<前節・名古屋戦のレビュー>
東京にタイトルをもたらした長谷川健太氏が監督を務める名古屋グランパスとの一戦。スコアこそ動かなかったものの、お互いのストロングポイントを警戒し合う「戦術的な試合」(アルベル監督)のなかで、日本代表に初選出されたばかりのバングーナガンデ佳史扶選手が躍動した。
相手の強烈なカウンターを警戒し、東京も3バックという布陣を採用したミラーゲーム(お互いに同じ選手配置にすること。鏡で写したように見えることから)は、一見するとゴール前でのシーンが少ない膠着した試合に見えたかもしれない。それでも局面ごとでは、お互いの立ち位置のほんの少しのズレも見逃さずに突いてやろうとする気迫と、一瞬の隙を突いて自分たちの攻撃の長所を最大限に生かそうとする鋭い戦術思考がぶつかり合っていた。
東京は左サイドのバングーナガンデ佳史扶にボールを集めてサイドからの攻撃でゴールへの筋道を探り、名古屋は前がかりになる東京の背後を突いて強烈な個を持つ3トップで一気にカウンターを仕掛けてくる。
東京はクロスボールを入れるところまでは至るものの、ゴール前を固める名古屋の守備網をこじ開けることができない。一方で名古屋のカウンターに対しては、ヤクブ スウォビィク選手のファインセーブで凌ぎながら、ウイングバックが素早くプレスバックしてカウンターを遅らせて決定機での精度を下げる守備を見せた。
今シーズン、急成長を遂げて日本代表まで上り詰めた佳史扶にとっては、結果という点で課題が残ったものの、サイドの攻防で非凡な才能を見せて“青赤の左サイドに新星アリ”を印象づける一戦となった。
<プレビュー>
最近の対戦戦績はここに記すまでもなく、ホーム・アウェイに関わらず、サガン鳥栖という相手そのものが東京にとって難敵であることは明白だ。
今シーズン、鳥栖から加入した小泉慶選手が何度も話してきたように、東京と鳥栖のスタイルは非常に似通っている。徹底してボールを保持し、狭いスペースをものともせずに決定的なパスを通し、ゴールを奪う。守備よりも攻撃に比重を置いたボールとともにプレーするスタイルだ。
今シーズン、ここまでの成績は1勝1分3敗の15位とスタートで苦しんでいるところではあるが、川井健太監督就任2シーズン目で戦術や組織の成熟度は増している印象だ。
似たようなスタイルの対戦となれば、差が出るとすれば組織や戦術の成熟度か、もしくは個人戦術の差か。
前者では、アルベル監督は、就任2シーズン目ということで戦術の深化に取り組んでおり、多彩な攻撃パターンや試合の組み立てができる組織への成熟をめざしている。同じく川井監督就任2シーズン目の鳥栖と状況は似通っており、どちらがボールと試合の主導権を握るのかが鍵を握る。場合によっては、“ボールを握らせる”という駆け引きも試合結果を左右する要因になるかもしれない。
後者では、タレントという点で東京に分があるはずだ。ベテラン、中堅、若手とバランスよくメンバーを揃え、外国籍選手も強烈な個性を持った選手が揃う。ただし、ボールサイドの強度で上回られて一気に勢いに乗せてしまった昨シーズンのアウェイゲームを思えば、個人の能力や戦術に加えて強度も試合を左右する要因になるだろう。
そこで鍵を握るのが、球際の強度で抜群の強さを持つ小泉選手だ。勝利から逆算してプレーすることを信条とする小泉選手は、球際での強度で勝つことを絶対と考えている。中盤の強度で相手を上回り、また熟知する古巣の戦い方を逆手にとって戦術的にも優位な状況に持ち込めるか。小泉選手のパフォーマンスに期待したい。
[アルベル監督インタビュー]
Q、バングーナガンデ佳史扶選手が日本代表の初キャップを記録しましたが、ご覧になりましたか。
A、良いプレーをしていたと思います。冷静でしたし、特に攻撃では良い立ち位置を取ってプレーできていたと思います。日本代表の最初の試合としては十分に評価できるプレーをしていたと思います。
Q、リーグ戦5試合を終えて2勝2分け1敗です。
