手にした向上心

INTERVIEW2025.6.11

手にした向上心

青赤からSAMURAIBLUEへ。FIFAワールドカップ26北中米大会のアジア最終予選に東京から長友佑都、俵積田晃太の両選手が選出。それぞれ夢の舞台に向かう二人のチャレンジを青山知雄氏が現地レポート。今回は初招集組で唯一となる2試合出場を果たした俵積田選手のインドネシア戦を現地独占取材。試合だけにとどまらず、彼が今回の代表活動で得たもの、そして東京での今後に向けた想いもお届けします。


夢の続きは、すぐに訪れた。

後半33分、市立吹田サッカースタジアムのピッチサイドに背番号20が立つ。憧れだった青いユニフォームに袖を通し、初めて国内で日本代表としてピッチへと送り出された。その背中には肩幅を目いっぱい使って記された「TAWARATSUMIDA」という13文字のネーム。製作期間の関係でアウェイのオーストラリア戦は全員が背番号だけで試合に臨んだが、ようやく完成した名前入りの一着を身にまとい、俵積田晃太がホームのインドネシア代表戦で二つ目の日本代表キャップを刻んだ。

極度に緊張しながらスタメン出場し、縦への果敢な突破を見せた代表デビューから中4日。そこに強張っていた彼の姿はなかった。今回は5-0と大差がついた状態での途中出場だったが、森保一監督に「どんどんガツガツ行け!」と言われた俵積田は「自分らしく、もっと挑戦的に行こう」と覚悟を決めて、積極的に自らの持ち味を披露していく。

そして途中出場からわずか2分後の後半35分、彼の武器が森保ジャパンに6点目をもたらす。

左サイドでボールを受けて縦へと仕掛け、並走する相手ディフェンダーを振り切りニアゾーンへ侵入。ゴールライン際まで持ち運んでマイナス方向へパスを出すと、中村敬斗のシュートがこぼれたところを細谷真大が蹴り込んだ。力強い突破から求めていた“結果”を導き出した。

さらに後半43分には自陣から相手を引き剥がして重戦車のようなドリブルで相手守備網を切り裂くようなロングレンジのドリブルを披露。ここからのラストパスは前線との狙いが合わなかったが、東京で見せてきた本来の“怖さ”を代表のピッチでも存分に見せていく。


後半45分にはまたしてもサイドに張ったところから斜めに強烈なドリブルを仕掛け、ゴールライン際まで持ち運んでコーナーキックを獲得。後半アディショナルタイムには左サイドから中へ持ち出しながら角度をつけたグラウンダーのくさびパスを細谷に当て、そのまま前方へ抜け出して受け直すシーンも見られた。

スタメン出場したオーストラリア戦では積極性が光りながら単騎の仕掛けが目立ったが、途中出場したインドネシア戦のラスト15分間で複数回の見せ場を作ったことは非常にポジティブだ。スーパーサブ的な起用法でゴールに絡み、力強いドリブルと周囲との連携で勝利に貢献できたことも一定の評価に値する。

惜しむらくは後半44分に瀬古歩夢からのロングフィードを右足のアウトサイドでピタリと止められず、ボールがタッチラインに流れてしまったことか。それこそ試合前日に「ファーストタッチが決まれば理想的」と言っていただけに、一気に仕掛けられる場面になっていたはずだ。

今回の6月シリーズは最終予選突破を決めていた日本代表にとって、“新戦力発掘”という側面の強い2試合だった。インドネシア戦を終えた森保一監督は「今回はチーム戦術よりもまずは個の部分で彼らがどういうベースの力、どういう武器を持っているか見たかった」と説明。

俵積田を含む新しいメンバーに関して、「素晴らしい特長を持っているなという印象を受けた半面、まだまだこの代表で選び続けるには力をつけてもらわなければと、練習や試合の中で見受けられるところもあった。絶対的にレギュラーとサブが決まっていないのが日本代表ですが、これまで中心になって結果を出してくれた選手たちとは現時点でまだ差がある」とコメントしながらも、「こんなにやれること、トライできることが増えているんだ、と大きくなっていることを感じさせてもらった。若い選手は一つの経験で一気に変わる。彼らもまた最強の代表でポジション争いに食い込んできてくれることを大いに期待できるシリーズになった」と加えた。

今回の新戦力は来年のワールドカップをめざすチームにおいては“未来”への期待枠。まだまだラージグループの一端を担っているに過ぎないのが現状だが、短期間での大きな成長も感じる活動になった。

俵積田が起用された左ウイングバックで言えば、イングランドのプレミアリーグで2ケタ得点をマークした三笘薫、フランスのリーグアンで争奪戦が巻き起こりそうな中村敬斗が主なライバルとなる。現時点で差があるのは否めないが、今回の代表活動で得た学びを東京へ持ち帰り、世界を意識しながら日常の視座を高めることで成長を加速させることはできるはず。今回の経験を、その大きなきっかけにしなければならない。


俵積田が今回の6月シリーズを総括する。

「今回の代表活動は、自分の成長につながると思います。相手はアジアでしたけど、世界は世界ですし、自分の通用する部分は分かった。逆に課題は突破した後の精度や判断、守備で戦うところ、とより明確になった。これからやるべきことがハッキリしたので、あとはやるだけ。改善できるところが本当にたくさんあるので、一日一日を無駄にせず、自分の力にしていきたい」

今回、初招集された7選手の中で、ただ一人だけ2試合の出場機会を得たのは、森保監督の期待に他ならないだろう。スタメンで、そしてスーパーサブ的な起用で彼の適性を見ながら、成長のきっかけを与えたという見方もできる。だからこそ、ここからどんな成長を遂げられるかが重要だ。

立場が人を変える。緊張を隠せなかったオーストラリア代表戦とは異なり、吹田のミックスゾーンで見せた表情や口ぶりが、短期間での変化を物語っているようにも感じた。

憧れから現実へと変化した日本代表としての活動を終え、再び戦いの場を青赤に戻す。日本中のサッカーファンに名前を印象付け、Jリーグのピッチに立つことになる。俵積田が続ける。

「(今回の代表活動は)自信になりました。この経験を東京に持ち帰って、自分の成長とか、チームの勝利につなげられるように頑張りたい」

そう話してくれた彼に、「日本代表として東京でもしっかりと結果を出して、引っ張っていかなければならないという気持ちが強くなったのでは」と投げかけてみた。だが、そこで返ってきたのは、予想とは全く異なる答えだった。

「そう考えるのが普通だと思いますけど、逆に『自分が一番下手だ』っていう気持ちでやっていきたい。森保監督からもそうやって声を掛けられましたし、自分も強い向上心を持って、貪欲に挑んでいかなきゃいけないと思っています」


一番下からのし上がっていくためには、急激かつ大きな成長が必要だ。自分には成長しかない。成長するしかない──。指揮官は、めざすべき高みには到達できないということを促したかったのだろう。この意識付けこそが、2試合起用に伴う期待の裏返しのようにも思えた。

サイドからゴール脇まで独力で持ち込んでマイナス方向に折り返すことのできる日本人選手はそれほど多くない。未来を視野に入れつつ、森保監督が21歳のアタッカーに可能性を感じたのは必然だったのかもしれない。

短期間で新たな世界を知り、変化を遂げた俵積田晃太が、青から青赤のユニフォームに着替え、強烈な向上心を胸に大きな進化を誓う。

 

(文中敬称略)

Text by 青山知雄
Photos by 新井賢一