昨日行われた天皇杯のヴェルディ戦に勝利し、指揮した試合は3勝1分といまだに負けがない。シーズン途中での就任ながらチーム状況を上向かせているピーター クラモフスキー監督。就任直前まで3連敗していた東京は、新指揮官の元で何が変わったのか。
7月1日に行われた柏レイソル戦と7月8日に行われた浦和レッズ戦の解説を務めた水沼貴史氏に、東京の変化について語っていただきました。
解説:水沼貴史氏
Q、アルベル監督からピーター クラモフスキー監督に交代し、もっとも変化を感じる部分はどこでしょうか。
水沼氏
何より結果にも出ているように守備ですよね。無失点が3試合続いている。明らかに強度の部分が改善されたのは分かります。「こうやっていくよ」とはっきりした時の東京は結果を出せる印象が強くて、まさに今はそういう状態だと思います。新しい監督が来て、良い形で守備の改善はできて、3試合すべてで無失点。あとはここからどう攻撃につなげていくかが大切だと感じています。
Q、具体的に守備で変化を感じる部分を教えてください。
水沼氏
センターバックの強度がぜんぜん違いますよね。相手のフォワードに入った縦パスをセンターバックがつぶしに行けるか、行けないかで変わってくる。クラモフスキー監督は「決まり事」という言葉をよく使っているけど、センターバックは縦パスを絶対につぶしにいかないといけない形になっているはずです。そうすると、センターバックがつぶしに行く前提で周りの選手はポジションを取るし、そのあとの形も整理されていると思います。なかにはそれを“ぼかす”チームもあって、日本は中間ポジションを取る相手を少しステイしてみて、そこにいられても怖くないから、ゴール前に入ってきた時に捕まえて守るチームも多いです。ただ、今の東京はその“ぼかし”をなくしている。だから、高い位置で奪えればショートカウンターが間違いなく効く。そこが一番変わったと思いますね。この3試合をみて、エンリケ トレヴィザン選手は守備のキーマンになっていきそうですね。
Q、クラモフスキー監督が就任してから3試合の印象はいかがでしょうか。
水沼氏
名古屋グランパス戦はゴールの取り方がすごく良かったですよね。2点ともショートカウンターのような形でめざしている強度の高さが得点につながったかなと思います。柏レイソル戦も守備では相手をうまく封じて3本しかシュートを打たれていないし、得点もワイドの選手が絡んでいたので名古屋戦と違う形で取れていました。ただ、浦和レッズ戦は長いボールを蹴られて、前線からの守備を剝がされてしまった印象がありますね。
Q、今の時点では、守備でリズムを作れると攻撃にもリズムが生まれる印象でしょうか。
水沼氏
名古屋戦はスプリント数が156回で走行距離でも上回っていて、柏戦ではスプリント数は少し下回ったけど走行距離は上回っている。でも、浦和戦は走行距離で上回っていたけど、スプリント数では負けているので、どうしても走らされたイメージが残ったかもしれないです。強度はスプリント数で見ると分かりやすいから、どうしても守備で行くに行けない感じはあったかもしれないですね。
Q、7月16日(日)の鹿島アントラーズ戦の展望をお願いします。
水沼氏
お互いに強度は高いので切り替えの部分が一番大事になると思います。クラモフスキー監督はトランジションについてはかなり言っていると思いますけど、鹿島もそこでは引けを取らない。あとは、ロングボールもいとわずパワー系でくる場合もあるから、そこで怯まないことですね。苦手な埼玉スタジアム2002で負けないで帰ってきたことをポジティブに捉えれば、味の素スタジアムでの勝率は高いですし、今は流れが良いですから、十分に勝機はあると思います。
Q、鹿島戦を終えれば中断期間に入りますが、今後、どこがどうなっていけば面白いチームになっていきそうですしょうか。
水沼氏
ウイングらしいウイングが戻ってくればもっと変わると思います。テル(仲川輝人選手)やアダイウトン選手など前線のタレントが揃ってくれば面白くなるかなと。田川(亨介)選手が帰ってきたのは大きいですよね。あとは、最終ラインと前線をつなぐ役割を誰が担うか。一番良いのは渡邊凌磨選手が真ん中にいてテルが右にいる形。ワイドの選手はウインガーだから張っていることが多く、中央に人を集めないと外をフリーにさせられないので中盤のトライアングルは重要です。その意味では、「ここのポジションが“キー”」という要因はないと思いますね。
Q、最初に仰ってもらったように安定感が出てきた守備をどう攻撃につなげていくかが、今後の見どころになりそうですね。
水沼氏
攻撃も守備もいっぺんには改善できないから、クラモフスキー監督が、最初に失点の多さを改善しないといけないと考えたのは当たり前のことだと思います。ただ本来、クラモフスキー監督が目指しているのは、守備での強度もそうだけど、攻撃でいかに主導権を握れるかだと思います。アンジェ ポステコグルー監督の下でやっていた横浜F・マリノスでも、監督して指揮を執った清水エスパルスとモンテディオ山形でもそうだったけど、攻撃で主導権を握れている時はすごく良いサッカーをできていました。東京でもその状態にどう持っていくかですよね。その作業はこれからだと思うので、注目してみていきたいと思います。
Text by 須賀大輔(エルゴラッソFC東京担当)