FC東京U-18奥原崇監督インタビュー
「将来的にトップの主力をアカデミー出身者で固めたい」
JリーグYBCルヴァンカップでは、U-18から今シーズン昇格してきた安田虎士朗選手が起用され、梶浦勇輝選手はゴールも奪ってみせた。また、2種登録選手の東廉太選手と熊田直紀選手も出場機会を得るなど、今まで以上にトップチームにおけるアカデミー出身者の躍動が目立ち始めている。今回は昨シーズンまで5年間に渡ってアカデミーマネジメント部長とアカデミーダイレクターを務め、今年からU-18の指揮官に就任した奥原崇監督に、今シーズンのU-18の現在地やアカデミーの現状と課題、そこから巣立っていく選手たちがFC東京でどういう存在になっていくべきかなど、さまざまな視点から語ってもらう。
Q、奥原監督は2016シーズンにU-15深川を率いて以来、6シーズンぶりの監督業となりますが、率直に復帰してみての感想はいかがですか。
A、統括職(アカデミーダイレクター)を5年間やったので、クラブの中のそれぞれのチームの位置付けですとか、いろいろなものに支えられて現場があることを深く理解できました。その上で、監督がどれだけの重みを持って現場をやらなくてはいけないかという想いは、以前よりも数倍は強く感じながらやっています。
Q、監督の役割自体もこの6年の間でだいぶ変化しましたね。
A、そうですね。やはりクラブ全体が一貫してフットボールを揃えていくことは、僕が深川をやっている時より色濃くなっています。Jリーグの各クラブもそれぞれの色を出し始めている中で、クラブのフィロソフィーに則りながら個を成長させていくところに、自分がどういう関わり方ができるかということだと思うので、新しいことにトライできることが楽しいです。
Q、もともとFC東京で10番を背負っていた奥原監督ですから、このクラブのマインドも良くわかってらっしゃると思います。そういうご自身がU-18の監督を務める意味に関してはどう感じていますか。
A、継承するものと捨てるものがあると思うんですよね。それを理解している人が勇気を持って捨てられるか、新しいものに取り組めるか、というところに自分がやっている意味合いがあるのかなと考えています。凄く大事にしてきたモノを、状況によっては手放さなくてはいけないことも、これからは来るのかなとも思いながら、昔からの歴史を知っている自分だからこそ、そういうことができるのかなとは感じています。
Q、今シーズンのU-18は、プレミアリーグで非常に好調なスタートを切っています。序盤戦の手応えはいかがですか。
A、当然結果も求めるのですが、一番は選手の変化をどれぐらい促せてきたかということを、グランドで表現させたいと思って、1月からいろいろなことに取り組んできました。その中で、選手とも「強いU-18を取り戻そう」と言っているのですが、彼らはジュニア年代やU-15の頃に、今のトップにいる選手が活躍していたU-18がプレミアで優勝していたような時代を見て、そこに憧れて入ってきた選手なので、ここ数年はそういう状況ではなくなっていることに対して、自分たちがそこを取り戻そうと、またはアカデミーの一番上のカテゴリーとして、U-15やスクールの選手たちに憧れられるようなチームにしていこうとしてくれています。選手たちはよくやってくれていると思います。
Q、ダイレクターという立場から監督になられたことで、高校年代の選手に対するアプローチに関して、変化はありましたか。
A、一歩引いた立場で見ていた時に、「もっとこうしたら」という理想はありましたが、実際に関わってみての難しさはあります。ただ、正直もっと技術的なことはユース年代では向上が難しいのかなと、メンタルのところも変化させるのは時間がかかるかなと思っていたのですが、選手たちと関わっていく中で、自分が予想していたよりも変化してくれている手応えはあります。
Q、具体的に言うと、どういう部分が変化し始めていますか。
A、アルベル監督が「ボールを愛するサッカー」とおっしゃっている中で、「ボール保持率を上げましょう」というのであれば、その裏付けになる技術を習得する必要があります。去年自分が外から見ていた時は、「技術的にトレーニングして、どのレベルまで行けるのかな?」という感覚でしたが、「本当に丁寧に積み上げていけば、この年代でもプロになるために必要な技術の習得も十分間に合うんだな」とは感じています。
<ゴールキーパーから繋ぎきった熊田選手の得点>
Q、ちなみに今年のU-18は元気ですよね。
A、僕が最初に言ったのは「元気を出してサッカーをすることが正しいんだよ」「斜に構えたり、カッコつけてクールにやることがいいわけではないんだよ」ということで、「団体スポーツなんだから、仲間と協力してやろう」というところを最初に手を付けたんです。今まで前に出たいのに、周りの雰囲気で潰されてしまっていたような部分の改善として、「大きい声を出そう」「挨拶をしよう」というところから入りました。
Q、現在は7人のU-18の選手がトップチームに2種登録されています。ルヴァンカップでは東廉太選手と熊田直紀選手が試合にも出ていますが、現状のトップチームとアカデミーの連携はいかがですか。
