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~メッセージTシャツ誕生の裏側~

COLUMN2023.5.17

with Hotaka
~メッセージTシャツ誕生の裏側~

2018シーズン以来となる多摩川クラシコの勝利に沸いた国立競技場。試合後、スタンドを埋め尽くした青赤の仲間たちに勝利の報告をする東京の選手たちは、青色のTシャツを身にまとっていた。

Hotaka Everyone is waiting You’ll never walk alone

そこに記されていたのは、第10節アルビレックス新潟戦の試合終了間際に右アキレス腱断裂という大きな怪我を負い、約6ヶ月の長期離脱を余儀なくされた中村帆高選手へのメッセージだった。

『俺たちは帆高とともに戦っている』。

 そのメッセージを発信し、ファン・サポーターも巻き込んで中村選手を支えていく流れを醸成したものは、ある選手の粋な計らいと、チームの想い、そして、その想いをカタチにするために奔走したチームマネージャーだった。

約3時間で確定させた想いの詰まったTシャツ


それは5月2日だった。

アビスパ福岡戦とのアウェイゲームを翌日に控え、現地に向かう遠征の道中で、伴和曉チーフマネージャーに一人の選手がふと声をかけた。

「帆高を励ますために何かできないですか」

声をかけたのは、自身もかつて大きな怪我を負って長期離脱した経験のある仲川輝人選手だった。

「僕が横浜F・マリノスに在籍していた際、シーズン中に大きな怪我を負ってしまった選手がいました。彼への想いを伝えるため、“ファミリー”として彼の分も一緒に戦っていることを伝えるため、その選手へのメッセージを前面に、番号を背面に施したユニフォームを、ウォーミングアップのタイミングで 着用したことがありました。その経験もあって、伴チーフマネージャーに提案しました」

仲間の大怪我も目の当たりにし、自身の経験も踏まえ、様々な苦難をチームメートとともに乗り越えたいという仲川選手の強い想い。それは、横浜FM時代に2度のリーグ優勝を手にする過程で感じた“ファミリー”や“一体感”を何よりも重要視する仲川選手だからこその発案と言えるだろう。


その想いに応えるため、伴マネージャーも早々に動き出す。

「はじめに、どのようなアイテムを作るのか、という点で非常に悩みました。現状のユニフォームをベースにメッセージなどを加えようとすると完成まで時間が足りず、プレーヤーズTシャツにメッセージをプリントする案や中村選手のグッズを身に着ける案などもありましたが、マーチャンダイジング部のみなさんがすぐに動いてくれたこともあり、クラブカラーの青色Tシャツにメッセージをプリントする形で何とかまとまりました」

マーチャンダイジング部をはじめ、各部署が中村選手への想いをカタチにし、本人にその想いを届けるために奔走した。

「アイテムの決定と同時進行で、どんなメッセージをプリントするべきかを決めたくて、中村選手を除く全選手のLINEグループトークを作りました。確か2日の15時くらいでしたね」。トーク画面はたちまち、各選手の熱い想いで埋まっていった。

「待っているぞ!帆高」など、復帰を待つ選手たちの熱い想いが投稿されているなか、キャプテンの森重真人選手がクラブの代名詞でもある「You’ll never walk alone」を投稿。チームメートから多くの賛同を得たこと、全員が中村選手の復帰を望む想いを込めて、冒頭のメッセージが満場一致で決定した。


「仲川選手の発案からTシャツメッセージの考案、デザイン完成まで、担当部署のみなさんも動いてくださり、事業部はスポンサーとの調整を、運営部はJリーグなどへの調整や声掛けも行ってくれました。約3時間ですべてが完結できたこと、関わる全てのみなさんに後押しいただけたことにも感謝していますし、そのおかげで川崎フロンターレ戦前日に納品ができたと思います。勝っても負けてもTシャツを着てスタジアムを一周するのか、という声もありましたが、何が何でも勝ちますと断言しちゃいましたね(笑)。試合にも勝利し、中村選手にもメッセージを届けることができて良かったです」

伴チーフマネージャーは、当日を思い出すように笑顔で語ってくれた。

 

ワクワクするタイミングで彼を迎え入れたいと思っています」


「僕自身が横浜FMに所属していた時に、怪我をした選手に対してこのようなメッセージTシャツで励ます、という考えにとても良いことだな、という印象を受けていました。良いと思うことは、どこのクラブであろうが関係なく、それぞれのクラブカラーや味を上手く採り入れておこなうべきだと思っています。今回は僕自身がクラブに対する“味付け”として、メッセージユニフォームを作らないのかと提案しました。中村選手への想いや、同じサイドでプレーする関係性もあって。また大きな怪我を負ってしまった苦しみは僕にも理解できます。勇気づけられる行動や中村選手にとって嬉しいものって何だろう、と考えた時に、Tシャツを着用する、というアイディアが浮かび上がりました。きっと中村選手も喜んでくれていると思います」

発案者の仲川選手が振り返った。そして最後に、中村選手の復帰について聞かれると、こう話を締めた。

「僕だけではなく、チームメート全員が彼の一日も早い復帰を願っていますし、中村選手の戦う姿勢や熱いパッションに心を動かされてきました。そのような選手が離脱してしまう寂しさは当然ありますが、彼自身も復帰に向けてリハビリに懸命に励んでいると思います。“中村帆高のために”という想いもあり、Tシャツを作って全員で着用しましたし、あらためて“優勝”を目指すことが大切だと考えています。1試合1試合、中村選手の想いも背負って勝ち続けること、また、優勝争いなどのワクワクするタイミングで彼を迎え入れたいと思っています。誰かのために戦う、という姿勢が今の東京には必要ですし、“帆高待っとけよ”という気持ちでプレーし続けていきたいですね」

川崎戦の試合後、選手とスタッフが参加しているLINEトークグループに「(メッセージTシャツ)本当にありがとうございました。みんなを信じてリハビリ頑張ります。必ず乗り越えて、強くなって戻ります。ナイス勝利!!お疲れ様でした!!」という中村選手からのメッセージが届いた。

みんなの熱い想いは、画面をとおして確実に伝わっていた。

You’ll never walk alone 君は決して一人ではない。

“帆高待っとけよ”