2025シーズン後半戦
巻き返しへの覚悟
4月24日に発表されたFC東京の2024年度決算報告。営業売上は前年度を上回ってクラブ史上最高を更新する69.89億円を記録し、前年比で17.9%増。最終利益も7200万円となり、黒字転換を達成した。
経営面で順調に数字を伸ばす一方、チームは2025シーズン前半戦で思うような結果を出せていない。サッカーというスポーツの難しさを味わう結果となっている。
今回の経営レポート前編では、まず2025シーズンの競技面の振り返りからスタートする。さらに今後に向けたチーム編成の観点やクラブとしての取り組みも含めて、川岸滋也社長に話を聞いた。
取材・構成=佐藤 景(フリーライター)
取材日:2025年6月14日(土)セレッソ大阪戦試合前
──昨年度も決算報告が出た直後のタイミングでその詳細について説明いただきました。今年度も各セクションに関する話を伺えればと思います。
先般、発表された決算についてファン・サポーターのみなさんに説明させていただこうと思っておりましたが、我々はシーズンの前半戦を不甲斐ない成績で終えました。今回はまず私から、2025シーズンのこれまでのチーム状況についてお話しさせていただきたいと思います。
──わかりました。では、2025シーズンのフットボール面の話からお伺いします。(取材時点で)ここまで18試合を終えて、消化試合数の違いはありながらFC東京は18位。この成績についての受け止めを聞かせてください。
現状、降格圏にいるのは事実ですから、クラブとして非常に厳しく、深刻な状況だと受け止めています。ここからどうやって挽回していくのかがシーズン後半の戦い方になってくる。そのことに対しては総力を挙げて対応していかなければなりません。
──社長の立場から見ても、シーズン前に描いていたものと、実際の成績は大きく異なっていたと。
FC東京は、目標としてずっと『リーグ優勝』を掲げています。そこに早く到達したいという思いで毎シーズン戦ってきました。そういう点からすれば、現状のポジションはイメージしていたものと大きなギャップがある。それは紛れもない事実です。シーズン前半戦が終わったところで、何が課題だったのかをしっかり精査しなくてはなりません。アカデミー出身の選手が多くピッチに立ち、未来へつながる取り組みはできていますが、そういった部分も大事にしながら、しっかりと勝点を積み上げるための対策を立てて後半戦を戦わなければいけないと思っています。
──想定していたものと成績にギャップが生まれた理由をどう考えますか。
取り組みそのものについては、それぞれのプロセスも含めてしっかりやれた部分がありました。私はそう感じていますが、積み上げたものがある一方で、その一つひとつには足りないものもあったということなのだと思います。
──昨シーズンと比べた時に一番の違いと言えるのは、やはり監督が交代したことだと思います。松橋力蔵監督の就任1年目ということで難しさもあったのでしょうか。
新任の監督というのは、我々に限らずどこのチームでも難しいものだと思っています。もちろん、監督が交代してすぐに結果を出しているチームもありますが、難しい面は確かにある。それでも期待を持ちながらシーズンに入りました。しかし、想定していたよりも成績がついてこなかった。結果から判断すれば、新監督のいろいろな落とし込み、例えば戦術的な選手のパフォーマンスもそうですが、それぞれが少しずつ足りなかった。原因は一つではなく、そういう少しずつ足りないものが積み重なって、結果として現在の成績になったと見ています。
──松橋監督の就任が発表されたのが昨年の12月21日でした。川岸社長が直接、新監督とお話しされたのも昨シーズン終了からしばらく経ってからだったとお聞きしています。他クラブに比べて就任発表が遅かったと思いますが、そのことで2025シーズンの編成に遅れが生じた面はありましたか。
まず編成をどのタイミングからスタートさせるのが正しいのか、正解はないと思います。そのことをお伝えした上で、ご指摘の面が全くないとも言い切れません。まず選手契約の多くは複数年契約です。そうなると、どうしても前任監督が望んだ戦力やメンバーを引き継いでいく部分があり、そこにプラスアルファする形で新しい監督の要望に応えながら編成していくのがシーズン前の編成になります。スタートの遅れという表現が正しいかどうかは分かりませんが、そういう流れのなかで、就任から編成に関してやれることは、ある面では限られていたところもあったかもしれません。
ただ、これは明確にお伝えしておきたいのですが、監督には2種類のタイプがいると思っていて、それは具体的な補強の要望をされる方と、強化部門が候補を提示して、その中から選択される方です。松橋監督はどちらかと言えば後者のタイプだと思いますし、その意味では12月からチーム編成に動き始めるなかで、いろいろと候補を出しながら話し合って進められたと思っています。
