<前節・ヴィッセル神戸戦のレビュー>
Jリーグ史に残る大きな記録の達成は、前半を終えた時点で霞んでしまってもおかしくなかった。
首位のヴィッセル神戸との一戦は、アウェイゲームでありながらもスムーズな立ち上がりだった。立ち上がりの調子は東京のほうが良かったと言える。球際での強度で相手に引けを取らず、縦への推進力やゴールへの意欲を強く感じられるプレーぶりだった。
しかし、ビルドアップの際にミスが続くと、試合の主導権は相手に渡ってしまった。ひとたび波に乗ると、首位チームの勢いを止めるのは至難の業。先制点を許すと、なんとか立て直そうとした前半の終盤に立て続けに失点。3点のビハインドでロッカーに戻ってきた。
どう立て直すのか。その理屈はロジックというよりもパッションだった。
戦術をいくら論じたところで、戦う気持ちがなければ何も変わることができない。Jリーグ通算450試合出場という大記録を達成したキャプテンは、それをプレーで体現した。球際で身体を張って相手のロングボールを撥ね返し、自らボールを持ち出してチームを押し上げると、相手を引き出してからミドルレンジのパスを入れてチームにゴールに向かう意欲再び植え付ける。
追い上げる2ゴールはペナルティキックによるものだったが、追い付き、逆転するという強い意思がなければ、その機会すら得られなかったはずだ。
「後半は球際で強さを出せていましたが、前半からなぜできないのか、と思うところもあります」
試合後、チームの現状を語った森重真人選手の口調は厳しいものだったが、パッションは消えていなかった。立ち上がりからタイムアップまでの90分間、勝利への情熱でも相手を上回り続ける。ホームに帰って、上位チームと戦う大一番。キャプテンが灯した情熱の火に、青赤の戦士たちが奮起することを期待したい。
<試合プレビュー>
アウェイでヴィッセル神戸に2-3で敗れ、リーグ戦では3試合ぶりとなる黒星を喫した。試合後、途中出場で中盤を引き締めた青木拓矢選手は「悪い流れのときに連続で失点してしまうところが良くない。最低でも1失点で抑えるようにしないといけない」と、前半だけで3失点した守備の課題を指摘した。後半、東京が意地を見せて2本のPKで1点差に迫った場面についても、青木選手は「気持ちで奪った得点だったが、今後は自分たちの意思でゴールを奪えるようにしたい」と振り返る。首位を走る神戸との対戦は、攻守両面で改善点に直面した一戦となった。
今節の横浜F・マリノス戦は、神戸戦からいかに課題を修正できたかが問われる試合になりそうだ。昨シーズンの王者は今シーズンも攻撃的なサッカーで勝点を稼ぎ、リーグ2位につける。東京は集中力を切らさず、積極的に主導権を握ることが重要だろう。
この一戦に強い思いを傾けるのは、昨シーズンまで横浜FMでプレーをしていた仲川輝人選手だ。古巣との対戦を前に、仲川選手は「もちろん勝ちに行く」と宣言。「クリーンで激しいプレーをしていきたい」と、東京のために真っ向勝負を挑む。
[アルベル監督インタビュー]
Q、今節の横浜F・マリノス戦に向けて、意気込みをお願いします。
A、J1リーグのなかで、もっともクオリティの高いクラブは横浜FMだと思っています。クオリティの高い選手が多く揃っていますし、同じスタイルで4、5シーズンと、継続性を持ってプレーをしている印象です。だからこそ、横浜FMと戦うことが、どれほど難しいかを知っています。プレースピードの速さ、中盤で優位性を持ってプレーし、仕掛けてきます。高いクオリティを兼ね備えるウイングの選手にボールを預け、ゴールを狙ってきます。そのような相手に対して、戦う姿勢を示し、我々もボールを支配した攻撃的なプレーを表現しなければなりません。ボールを動かしながら、積極的かつ大胆にゴールをめざしていきたいと思います。今週は非常に充実した良いトレーニングを行えた実感があります。明日は良い試合ができることを期待しています。拮抗した試合のなかでは、小さな出来事が試合の流れを大きく左右します。先制点をどちらが奪うのか、ワンプレーで大きく流れが変化することもあるかと思います。
Q、試合中に修正する力について、アルベル監督からどのような声がけを選手に対して行いましたか。
A、前節のヴィッセル神戸との試合では、相手に与えた先制点が我々にとって心理的に大きなダメージになりました。つまり、戦術的な部分を極端に考えすぎてはいけないということです。良い形で得点を奪うことができれば、自信が湧き、そこからさらに良いプレーが生まれる傾向があります。逆のパターンももちろんあり得ます。神戸戦については、そのようなネガティブな流れがあったと思います。それゆえに、自信を取り戻してプレーをする、ということが大切です。自信を持ってプレーすることがミスを減らすことにも繋がると考えています。ミスを恐れてはいけません。仮にミスが生まれてしまったとしても、崩れることなく、立ち上がり、プレーをし続けることが重要です。日本の文化や価値観がミスを恐れてしまうことに、多少、関連性があるのかもしれません。
