<マッチレビュー>
意地とプライドをかけた大一番だ。クラブ史上ホーム最多入場者数となる56,705人の観衆が駆け付けたスタジアムが最高の雰囲気を作り出した。2連敗中の東京は、長友佑都選手、木本恭生選手、徳元悠平選手、東慶悟選手がスタメン入り。前線には仲川輝人選手、渡邊凌磨選手、ディエゴ オリヴェイラ選手が並び、ホーム国立競技場で川崎フロンターレを迎え撃ち、宿敵に対して10試合ぶりの勝利をめざした。
1stHALF—徳元の1ゴール1アシストでリード
試合開始前から両チームのファン・サポーターの大きな歓声が飛び交うなか、川崎のキックオフで前半はスタートする。連敗を喫したここ2試合と違い、落ち着いた試合の入りを見せた東京は、川崎のビルドアップに対しても前からプレッシャーに行くのではなく、ある程度様子を見た形で構える守備を見せた。立ち上がりに2度ほど、左サイドバックの登里選手にフリーで斜めのパスを入れられるピンチはあったが、そのシーンを耐え抜くと、徐々にペースをつかめるようになる。そして前半12分、スタジアム中がどよめくスーパーゴールが飛び出す。
中盤でボールを持った東選手が右サイドへ展開。長友選手のクロスは中央の選手と合わずファーサイドに流れてしまうが、これを拾った徳元選手が深い切り返しで相手をかわし、利き足とは逆足の右足を一閃。強烈なシュートがサイドネットに突き刺さった。
さらに前半25分には華麗な流れから待望の追加点を奪う。ディエゴ選手がエリア手前で奪いキープしながら左サイドを駆け上がってきた徳元選手にパス。徳元選手のグランダーのクロスに安部柊斗選手が飛び込み押し込んだ。
完全な東京ペースでゲームは進んでいき、その後も素早く激しい守備から中盤でボールを奪い、相手に主導権を渡さない時間帯が続いた。しかし、川崎にリズムを引き寄せられると、シュートで終わるシーンを作られるようになる。
前半37分の決定的なピンチはヤクブ スウォビィク選手のスーパーセーブで凌いだが、その2分後の前半39分、ついに宮代選手にゴールを割られてしまう。それでも、残り時間でしっかりと立て直した東京は、1点のリードを保ったまま前半を終える。手応えのある45分を過ごし、ロッカールームへと引き上げていった。
2ndHALF—リードを保って多摩川クラシコに勝利
後半は、早い段階でゲームの流れを左右するプレーが起こる。セットプレーの流れから仲川選手がボールを拾うと、遅れる形で脇坂選手がタックル。VARのサポートによりファウルで退場の判定となり、東京が数的優位の立場となった。そして、後半9分にはビッグチャンスを作り出す。右サイドでつないで崩し、小泉慶選手の折り返しを渡邊選手がシュートを放つが、惜しくもバーに嫌われた。
しかし、その後は一人少なくなっても攻撃力が落ちない川崎が前へ出る。小林選手や大島選手などをピッチに送り込み、前線に人数をかけてきた。中盤にスペースが生まれ始めたこともあり、一人ひとりの高い技術を生かしてゴールへと迫られた。後半33分には1本のフィードから遠野選手に抜け出され、完璧な胸トラップからシュートを打たれるが、ここはスウォビィク選手がまたしてもファインセーブ。何とか難を逃れた。
残り時間が少なくなってからは、東京も割り切った対応を見せていく。古巣との対戦となる塚川孝輝選手やバングーナガンデ佳史扶選手を次々に投入し、サイドの守備のバランスと強度を保った。そして、上手く時間を進めていき、6分のアディショナルタイムに突入する。
キャプテン森重真人選手の身体を張ったクリアなど、最後まで集中を切らすことなく守り抜く。ファン・サポーターからの声援と手拍子が飛び交うなか、時計の針が後半53分を回ったところでタイムアップ。川崎から5シーズンぶりの勝利を告げるホイッスルが鳴ると、ホームゴール裏を中心にスタジアムは歓喜に包まれた。
最高の形で連敗をストップした東京は、勝利を信じてスタジアムに駆け付けたファン・サポーターと勝利の喜びを共有し、改修後の国立競技場で初めて『眠らない街』を響かせた。国立競技場での公式戦連勝記録も『4』に伸ばし、至るところで青と赤の笑顔がはじけた。
MATCH DETAILS
<FC東京>
STARTING Ⅺ
GKヤクブ スウォビィク
DF長友佑都/木本恭生/森重真人/徳元悠平
MF小泉慶/東慶悟/安部柊斗
FW渡邊凌磨(後半28分:塚川孝輝)/ディエゴ オリヴェイラ(後半15分:アダイウトン)/仲川輝人(後半43分:バングーナガンデ佳史扶)
SUBS
GK野澤大志ブランドン