A、今シーズン、まずは明確に一歩前進する形でスタートできたと思います。ただその後、複数の選手が戦線離脱することは予想していませんでした。松木選手のU-20日本代表の招集、そこに怪我人も重なってチーム全体で苦しみました。その影響もあり、チームに継続性を維持することができませんでした。シーズンは長いので、どのチームでもこのような状況は起こります。今、我々は難しい状況なので、しっかりと乗り越えなければなりません。今この難しいチーム状況のなか、可能な限りより多くの勝点を重ね、上位を維持したいと思います。まだシーズンは始まったばかりで、今の順位というのは決して悪くないと思います。ただ今、同じタイミングで同じポジションの選手たちが不在になるなか、しっかりチーム全体で乗り越えないといけないと思っています。
Q、鳥栖には昨シーズン一度も勝てず、アウェイでは苦しい試合になりました。
A、昨シーズンは、鳥栖、湘南との試合で苦しみました。ただシーズンが終わった時に、彼らを上回る順位で終えました。彼らが良いプレーをしていた時期に我々は対戦をし、彼らは良いサッカーをして我々を上回りました。中盤を相手に支配されたというのが昨シーズンはありました。我々も鳥栖を相手に良い試合ができたかというと決してそうではありませんでした。鳥栖は、ボールを譲ってしまうと良いプレーをする危険なチームです。明日の試合、しっかりと集中して、試合を支配する形で勝利をめざして戦いたいと思います。
Q、鳥栖には、リーグ戦7連敗中です。
A、それは興味深い数字だと思います。ただその数字は改めて、鳥栖の経営規模が必ずしも大きくないにも関わらず、素晴らしいパフォーマンスを継続的に表現している証しとも取れます。それ故にリスペクトする価値があるクラブの一つだと思います。ただ、サッカー界において重要なのは、長いリーグ戦においてシーズンが終わった時の順位です。
Q、ルヴァンカップを見ると松木選手の存在感が大きかったと思いますが。
A、私が彼を評価していることを今さらコメントする必要はないと思います。それと同時に彼が素晴らしい選手であることは誰もが分かっていると思います。
Q、松木選手が日本代表の活動で5月にいなくなる可能性がありますが。
A、おそらく熊田選手も招集されるでしょう。日本代表に我々の選手が招集されるのは成功の一つだと捉えることができます。
Q、松木選手が不在だとアタッキングサードでのサポートの動きに影響が出るのではないでしょうか。
A、松木選手と安部選手は運動量も豊富で、かつ何度もプレスをかけるスプリントができます。同時に昨シーズンからボールを持った時のプレーもレベルアップしています。そのような2人が不在の時は、別の特長を持っている選手たちを上手く活用する形で試合に臨まないといけません。当然、選手の特長に関わらず明確なスタイルがあります。ただ一つひとつの試合において、特長を考慮した形で試合に臨まないといけません。松木選手、安部選手がいる場合には豊富な運動量でプレスにいくことができ、攻撃でも飛び出すことができます。そのような二人がいないのであれば、別の打開策、解決策を見つけるのが、監督である私の仕事になります。
[選手インタビュー]
<小泉慶選手>
Q、古巣・サガン鳥栖との試合になりますがいかがですか。
A、やはり楽しみです。鳥栖では1シーズン半在籍しましたが、凄く感謝しかありません。しっかり感謝の気持ちを持ってプレーできればと思います。相手はどこであろうと、今は東京の一員なので、東京のために自分のできることをやりたいです。
Q、鳥栖を対戦相手にすることになにか思い入れはありますか。
A、一緒にプレーしていた選手ばかりなので試合をするのが楽しみです。どういうサッカーをしてくるかは予想がつきます。一人ひとりの特長や選手の良し悪しも知っているところがあります。楽しみという気持ちはありますが、絶対に負けたくないですし、今は東京で優勝することしか考えていません。
Q、ここから上位にいくために大事にしたいことは何ですか。
A、シーズン中は、怪我人が出たり色々なことがあります。全部ボールを繋いでいくことがいいのか、シンプルにプレーすることがいいのかということも、相手によって変わりますし、良い時も悪い時も絶対にあります。ですが、東京のベースとしてプレーの強度の部分で負けなければ、そこまで大崩れすることはないと思います。まずはベースの部分でしっかり戦うこと、トレーニングからやっていることをプラスにできればと思います。ルヴァンカップ京都戦のように自信を持ち、ボール保持の部分もどんどんチャレンジしていければ、間違いなく良くなると思っています。
