東京での14シーズン目を6シーズンぶりの二桁順位で終えた森重真人選手は、「危機感しかない」と結んだ。人生の半分をプロサッカー選手として過ごし、キャリアの終幕も見えてきた。そんなチーム最古参選手は「何を言われても、どう思われても良い」とさえ言う。青赤のキャプテンの2023シーズン総括には、悲痛な叫びにも似た言葉が並んだ。そこには「勝ちたい」という意志が宿った。
何をめざし、どういうサッカーをするのかが明確ではなかった
Q、まずは、今シーズンを振り返って率直な感想から聞かせてください。
A、大変なシーズンだった。それが今の率直な感想です。
Q、開幕前のキャンプは良い時間を過ごせたと思いますが、以降は少しずつ不安定な戦いが続きました。スタートはどのような印象でしたか。
A、キャンプも含めて、良い手応えは持っていました。チーム全体の雰囲気も良く、アルベル監督就任2シーズン目ということもあり、「よし、今シーズンこそは」という想いで開幕戦を迎えました。そこで、浦和レッズに勝利を収めることができましたが、続く柏レイソル、京都サンガF.C.との試合で勝点を取りこぼしました。浦和に勝って勢いづくかと思っていましたが、ちょっとつまづいたところがあったと思います。やはりスタートダッシュが大事で、そこで勝ち切れなかったことは大きかった。開幕から3試合で、1勝1敗1分という戦績は自分たちの実力、今シーズンを示していたと思います。
Q、そこからゴールデンウィークに入って連敗が続き、国立競技場で川崎フロンターレとの多摩川クラシコを迎えました。
A、川崎戦で勝てたことは、ある意味東京らしい結果でした。お祭りというか、みんなのモチベーションが高い時は勝つことができる。開幕戦や国立という特別感のあるゲームの時は、気持ちを一つにして結果を残せている。あそこで、川崎に勝てたというのは確かに自信にはなりました。ただ、その中身を見た時に、自分たちのサッカーが練り上げられて完成度が高まったことが勝因ではありませんでした。手応えではなく、危機感や、モチベーションといった、一瞬に懸ける想いの強さで勝てたという印象であり、サッカーが成熟されて勝点を手に入れたという印象ではありませんでした。
Q、多摩川クラシコの勝利をきっかけにできず、そこからは1分3敗で監督交代を迎えました。森重選手自身、どんなことを考えていましたか。
A、1シーズン半を掛けて取り組んだボールをつなぐところは、徐々にリスクを恐れて、安全な判断しかできていませんでした。例えば、ボールを外周りで繋ぐだけでは相手も守りやすくなってしまいます。そこからの打開策がなく、どうしても個人頼みになってしまうところがありました。中央を使う、時にはシンプルに蹴っても良いんじゃないかというアイデアは出つつありましたが、だんだんチグハグになって結局何をすれば良いのかが、チームの中で統一されていない状態になり、結果も伴わなくなってしまいました。僕たちが何をめざし、どういうサッカーをするのかが明確ではなかったと思います。
得点を取るクオリティとアイデアが必要
Q、ピーター クラモフスキー監督を迎えた後半戦の序盤は、徐々に右肩上がりに成長していく兆しは見せていました。その間は何がうまくいって、どこに不安を感じていましたか。
A、監督交代が決まって、最初の試合で安間(貴義)ヘッドコーチがもう一度、やることをハッキリとさせてくれました。サッカーの本質的な部分でできていなかったところを、しっかり見直すことはできたと思います。それもあって、ルヴァンカップのグループステージでは京都に勝つことができました。そこからクラモフスキー監督に代わり、攻撃的なサッカーを掲げ、強度の高い練習に取り組み続けました。その強度を生かしたプレーを求めつつ、まずは勝点を積み重ねることが重要でした。理想よりも、しっかり勝てるサッカーを後半戦の序盤はめざし、より基本に忠実に、本質を大事にしながら取り組んだ印象です。
Q、チームは勝点を積み上げ、上向いたように見えましたが、J1リーグ第24節の横浜F・マリノス戦から4試合未勝利が続きます。上位チーム相手に接戦をモノにできなかった要因はどこにあったと感じますか。
A、打開策がないというのが、一つの理由に挙げられるのかもしれません。それまではハイライン、ハイプレスとプレー強度で相手を圧倒できましたが、一つ上のレベルの相手や、引いて守る相手に対しては、もう一つ二つ違ったアイデアと、違う角度からの攻め方が必要になります。自分たちの引き出しが足りませんでしたし、その差が勝点を失ったことに影響していると思います。