DFエンリケ トレヴィザン
FWペロッチ/俵積田晃太
GOAL
前半12分:徳元悠平/前半25分:安部柊斗
<川崎フロンターレ>
STARTING Ⅺ
GK上福元直人
DF山根視来/大南拓磨(後半45+7分:山村和也)/車屋紳太郎/登里享平
MFジョアン シミッチ(後半37分:山田新)/瀬古樹(後半14分:大島僚太)/脇坂泰斗
FW家長昭博(後半30分:橘田健人)/マルシーニョ(後半14分:遠野大弥)/宮代大聖(後半30分:小林悠)
SUBS
GKチョン ソンリョン
GOAL
前半39分:宮代大聖
[アルベル監督記者会見コメント]
Q、試合を振り返ってください。
A、我々にとって国立競技場は、あたかもマジックがかかっているような場所です。我々の前には偉大なライバルがいました。その相手と戦うにあたって、この素晴らしい雰囲気が我々を後押ししてくれたと思います。前半の最初の30分は我々が試合を支配していたと思います。4-3-3対4-3-3と同じシステムのマッチアップでした。川崎の攻撃の危険な部分である、サイドに人数をかけてからの攻撃、もしくはボール奪ってから素早いマルシーニョ選手を活かしたカウンターアタックに対してしっかりと守備ができていたと思います。我々のプレスは上手く機能していましたし、ボールを持った時には相手ゴールに向う意識をしっかりと持ち、攻撃的に戦えていたと思います。前半はそれほどミスを犯していませんでした。ただ、少ないミスから川崎の得点が生まれました。川崎が素晴らしいゴールの持ち主だと証明されたと思います。
後半は良いスタートを切れたと思いました。決定的なポストに当たるチャンスもありました。退場者が出たわけで、それは我々にとってプラスではありますけど、同時に一人少ない相手と戦うのは簡単ではありませんでした。川崎は一人少なくなったあと、後ろと前線の二つのグループにあたかも分かれる形で最初に我々の前線のプレスを打開し、前線にボールを配球する形を採ってきました。決定的なチャンスも生み出していたと思います。そのような彼らの効果的なプレーを消すために少し守備ブロックを下げ、待つ形を守備で採りました。それ以降は上手く修正できて、彼らのチャンスはロングシュートなど決定的なチャンスにはつながらなかったと思います。
この4年間、川崎には7連敗していました。その流れのなか、彼らから勝利を収めることはとても難しいことでしたし、とても価値のあるモノだと思います。この勝利を中村帆高選手に捧げたいと思います。名前は挙げませんでしたが、他の二人にも捧げたいと思います。
Q、渡邊凌磨選手に与えた役割はなんですか。
A、川崎のように明確に4-3-3でプレーしてくる相手、両ウイングとセンターフォワードを置く相手には中央で優位性を持つことが重要になってきます。それゆえに最初の立ち位置は左ウイングだったわけですが、攻撃の際にはそこから中央に流れて来て、中央で4対3の数的有利を作る動きを求めていました。4-3-3の逆三角形で中盤を組んで来る相手に対しては、ワンボランチの脇が攻撃をする際の効果的なスペースになります。そのスペースを突くタスクを渡邊選手と安部柊斗選手に与えていました。
Q、システムやパスの方向付けを含め、昨シーズンのやり慣れた形に戻した理由はなんですか。
A、サッカーは、直近の試合結果、試合内容の記憶に影響される競技だと思います。例えば、昨シーズンの開幕戦、アウェイでの川崎戦を思い出してください。あの試合と今日の試合ではチームのプレーのクオリティはまったく違ったモノだと思います。今シーズンの開幕戦の浦和レッズ戦では良い形で勝利を収めることができました。けれども、その後に多くの怪我人が重なりました。複数の怪我人が戻ってきた際にはガンバ大阪、サンフレッチェ広島、アルビレックス新潟に勝利を収めることができました。ただ、その後にアビスパ福岡戦の後半、北海道コンサドーレ札幌戦の前半はとても酷い内容だったと思います。