Q、1シーズン半の鳥栖での時間はいかがでしたか。
A、1シーズン半という短い時間だったかもしれませんが、サッカー選手としても凄く成長できたクラブだと思っています。サッカー選手として、僕が今までになかった考え方を、練習や試合をとおして学ぶことができました。凄くビルドアップにこだわるチームだったので、僕もチャレンジする部分がたくさんありましたし、最初に加入した時は、ここまでつなぐのかと戸惑いました。鹿島から鳥栖へ、スタイルが違うチームに移籍したので、最初はそこに戸惑い、なかなか力を発揮することができませんでした。キャンプから取り組んで1年間、鳥栖の川井健太監督とやって、ビルドアップ、ポジショニング、守備より攻撃の面で色々学ばせてもらいました。もう1回サッカーの楽しさを再確認できましたし、鳥栖で年下の選手も年上の選手もたくさんの人に凄く良くしてもらいました。恩もあるので、1シーズン半という短い期間ですけど、本当に感謝しかありませんし、そういったものをプレーで表現できれば良いなと思います。
Q、鳥栖で学んだことを試合でどう見せていきたいですか。
A、今は東京の一員でやらせてもらっているので、ピッチに入ったらそこは関係ないと思っています。鳥栖のスタジアムは凄く思い入れのある場所ですし、そういう所で自分が思い切りよくプレーすることによって、今ここで頑張っているということを、しっかり表現できればと思います。感謝の気持ちをプレーで表すことは難しいですが、リスペクトして戦えれば良いと思っています。もちろん移籍しているので、どう思われるか分かりません。鳥栖のファン・サポーターからすれば、1シーズン半しかいなくて移籍して、良く思う人もいれば、もちろん良く思っていない方もいると思います。そういうことも全部含めて、僕は鳥栖に対してリスペクトしかないので、そういう気持ちを持ってしっかりやれればと思います。
Q、ルヴァンカップで同年齢の徳元悠平選手、鈴木準弥選手、小泉選手の3選手が一緒に試合に出場しましたが、いかがでしたか。
A、キャンプの時にも、ルヴァンカップの試合前にも、三人一緒にいつか出場できるかもねと話していました。結果的に三人一緒にピッチに立つことができて嬉しかったです。二人の存在は間違いなく大きいですし、ピッチ内外で凄くお世話になっています。二人は僕と同い年に見えないくらいしっかりしています。東京は若い選手が多く、ちょうど中堅と言われる三人だと思います。中堅がもっと声を出さないとダメだよねと外食に行った時に話していました。そこは意識しながら声を出していければと思います。
Q、三者三様でキャラが立っていて良いバランスなのかと思いますがいかがですか。
A、二人はすごくしっかりしていると思います。徳元選手は分かりませんが、同い年に見えないくらい精神年齢が高いと思います。
Q、若手が台頭してきたイメージもあり、ベテランも元気で、中間層も元気だともっと盛り上がると思いますがいかがですか。
A、僕ら三人や、渡邊凌磨選手、安部柊斗選手、中村帆高選手もそうですが、そういった選手が練習中もそうですし、試合でも結果を残すことによって、上の人も下の人ももっとやらなければいけない気持ちが出ると思います。僕ら中堅世代が頑張っていかないといけないと感じています。
Q、鈴木選手の存在や練習に対する姿勢をどう感じていますか。
A、メンバーに入れるのが18選手という世界で、どれだけ頑張っていてもみんなにチャンスが与えられないという複雑なところがあります。でも、それが現実でもあります。鈴木選手がなかなか試合に絡めなくても、練習で声を出していたり、一つの球際で頑張る姿を見ることによって、試合に出ていない選手がこれだけやっていたら、試合に出ている選手はもっとやらなければいけないという気持ちになると思います。出られない選手たちの思いを僕が試合に出る時は背負ってやらないといけないと思います。もちろん僕もこれまでベンチに入れないこともありましたが、試合に出るか出ないかに関係なく、一喜一憂しないで頑張る大切さを学んできました。試合に出る選手は間違いなく、そういう人たちの思いを背負って戦わないといけないので、しっかりやれればと思います。
Q、自分の集大成を見せることが東京での使命ですか。