A、アルベル監督が来て、外国籍監督なのでコミュニケーションの部分には多少なりとも不安はあったのですが、まずはキャンプに選手を呼んでもらいましたし、アカデミーを凄く大事にされている方なので、いろいろなものを共有してもらえています。具体的には、東がルヴァンカップに出場した時の映像と、U-18でプレミアに出場した時の映像を見比べながら、安間(貴義ヘッドコーチ)さんと白井(裕之インディビデュアルコーチ)さんと僕と東でミーティングをしました。U-18とトップの守備のやり方には若干の違いがあって、そこを自分自身が学ばせてもらいましたし、それぐらい密に連携を取らせてもらっているので、選手だけではなくて、U-18のスタッフもいろいろなことを学びながら、成長させていただいています。
Q、実際にトップチームの活動に参加した選手たちが受ける刺激に関しては、どのように感じてらっしゃいますか。
A、そのあたりも難しいところで、一瞬は良くなるのですが(笑)、逆に勘違いも入ってくるので、「あ、謙虚さを失っているな」と。それでも、こちらが刺激する材料としてはありがたいです。若い選手たちはいろいろな意味で心を揺さぶられるので、そこを突いていく作業をするわけですよね(笑)。
Q、そこを突いていく作業が楽しいと(笑)。
A、そうですね。すぐ慢心しますから(笑)。
Q、アカデミーからトップに上がった選手の人間性の部分の成長を、今のアカデミーの選手たちに話すことはありますか。
A、「こういう選手はこういう取り組みだった」とか、「この選手は上手いだけではなくて、こういう性格だった」という話はしています。実際に名前を挙げると、トップの練習に参加した時により身近に感じられますし、僕自身がいろいろな選手と関わってきた分、その選手が15歳の時、18歳の時にどういう振る舞いをしていたかという話ができています。
Q、トップにいる蓮川壮大選手は、人間性の部分で秀でていたことがプロの道を切り拓いた印象もあります。
A、壮大はまさにそこが強みですよね。彼はU-15深川の時も、出場機会を得たのは3年生になってからですし、U-18でも明治大でも同じような形でした。ただ、いろいろなものを謙虚に積み上げていけば、そのカテゴリーで最後に勝ち取れるものがあるということは、彼が体現してくれています。東京で言えば、吉本(一謙スカウト)さんのようなマインドを継承してきた中で、壮大や岡庭(愁人)がそういうところを引き継ぐことに近い活動をしてくれていたので、当時は「これでいいのかな」と思っていたのですが、彼らが今トップで少し“引っ掛かっている”ことを考えると、まだまだ足りなかったのかもしれませんし、その理由が何なのかを今の現場に少しでも落とし込めればなと考えています。当時の彼らに対して「これぐらいが限界なのかな」と感じていたことの、さらに先に手を掛けないと、高卒や大卒でトップチームのコアメンバーに入っていくことは相当難しいこともわかってきましたし、アカデミー出身者でトップに昇格する人数は増えていますが、代表選手も海外に行く選手も少ないので、そういうところに踏み込んでいくことは、課題としてやっていかないといけないと思っています。
Q、先日のルヴァンカップのジュビロ磐田戦では、メンバーの中の9人がアカデミー出身者でした。彼らがこれからトップチームの中で占めていってほしい立ち位置を、奥原監督はどのようにイメージしてらっしゃいますか。
A、ひとつはコストのところで、J1の上位で戦い続けるために、どこに予算を掛けていくかと考えると、やはり外国籍選手も含めた主力選手にお金を掛けていくわけですが、それ以外のバックアップの部分で、これから主力やサブに入っていく人材はアカデミーの選手で固めていきたいですよね。それだけの人材は今も預かっていると思いますし、そこは我々がやらなくてはいけないところだと感じています。もう1つは年間を通して、勝敗によって小平の練習場でいろいろなことが起こっていく中で、トレーニングの雰囲気をどう作るかですね。連敗していようが、連勝していようが、苦しい状況でもトレーニングがしっかり成立するような雰囲気を作るのは、アカデミーの選手の使命なのかなということは、最近特に考えるようになりました。
Q、そう考えられるきっかけが何かあったのでしょうか。
A、もともとアカデミーの選手が少ない時代の練習の質を思い出してみると、特に結果が出ていない時の練習でも、その中に吉本さんが1人いるだけで、雰囲気は最低限のレベルから下に行くことはなかったんです。そういうことのできるアカデミーの選手を育てていくことは、凄く大事なのかなと。僕もトップチームを経験しているので、それでも苦しい時期はありますし、どうしても雰囲気が改善できない時もあるのですが、その時にアカデミーから上がってきた選手たちが、そこでひと踏ん張りできるということは、やはり大事なことなのかなと思っています。
Q、吉本さんは偉大ですね。
A、東は吉本さんと会話する機会を意図的に増やしてもらっています。まだ“見せかけ”の部分が多いので、本物のクラブ愛や、本物の謙虚さを少しずつ理解し始めているのかなとは感じています。
Q、そういえば奥原監督も「吉本さん」って呼ぶんですね(笑)。
A、はい。管理職をやったので、コーチ陣も含めて、業務上はみんなに“さん”づけをしています(笑)
Text by 土屋雅史(サッカーライター)