Q、ミスを恐れることなく、落ち着いてプレーすることを伝えた、ということでしょうか。
A、選手それぞれが自信をもってプレーすることを強調しています。選手たちが自分自身のプレーに自信を持つことが重要ですし、サッカーにおけるミスは一部分に過ぎません。だからこそ、ミスをすることが悪い、という考えになるのではなく、ミスをした後にどのような行動やプレーを見せるかが大切です。
Q、先制点を奪った試合と与えた試合で結果が大きく左右されている印象があります。
A、J1リーグのどのクラブにも当てはまるように思います。ですが、我々はその傾向が非常に強い印象です。J1リーグにおいて先制点を奪ったチームの勝率が高いことはもちろん理解していますし、先ほども伝えた通り、先に得点を取ることはチームに良い影響をもたらします。勝者のメンタリティという視点で考えると、仲川輝人選手がチームに良い影響をもたらしてくれています。なぜならば、彼は優勝を経験した選手だからです。
Q、代表活動を終えた松木玖生選手、熊田直紀選手にはどのような声をかけましたか。
A、少しだけ話をしました。代表として国を背負い戦うことは非常に難しいと思っています。そのなかで、良い成績を収めるためには、ここからさらにレベルアップする必要があると伝えました。戦術面や個々のテクニックについては、他国の選手たちと比べても大きな差はないと思っていますが、メンタル面で差を感じました。これは私が日本に来てから選手たちに伝え続けていることです。強いメンタルを持つことで、高いレベルでプレーすることができると考えています。
Q、声がけに対して、どのような反応がありましたか
A、今回の結果に対して満足していない様子を受けました。今回のような経験はとても重要です。分析し、改善をして、次の試合や大会に繋げてほしいと思います。
[選手インタビュー]
<仲川輝人選手>
Q、古巣との一戦になりますが、今の心境を教えてください。
A、僕らはもちろん勝ちにいきますし、前節のヴィッセル神戸との試合で負けてしまっているので、連敗は絶対に避けたいです。調子の良い相手ですし、僕個人としては古巣との対戦なので、とても楽しみです。
Q、横浜F・マリノスに対し、5戦勝ちなしの状況です。どう攻略しますか。
A、僕が横浜FMに在籍していた時の東京の印象は、パスでうまくはがしながらゴールに向かうプレーが多く、やりづらさはありましたし、対人プレーや球際に強さを感じていました。(今回、東京の一員として横浜FMと対戦するうえで)相手に自由を与えず、高い強度でプレーし続けることが重要ですし、局面のプレーで相手に余裕を持たせてしまうと、前節の神戸戦のようになってしまうので、ホームでプレーできることを武器にして、相手以上に強い気持ちで試合に臨みたいと思います。横浜FMが良いチームであることは誰の目から見ても分かり切っていることですし、過去の映像などを見て、どのように攻略すべきかをチーム全体にも共有していきたいと思っています。
Q、横浜FMの宮市選手が先日公式戦のピッチに復帰しました。大怪我を乗り越えた宮市選手とピッチで再会することについて教えてください。
A、リハビリなども含めて、約300日という非常に長い期間をよく耐え、乗り越えたと思います。ルヴァンカップの北海道コンサドーレ札幌戦で、元気にプレーする姿も見ましたし、僕個人としても嬉しいです。あれだけの大きな怪我を負っていても「めっちゃ速いな」と思いましたし、途中交代で出場してくることが予想されるので、要注意の一人です。ですが、23番を背負ってプレーする宮市選手と再会できることを楽しみにしていますし、互いに切磋琢磨し合いながら成長し、結果を出していきたいと思います。宮市選手以外にも、長い間ともにプレーしていた喜田選手や同い年の松原選手も横浜FMに在籍しているので、“クリーンで激しいプレー”を見せたいですね。
Q、チームとしての積み上げは仲川選手のイメージしていたとおりに進んでいますか。
A、良い時と悪い時の波の差が大きい状況だと思います。そして、その差が非常に出ている印象です。特に、悪い時は一つ嚙み合わない状況が全体に影響してしまい、もろさと弱さを感じています。調子のアップダウンを高いレベルで緩やかにすることが良い状態だと思いますし、それはチーム全体が感じていることです。アウェイゲームの勝率が悪いことにも繋がっていると思います。実際にピッチでプレーするのは僕ら選手ですし、相手どうこうではなく、自分たちを主体に置かなければ、結果も変わりますし、弱さが出てしまいます。その面を変えて、チームに安定感をもたらしたいと思います。