何が言いたいかと言うと、この1年と数か月の間に東京は成長をし続けている。昨シーズンの最初の頃と今では明確な成長が見受けられます。それを理解して欲しいと思います。まだまだ成長段階です。完全な世代交代ができているわけではありません。安定感ある形で良いプレーをし続けるレベルに達していないのも事実だと思います。我々は成長のプロセスの最中です。このスタイルの変更はとても大きなものです。多くの選手が2年前にもこのクラブに所属していました。彼らを起用した形でスタイルの変更に取り組んでいることは忘れてはいけません。それこそが事実であり現実です。遅かれ早かれ試合に負ける現実が訪れるでしょう。そこでまた立ち上がり、勝利を収めることもあるでしょう。今日は物事が上手くいきましたし、それが上手くいかない日もあるでしょう。川崎は今のスタイルで長くプレーし続けている意味で成熟したチームと言えます。勝とうが負けようが彼らのスタイルを貫き続けているからです。一方で我々は今のスタイルに取り組み1年と少ししか経っていません。それが現実ですし、試合に負けた時には批判され、勝利した際には喜ぶ。その喜怒哀楽があるのがサッカーだと思います。
[選手インタビュー]
<森重真人選手>
Q、試合を振り返ってください。
A、勝てたことが何より嬉しいですし、言葉にならない喜びがあります。
Q、試合終了後には、今までの想いが溢れたように見える場面もありました。
A、ここまで悔しい思いをしてきました。何としてもチームとして今日の試合を勝ちたかったですし、今週一週間はみんなで悩み、もう一度戦うんだ、という気持ちを取り戻すことができた勝利になりました。
Q、リーグ戦で川崎フロンターレに勝利したのは、2018シーズン以来です。今節の勝利をチームとしてどのように捉えていますか。
A、この勝利はとても大きな勇気を与えてくれました。チームとしてどのように戦うべきかと悩む時期もありましたが、今日はピッチに立つ選手が良い意味で腹を括って、集中して試合に入り、勝点3を手にすることができました。多くのみなさんが見に来てくださった国立競技場で勝利できたことも大きな意味を持つと思います。
Q、長らく続く“多摩川クラシコ”で勝利できた重要性をあらためて教えてください。
A、僕自身、東京の一員として多摩川クラシコを戦ってきましたが、悔しい想いをすることが多かったです。その分、今日のような大舞台で勝利できたことを本当に嬉しく思います。
Q、試合前後で森重選手自身が感じたチームの雰囲気の違いを教えてください。
A、試合前はチームとしてしっかりと準備してきたもの、話し合ってきたものを整理して全員で戦うだけでした。ピッチに立つ選手たちが勇気を持って戦えていました。全員が苦しんだ分だけ、みんなとこれだけ喜び合えるんだな、と再確認できました。
<ヤクブ スウォビィク選手>
Q、勝利おめでとうございます。
A、大きな勝利だったと思います。チームとして今日勝つことがとても大事でした。大きな怪我を負った中村帆高選手のために勝つことができたことが、この東京ファミリーにとって、とても大事な勝利だったと思います。
Q、リーグ戦で連敗しており、難しい状況だったと思いますが、何が重要だと考えていましたか。
A、最近は勝てていませんでしたが、チーム一丸となり戦うことができたことが今日の勝利に繋がったと思います。より結束をして、毎試合少しずつでもステップアップできるように今日の勝利がきっかけになればよいと思います。
Q、多くのファン・サポーターが来場したなかでの試合でした。
A、僕だけではなく、選手全員がこのスタジアムの雰囲気をすごく喜んでいました。このスタジアムを作り上げてくださっていたファン・サポーターの雰囲気をすごく誇りに思います。
<徳元悠平選手>
Q、ゴールシーンを振り返っていかがですか。
A、利き足とは逆足でしたので、あまり力を入れずにインパクトに集中して振り抜いたことが、ゴールにつながったと思います。
Q、切り返して右足でシュートを打つことを狙っていましたか。
A、切り返した時点でクロスは無いと思い、国立競技場ですし、思い切ってシュートを打とうという気持ちで振り抜きました。
Q、チームのファーストシュートだったかと思います。
A、どんどんシュートを打つことが必要だと思っていたので、良い流れを作れてよかったです。
Q、ゴールを決めた瞬間はどうでしたか。
A、喜び方がわからなかったですが、ファン・サポーターのみさなんも立ち上がって喜んでくれていたので、すごくうれしかったです。
Q、このような大きな舞台でJ1初ゴールを決めた感想はどうですか。
A、非常に感慨深いです。昨シーズンは国立での試合を観ている側でしたが、昨日からふわふわしていたと言いますか、何かやれそうだという気持ちはありました。J3やJ2の選手に勇気や希望を与えられたのかなと思っています。
Q、国立競技場での試合は何回目ですか。
A、初めての経験です。全国高校サッカー選手権の開会式以来です。いつかこの舞台に立ち、プレーしたいと思っていました。ここでプレーすることは、高校サッカーの選手たちにとっては憧れだと思うので、プロになって、さらにホームで試合ができたことは嬉しかったですし、良い日になりました。
