立てていないことは反省しないといけない」
そう吐き捨てたことは何度もあった。ただし、怪我との付き合い方はここ数年で身に付いていた。小柏は「絶対に慣れちゃいけないことだけど……」と前置きした上で、復帰に向けたプロセスを一歩ずつ踏み重ねた。その間も「このチームに新しい風を吹かせたい」と言い続けてきた。
その成果が第29節サンフレッチェ広島戦で表れた。3点ビハインドの後半26分からピッチに立つと、その8分後に反撃の狼煙を上げる約4か月ぶりのゴールでチームに火を点けた。結果的に2-3で敗れて6戦未勝利となったが、この一陣の風がチームを上昇気流に乗せる契機を作った。
「チームをベンチや外から見る機会は多かった。スタジアムやDAZNで試合を見ながらこのチームに何が足りないかとか、自分が入ってどういうプレーをするかは明確になっていた。それを広島戦で出すことができて得点にも表れたし、スイッチを入れられたと思う。それは良かったと思うけど、ああいうプレーを年間通じてやれればチームをもう一つ上のステージに上げられる。それが小柏のやりたいプレーだと思ってくれればうれしい。そういうプレーを年間とおしてやれればいい」
その後も復帰と離脱を繰り返した。小柏がいれば……、怪我がちな体質という足枷を外してもっと自由にボールを追いかけられたら……そんな場面がシーズンをとおして何度もあった。一番悔しいのは本人だろう。「せめて」と、自分に言い聞かせるように明るい言葉を吐き出す。
「何かのきっかけや道標になれればいい。もがいているのはみんな一緒。僕が入ってこのチームの攻撃陣を引っ張っていきたい」
明日伸び上がるために、今日を縮んできた──。苦しんだ小柏が導く彼の地には、きっと青赤の希望が待っている。
Text by 馬場康平 (フリーライター)