──6月に設定された特別登録期間(ウインドー)で積極的に動いた印象を受けます。室屋成選手、長倉幹樹選手、アレクサンダー ショルツ選手、キム スンギュ選手の獲得についても狙いを教えてください。
松橋監督がめざしているサッカーを端的に表すなら“主導権を握るサッカー”ということになります。その点はクラブの方針と合致していて、主導権の握り方についての考え方は監督によって異なると思いますが、ここまでのシーズンでしっかりと積み上がっているものがあると考えています。
例えばゴール期待値を見てみると、クラブで使用しているデータでは昨シーズンよりも改善が見られます。ただ、結果としてのゴール数は減っているので、ゴール前まで迫ることができていて、可能性のあるシュートを打っているにもかかわらず、チャンスを活かせていないということになります。
つまり、松橋監督が表現したいことのうち、チャンスを作る部分は表現できていたということです。その点はしっかり押さえた上で、課題にフォーカスし、その部分を解決することを考えました。それが後半戦に向けて取り組むべきことで、6月の特別登録ウインドーでどう動くべきかの指針にもなっています。
──長倉選手の獲得は一つの解決策だということですね。通常の登録ウインドーがオープンする7月7日ではなく、今回特別に設定された6月に積極的に動いた理由は、一刻も早く戦力を追加する必要があったという理解でいいでしょうか。
今シーズンは前半にかなり試合が詰まっていますから、7月のウインドーまで待つと、かなりの試合を消化してしまう。正直に言えば、5月17日に行われた明治安田J1リーグ第17節の浦和レッズ戦で逆転負けした時点で、6月に動けるところは全開で動こうと決めていました。このタイミングで特別登録ウインドーがあったことは、私たちにとっては幸いでしたし、あとで振り返った時に、良い補強だったとなるようにしなければと思っています。

──ショルツ選手の獲得に関しても、守備面を改善するための補強と考えていいでしょうか。今シーズンはセットプレーからの失点が多い印象もあります。
おっしゃるとおり、セットプレーやクロスから簡単に決められてしまうシーンが目立っていました。ディフェンスの部分をどう立て直すのかも大きな課題で、ディフェンスでリーダーシップをとれる選手、統率できるリーダーを求めていこうと考えていました。森重真人選手もそういうタイプですが、そこへもう一人、経験豊富なショルツ選手が加わってくれたことは非常に大きいと感じています。彼はパスを出せる選手でもあるので、後ろからしっかり組み立てて主導権を握る松橋監督が志向するサッカーに合っていると思います。
室屋選手、キム スンギュ選手も含め、レギュラーを争える四人を補強できたことでチーム内の競争力も上がります。私たちに必要だったのは、後半に向けてパワーアップして戦える体制を整えることでした。そのためにはJリーグを知っていることも補強条件に入っていました。イチから日本に馴染んでもらう時間の猶予はありませんから。予算の問題もありましたが、MIXIに相談しながら、予算の枠を広げて四人を獲得できたということです。非常に強い危機感を持っていますが、後半戦の試合数を考えると、まだまだ上位に食らいついていくことができる。早く抜け出して順位をしっかり上げていきたいと思っています。


──室屋選手はドイツから復帰しましたが、6月は他にも小川諒也選手(シント=トロイデンVV→鹿島アントラーズ)や安部柊斗選手(RWDモレンベーク→ガンバ大阪)といった、かつてFC東京でプレーしていた選手が海外クラブからJリーグに復帰しました。彼らを獲得する考えもあったのでしょうか。
先ほど、FC東京はアカデミー出身の選手が多いと話しましたが、長くともに歩んできた選手が海外に出ていくケースは、これからもたびたび経験することになると思います。そして彼らが日本に帰ってくる時に再び東京でプレーしてもらうためには、タイミングが一つのポイントになると思います。例えば今年で言うと、橋本拳人選手や室屋選手については、帰ってくる時期を確認しながら準備ができました。一方で小川、安部の両選手は、予想していたよりも早く帰ってきた部分もありました。彼らともコミュニケーションはとっていましたが、まだ海外でプレーする選択肢も残っていると把握していたので、こちらの準備が整わなかったのは正直なところです。そのなかで彼らへ非常に良いオファーがあったと。選手自身の人生ですから、今回の彼らの選択を尊重したいですし、そういう状況も受け入れざるを得ないと思います。今後もこういうケースは起きるだろうと覚悟もしています。
すべてのケースでクラブやファン・サポーターのみなさんが望む形での復帰を実現させるのは難しいもので、受け止めていくしかないと思っています。ただ、できる限りのことはやっていきたい。FC東京から巣立って、海外で活躍して帰ってくるというストーリーは素晴らしいものですし、そういった経験をチームに、そしてクラブに還元してもらいたいという想いもあります。そういうストーリーは私自身、いくつあってもいいことだと思っていますから。