Q、ヒーローインタビューで祖母に対して手を振っていましたが、何か理由はありますか。
A、おじいちゃん、おばあちゃん子なので、いつかヒーローインタビューを受ける機会があったら、感謝の気持ちを込めてやりたいと思っていました。1月のキャンプ中に、僕をサッカーの道へ導いてくれたおじいちゃんが他界してしまい、おばあちゃんと2人で、僕のことを親のように育ててくれたので、感謝の気持ちを込めて、天に向かって「ゴール決めたよ」、テレビの向こうで応援してくれているおばあちゃんにも「やったよ!」とできました。
Q、おばあちゃんとは、まだやりとりをされていないですか。
A、まだです。すぐにここに来たので、このあと連絡をしたいと思います。
<安部柊斗選手>
Q、多摩川クラシコでの勝利はいかがですか。
A、この素晴らしい国立競技場で勝てたことが、やはり嬉しいです。
Q、前節北海道コンサドーレ札幌戦から何を意識していましたか。
A、今週の選手ミーティングで、まずはサッカーの根本的な「戦う」という部分を表現しようと話したので、そこを意識して、試合の最初から良い守備ができたと思っています。
Q、守備の連動ができていたと思いましたが、手応えはどうですか。
A、ハイプレスに行った時でも、構えて守った時でも、ボールを奪うことができていました。ボールを保持されていても問題ないというマインドでプレーできていたと思います。
Q、ゴールシーン振り返ってください。
A、ショートカウンターは東京の強みでもあります。徳元悠平選手がよくみてくれていたと思います。良いところに走りこめたので、最後は触るだけでした。良いゴールだったと思います。
Q、トップ下で出場しているようなプレーでした。
A、インサイドハーフでの出場でしたが、ゴール前に顔を出さないと点は取れないので、ゴール前に走り込み、良いボールが来てよかったです。
Q、試合後に中村帆高選手の2番のシャツを着用していました。
A、絶対勝って、みんなで帆高のシャツを着ようと話していました。帆高も悔しいと思うので、そういった気持ちを背負い、良いプレーで勝点3を獲れてよかったです。
Q、国立競技場で自分の名前をコールされるのはどうでしたか。
A、5万人を超えるファン・サポーターの中で、点を決めファン・サポーターに名前を呼んでもらえたのはとても光栄です。もっともっと名前を知ってもらうために活躍したいと思います。
<仲川輝人選手>
Q、前所属チームで何度も川崎と試合を行っていますが、初めての多摩川クラシコの感想を教えてください。
A、横浜F・マリノスに所属していた時の神奈川ダービーと東京での多摩川クラシコは違う雰囲気や熱量を感じました。その中で2連敗しており、もう一度初心に返り泥臭さや激しさなど自分たちが大事にしてきたところを取り戻そうとして、やり通す強い気持ちが勝利に繋がったのだと思います。
Q、2連敗した後の、多摩川クラシコで勝ちたいという気持ちはチームの中で共有されていましたか。
A、そうですね。連敗している中で良い対戦相手であり、良い環境で連敗を止めることは自信を取り戻す機会になると考えていました。みんな気合いも入っていましたし、基礎の部分など細かいところで上回れたと思います。
Q、いつも以上にドリブルで仕掛けている印象を受けました。
A、なかなかボールをもってチャンスメイクをする機会は多くありませんでしたが、マイボールになった時の縦への推進力や、マイボールの時間を長くすることなどを意識していました。川崎はボールを支配するチームだと分かっていたので、自分たちがボールをもてる時間をいかに作ることができるかが大事になってくると考えていました。
Q、立ち上がりから渡邊凌磨選手とポジションを入れ替えるシーンが多く見られましたが、事前に話をしているのでしょうか。
A、自由にやっています。渡邊選手も自分も自由に流動的にプレーしていました。
Q、守備でうまくいったと思うポイントを教えてください。
A、ここ数試合より、最初の15分はロングボールを使い相手のハイプレスを避けるようにしていました。そこから、自分たちのマイボールになった時に繋ぐことはやってきたので、もちろん最初から繋いで崩すことが理想ですが、多少割り切っていた部分もあります。川崎の選手は技術が高くパスの質でチャンスを作る力もあり、そこは自分たちがやっていかなければいけない部分だと思うので改善していきたいと思います。