A、本当に色々な経験をさせてもらいました。今年10年目なので、色々なチームでプレーできたことも大きな経験となっています。タイトル獲るなら東京しかないと思って来ました。今までの経験をチームで生かせればと思いますし、発揮しないといけないと思っています。結局どれだけ良いサッカーをしていても、勝たないといけないと思っているので、とにかく勝利にこだわってプレーできればと思います。
Q、東京も変化していく過程だと思いますが今シーズンの意気込みをお願いします。
A、今シーズンから加入して、東京自体もチャレンジしている時期だと思います。そこに一緒に頑張っていきたいですし、みんなの目標はタイトル獲得だと思います。今シーズンはそこに向かって一緒にチャレンジしていきたいです。試合に出ている以上は結果を残し続けないと、出続けられないですし、そういった意味でも勝利という結果だけでなく、目に見える数字にもこだわってやらなければいけないと思います。そのなかで一番は、東京が勝つためにプレーをするということです。
<塚川孝輝選手>
Q、怪我人が増えている厳しい状況のなか、どんなプレーを心掛けたいですか。
A、これまでもずっと言っていますが、得点に絡むプレーをしながらチームの勝利に貢献していくことを心掛けています。
Q、鳥栖戦に向けてはどんな準備をしましたか。
A、監督も言っていますが、自分たちの強みを出していければ良いと思います。昨シーズンは悔しい結果に終わっているので、払拭できるように準備をしてきましたし、プレーで表現したいです。鳥栖の強みでもあると思いますが、まずは球際で負けないことを大事にしたいです。また、ゴール前の崩しでどのようにすれば得点に結びつけることができるかも大事になってくると思います。ボールを奪ってから、大事にボールを保持するのか、速攻を仕掛けるのかの判断をチームで合わせていければと思います。
Q、アタッキングサードで自分の良さを出していきたいですか。
A、仰るとおり、アタッキングサードに入ってから何ができるかが重要になると思います。最後のアイディアや、相手を見て判断を変えるところを、もっと試合のなかで上手く出していければと思います。しっかり、鳥栖戦では結果につなげていけるようにしたいです。
Q、怪我人も出てきたなかでここでの踏ん張りが大事になると思います。
A、怪我人や欠場の選手がいるなかでも、その穴を補えるのが強いチームだと思います。結果で示していきたいです。欠場している選手がいますが、みんなチャンスだと捉えていると思いますし、しっかり結果を残してチームに良い循環が生まれればと思います。
Q、インパクトを残すことが必要になりますか。
A、常に自分の良さをコンスタントに出すことが大事だと思います。鳥栖戦も凄く重要になります。しっかり1試合1試合結果を求めていきたいです。
Q、本職ではないポジションでの出場もあったと思います。思い切りが昨シーズンに比べるとまだ見えていない印象がありますがいかがですか。
A、考えてしまう部分もあります。そこは、自分のレベル不足だと思っています。自分がもっとスケールが大きくなっていくためには、もっと練習から課題に取り組んでいかないといけません。自分のなかでも、京都戦で凄く調子が良かったかと言われればそうではありませんでしたし、試合で結果を残していくなかで解決していくしかないと思っています。
Q、フィジカルやチームへのフィットで悩んでいるのでしょうか。
A、悩んでいると言いますか、チームで新たなことにチャレンジしています。昨シーズンはボールをつなごうとみんなでフォーカスしてできていたのですが、今シーズンは、ボールをつなぐこともできれば速攻もできるなど、色々な選択肢が出てきました。チーム全体で場面ごとにどういう判断をした方が良いのかを合わせていくことが必要になります。そこを自分が上手くつなげていけるように、立ち位置を考えながらプレーしたいです。ですが、そこを考えすぎてスケールが小さくなって良さが出せていない部分もあるので、上手くバランスを考えながらプレーしていけば、もっと成長していけるしチームも良くなっていくと思います。
Q、東京は鳥栖に勝てていない状況が続いています。
A、ここで流れを変える意味でも勝利したいですし、苦手意識をしっかり払拭できるようにプレーしたいです。