──もう少しフットボール面の話を聞かせてください。6月の日本代表の活動では長友佑都選手に加え、俵積田晃太選手が初選出されました。クラブにとってはどういう意味がありますか。
まずは個人的に非常にうれしいですし、クラブとしても喜ばしいことだと思います。アカデミーの存在は我々の伝統的な強みと言えますが、今シーズンのトップチームのメンバーを見ても、その特長がよく表れています。アカデミー出身で多くの選手がプロになり、俵積田選手は代表にも選ばれた。年代別の代表に選出されている小林将天選手や北原槙選手もそうですが、そういう選手たちの存在はアカデミーの選手たちの刺激にもなります。クラブとしてもそういう話題は、多ければ多いほど認知が広がっていくわけで、歓迎すべきことです。おかげさまで、これまでに4度のJリーグ最優秀育成クラブ賞をいただいていますが、こういう流れを絶やさないように、引き続きアカデミーの充実も図っていきたいと思っています。

──俵積田選手はオーストラリア戦でいきなりスタメンデビューを飾りました。実際に代表戦を見た感想はいかがでしたか。
嬉しかったですが、緊張していましたよね。個人的には「もっとやれるだろ!」と厳しめに見ていました。全力でアピールしてもらいたかったですし、俵積田選手はそれだけの力を持っている選手だと思っていますので、今回限りで終わらず、これからも継続的に招集されるように努力してもらいたいです。それはクラブで活躍することが招集の条件にもなると思いますので。
──ファジアーノ岡山に育成型期限付き移籍中の佐藤龍之介選手が俵積田選手と同じタイミングで日本代表に初選出されています。先ほど期限付き移籍についての話がありましたが、これも成功例と言えますか。
現在は岡山に期限付きで在籍している状況ですが、私たちが契約している選手なので当然、彼の活躍は嬉しいですし、岡山で起用していただいて、結果も残して代表に選ばれているわけですから、本当に喜ばしいことです。将来的に東京に帰ってきて活躍する姿を見たいと思っています。
──クラブとしては2026シーズンからスタートするU-21リーグへの参加が決まりました。この経緯も教えてください。
ここまでもお話ししましたが、クラブの特長や特色として、アカデミーの充実があると思っています。そのなかでアカデミー以降のパスウェイをどう作っていくかは、クラブとしても常に課題になっていました。それはJリーグ全体の課題でもあったと思います。アカデミーからそのままトップチームに上がる選手もいれば、大学経由でプロの世界に戻ってくる選手もいます。クラブとしてはトップチームに上がった選手が、それこそ俵積田選手のように1年目から活躍できるケースもあれば、なかなか出場機会を得られず、実戦での成長のチャンスを十分に与えられないこともありました。仮に育成型期限付き移籍に出しても、なかなか使っていただけないケースもあります。もちろん期限付き移籍を決断する時にはどれだけ試合で使ってもらえるかも考慮しますが、結果的に思ったようにいかないケースもあるわけです。そういう課題があったなかで、Jリーグから提案があった今回のU-21リーグは一つの解決策になるだろうと考えました。ですから、参加しないという選択はありませんでした。
──新たなリーグに参加するということは相応の予算も必要になります。
これはみなさんが感じていることだと思いますが、選手の多くは海外でプレーしたいと考えています。サッカーはグローバルなスポーツなのでそれは当然ですし、Jリーグのシーズン移行も、ヨーロッパのシーズンに合わせることで市場を活性化させていく意味合いがあります。この流れは止められないですが、移籍する場合にはクラブへお金を残してもらうことを考えなければならない。それはとても重要なことです。そういう側面があるなかで、今回のU-21リーグは選手の成長スピードを上げ、価値を上げていく取り組みという見方もできます。もちろん運営にコストはかかりますが、その部分はチーム強化、そして将来的な移籍金収入等で十分にまかなえるものだと考えています。クラブにとっては一つの投資であって、しっかりリターンをとっていくつもりでやっていきたいと考えています。昨夏に移籍した松木玖生選手はアカデミー出身ではありませんでしたが、クラブにしっかりとお金を残して移籍しました。
東京はかつてU-23チームを持ち、J3リーグを戦った経験があります。あそこで久保建英選手を始め、バングーナガンデ佳史扶選手や木村誠二選手、岡哲平選手らが出場機会を得て、大きく成長するのを目の当たりにしました。そうした経験からも、今回のリーグは非常に意味のあるものになると考えています。
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♢これまでの経営レポートはこちら
2024シーズン総括 ビジネスとフットボール(前編)
2024シーズン総括 ビジネスとフットボール(後編)
2023年度決算報告とクラブの現在地(前編)
2023年度決算報告とクラブの現在地(後編)