TOKYOism COLUMN VOL.02
tokyoism
Column2019.9.10

YNWA~オレたちは一人じゃない~

青赤の歌唄いたちとの特別な時間がある。
今年から任された、左腕の腕章と、背中の10番は少々重く感じる。
けれど、『You’ll never walk alone』を聴いた瞬間、「オレは一人じゃない」と思える。
夢の時間のその先へ――。
東慶悟と東京ファミリーは歩調を合わせ、共に歩き続ける。
J1リーグ初制覇を目指して。

思いを確かめる試金石

東慶悟のサッカー人生は、おそらく2つに区切られる。昨年までがその前半で、今年から先が後半の部分になるはずだ。それほど、劇的な変化を見せ続けている。 
それは、必然だったのかもしれない。今季の開幕を前に、昨シーズン限りで現役を引退した梶山陽平から背番号10の後継者に指名され、長谷川健太監督からはキャプテンマークを託された。1度に2つの重責を担うことになった東は「正直、重い」と言って、こう続けた。 
「不安は……たくさんある(苦笑)。でも、このチームと一緒に、まだまだ成長していきたいと思っている。それが良い意味でプレッシャーになってくれたらいい。一石二鳥? そうなればいいかなって」 
キャプテンとして、新10番としての果たすべき仕事を問われると、「FC東京を変えたいと言うと、また少し違うんだよね」と言って、少しの間を空けた。「なんだろ……」と言って頭を捻って合点がいくと、「東京を強くしたい。東京で勝ちたい。そう、それだね、やっぱり」と語った。 
加入7年目を迎え、気づけば在籍年数も森重真人に次いで2番目の長さとなっていた。 
「僕がこのチームに加入した時のメンバーで、今も在籍しているのは、数える程度しかいない。そういう意味でも、思いの強い選手が、このチームに残ったのだと思っている」 
移ろう視線を1点に定め、ただ1つの目標を口にする。それは、志半ばで去っていた先達の思いも、しっかりと受け継いだ証しだろう。 
「もうリーグ優勝しかないでしょ。ニュウさん(羽生直剛)や、ナオさん(石川直宏)のような身近な選手が引退して、『自分がこのまま終わったらどうなんだ?』って真剣に考えるようになった。やはり悔いが残ると思った。このまま何もタイトルを獲得できなくて、日本代表でも1試合にも出たことがない。そんなの嫌だなって。自分がそうだったように、人の思いは伝わっていく。今いる僕たちの想いが強ければ強いほど、後から入ってきた選手たちもそれに引っ張られて同じ気持ちを持てると思っている」 
「勝ちたい」と臨んだ今季は、J1リーグ開幕から順調に勝星を積み上げ、第25節終了時点で首位をひた走る。ここから先は、未踏の優勝争いが待っている。不安がないわけじゃない。そもそもチームで、リーグ優勝の経験があるのは、指揮官と、大森晃太郎、丹羽大輝、オ ジェソク、髙萩洋次郎しかいない。 
だからこそ、自らをぶつけたり、擦りつけたり、優勝に懸ける想いの堅さを確かめる試金石のような存在が必要だと感じていた。それを東はファン・サポーターに求めた。その発想は大正解だった。試合後、“あの歌”を聴く度に、「もっともっと」「まだまだ」と思わせてくれるからだ。 
「勝ってユルネバを聴くと、また頑張ろうと思える。またあそこに立ちたい、もっと一緒に歌いたいと思うから。あの光景を見れば、メンバー外の選手たちも、『オレもあそこに立ちたい』と思ってもらえる。それぐらい気持ちが高まる時間だと思う」 

キャプテンのひそかな“タクラミ”

優勝に立ちはだかる壁が、何なのかはまだよくわからないのが本音だろう。この先、感じたこともない重圧を浴びるかもしれないし、恐怖を知ることになるかもしれない。ただ、目に見える壁として今、経験したことがない変則的な日程との戦いを強いられている。
ラグビーのワールドカップ2019日本大会開催に伴い、8月17日のJ1リーグ第23節サンフレッチェ広島戦を最後に本拠地・味の素スタジアムを約3カ月間離れる。そこからアウェイゲームが8試合続く。 
「未知な部分は多いからこそ、みんなで乗り越えなきゃいけない。本当に、ファン・サポーターの声援が力になっているし、首位にいるのも彼らのおかげだと思っている。アウェイの試合にも、少しでも多くのファン・サポーターに来てもらいたい」 
ホームでもアウェイでも変わらず、日常となりつつある「はじまり」と「まんなか」と「おわり」はしっかりと存在している。アウェイの地でもゴール裏に陣取った青と赤の一団がユルネバの合唱で迎え入れ、選手はそれに応えて勝利をつかみとる。そして、一緒になって『希望を抱いて、歩こう』と、次への活力を蓄える。 
「優勝に近づく度に、それが何倍ものエネルギーにもなると思う。もっと浸透してくれば、スタジアム全体で大合唱になっていくはずだから。これが新しい歴史になって、もっともっと根づいていってほしい。子どもたちにも歌ってもらいたいな。いつか誰が聴いても、東京とイコールで結ばれるようになってほしい」 

キャプテン就任から約半年が経過し、先頭に立ってピッチに入ってくる姿は見慣れた光景となった。今年で29歳。折り返したサッカー人生の後半パートは、より彩り豊かになってきている。取材メモに残る言葉の熱量も、純度も日を追う毎に増していく。まだまだサッカーも、FC東京も好きになる一方だ。 
「この半年で若い選手と話す機会も増えて、コミュニケーションの取り方で悩むこともある。まだまだ偉そうなことは言えない。先頭に立って引っ張っていかないと、言いたいことも言えなくなる。そのためにも“今”をしっかりと見せないといけない。いくら実績があっても、今をおろそかにしている選手の言葉は誰にも響かないから。考えることが増えて大変なんだけどね。それが成長につながっているならやっていかないと」 
思いついた計画を共有する時ほど、仲間意識が生まれるものだ。せっかく面白いことをやるなら、一人じゃなくてみんなで一緒にやらなきゃつまらない。それもまたFC東京らしさだろう。

そして、キャプテンには、ひそかな“タクラミ”がある。

「優勝したときは、オレが絶対に健太さんをあの場に引っ張っていきますよ。『オレはいいよ』って言われちゃうんだろうな(苦笑)。でも、それがキャプテンの仕事なんで」


◇東慶悟(ひがし・けいご)プロフィール




text by Kohei Baba
photo by Kenichi Arai,Masahito Sasaki