Q、横浜FM戦をきっかけにチームが良い方向に切り替わる雰囲気はありますか。
A、まずは、ホームで横浜FMと戦えることは非常に大きいと思います。ホームのアドバンテージで得られる強さを発揮したいです。相手が攻撃力のある横浜FMだからといって、受けて立つことなく、ディフェンディングチャンピオン相手にチャレンジャーとして向かっていかなければ東京の良さは出ないと思いますし、リスペクトし過ぎないことが勝利への鍵になると考えています。最終的にはメンタル面でいかに優位性を持てるか、だと思います。
Q、チームとしての一体感は日に日に増しているように見えます。
A、チームとしての一体感はとても出ていると思いますが、1点取られてしまうとへこんでしまう悪い癖があるように見えます。特にアウェイゲームでは出てしまっている印象です。1点取られてしまっても、2点、3点と取りにいく姿勢をチームとして示していかなければ、勝利を積み重ねることはできません。先制点を与えてしまった後のメンタル面が勝敗を大きく左右していますし、点を与えてしまったとしても、得点を奪いに行く姿勢を見せないと、応援してくださっているファン・サポーターのみなさんにも申し訳ないです。勝利にこだわる姿勢をもっと見せていく必要があると考えています。
Q、最後に、ファン・サポーターに向けてメッセージをお願いします。
A、味スタでの成績はとても良いですし、ファン・サポーターの声援、応援の後押しがあるからこそ、良い雰囲気でプレーできていると、選手全員が感じています。ファン・サポーターも含めた、FC東京全体で「マリノスを倒しにいく」という雰囲気を作ってくれることで、僕たちもそれに応えないといけない責任や気持ちにスイッチが入ります。横浜からも多くのサポーターが来ると思うので、僕も楽しみながら、気合いを入れて戦います。僕自身もゴールを狙っているので、勝ってみんなで“ユルネバ”を歌いましょう。
<塚川孝輝選手>
Q、ヴィッセル神戸戦終了後、アルベル監督は“戦う姿勢”を強調していました。横浜F・マリノス戦に向けてどのようなことを意識しますか。
A、先日おこなった川崎フロンターレ戦のようなプレー強度で、ボールを握って勝利をめざす戦いをベースにしていこう、と監督からは伝えられました。横浜FMが相手ですので、ボールを相手に握られる時間が多くなることが予想されますが、そのなかでボールを大切にして、素早い攻撃でゴールをめざしたいと思います。今週のトレーニングでも取り組んできたことなので、上手くチームとして表現したいと思います。
Q、ホームの横浜FM戦といえば、昨シーズンは2ゴールを挙げています。相性など個人として意識していることはありますか。
A、あの試合では、セットプレーから2点を決めることができました。明日の試合で出場するタイミングがあれば、しっかりと振り抜きたいと思います。僕自身、結果を残し続けていかなければピッチに立つことはできないので、積極的に得点を狙っていきたいと思います。
Q、横浜FMを相手に、チームとして共有したことがあれば教えてください。
A、相手に自由を与えないようにするために、ボールサイドに激しくいくプレーは多くなってくるかと思います。相手のワントップの選手にボールが入った後にボールを取り切ること、コースを上手く限定し、攻撃時に広がっている相手に対して、ボールを奪った後にこちらが素早く攻撃に転じられるかがポイントになると思います。時間を与えすぎてしまうと、相手に前を向いた状態でプレーさせてしまいますので、連動したプレスバックで対応することも重要になると思います。今週の練習でも取り組んできたことなので、上手く連動したプレーを意識したいと思います。
Q、チームとしても塚川選手個人としても、ここから巻き返していくターニングポイントにしたい試合ではないですか。
A、チームの核になり切れていませんし、僕としては目の前の一戦一戦がとても重要です。何か良いキッカケを掴みたいという想いはあります。色々なポジションでプレーしていますが、結果で示すことが全てだと思っています。結果にこだわってプレーし続けていきたいと思います。監督から与えられたポジションでプレーをして、結果を残すことが選手としての価値にも繋がりますし、色々なポジションでプレーすることから得る経験もあると思います。サッカーはすべてが繋がっていると思うので、そこを意識して頑張っていきたいと思います。