Q、それは2022シーズンから抱えてきた問題でもあったように思います。
A、後半戦は強度や攻守の切り替えで、まずは相手を圧倒することに時間を割いてきました。攻撃的にいこうとしても、攻撃の手段やパターンはまだまだ少なかった印象です。攻撃的なサッカーを掲げていますが、自分たちも伸び悩んでいる最中だと思います。そこから得点を取るところまでのクオリティとアイデアを持った選手が、さらに出てくる必要があると思います。
Q、今シーズンはディエゴ オリヴェイラ選手が復調し、15得点を挙げました。ですが、それに次ぐ選手とはゴール数で大きな開きがありました。
A、チームの狙いとしてどのエリアを取りに行くのかとか、相手がこう来たらここへボールを送るとか、そういう共通認識はできつつあると思います。あとは、その再現性を高めてチャンスを作り出す回数をいかに増やしていくかです。そこはもっと取り組んでいかないといけませんが、やはり攻撃にはアイデアが必要不可欠です。そうしたアイデアを持って攻撃を引っ張っていく存在が出てきてほしいと思います。
若い選手がうるさいぐらいでちょうど良い
Q、そのためには、チームの成熟が必要不可欠だと思います。即興や単なる思いつきではなく、確信がなければアイデアをチームとしては生かすことはできないと思います。
A、選手たち自身が、もう少し自分で考えないといけない部分はあるかもしれません。全体的に受け身すぎるといいますか、こうしたいと意見を出し合う選手も決まってきてしまっています。それぞれのポジションから気づいたことを言い合い、意見をすり合わせて良いモノをつくることが重要です。最終ラインにいる僕と長友佑都選手が、後ろから見えたことは伝えています。ですが、その言葉に対して「そうなんだ、そうしなきゃいけないんだ」と、単方向のコミュニケーションで終わってしまっている印象があります。
Q、東京が抱えてきた問題の部分でしょうか。
A、そうではなく、例えば後ろから見たらこう見えるという事象があるとします。でも、守備側はそう言っているけど、攻撃側や中盤からすればそれは無理だよとか、別の意見があるはずです。それを伝えてくれないと、いつまでもすり合わすことはできません。チームでプレーする以上は、コミュニケーションが必要不可欠です。自分が輝くために、自分がより良いプレーをするためには絶対にこれ、と思っていることがたくさんあるはずなんです。それを黙ったままにしておくのではなく、互いが意見することで新たな発見があり、理解も深まります。
黙々と言われたことだけやりますだと、それではチームにはなりません。やっぱり言っていかないといけない。もちろん選手それぞれにキャラクターもあります。それを言わなくても、実行できる選手は最初から松木玖生選手のように要求してきます。自分がやりやすいように周りを動かすことが自然とできている。誤解を恐れずに言えば、嫌われたくないとか、意見をぶつけ合うことを避けていては話が先に進みません。そこから先で初めてすり合わせや、意思統一という次の段階が始まると思っています。
Q、シーズン中には中堅や若い選手にもっと話せと伝えたり、アドバイスを送る姿が目立っていました。
A、若い選手がうるさいぐらいでちょうど良いんです。彼らがチームを引っ張っていくぐらいじゃないと、チームの元気も出ません。いつまでたってもオレたちが試合に出続けているのもおかしな話だと思っています。良くも悪くも東京は真面目な選手が多いです。昔から、尖った選手がいませんし、大人しすぎるのかなと思います。
Q、若い頃は黙々とプレーしていた森重選手が考え、アイデアを出し合えるようになったように、時間を掛けたとしても、発言する選手が出てこないとこの先の継続的な強さは手に入れられないということですね。
A、例えば、長友選手はリスペクトすべき存在です。ですが、リスペクトと、試合中に気を遣って蓋をするのは違います。もっと良くするためには要求しないといけません。結果的にそれで悪くなって、良いプレーができなくなったらサッカーは楽しくありません。自分がやりたいようにどんどん周りに要求して、それで攻撃を引っ張っていってくれる存在なら全く問題ないと思います。それがなく、全てがリアクションでは何も生まれません。バランスを取るのはオレたちがやる仕事だから、若い選手は好き勝手やってくれて良い。チームに迷惑をかけても良いし、自分が思うようにプレーして、どんどんチャレンジして、ミスして、やりすぎているくらいでなければ逆に難しいと感じています。
Q、森重選手も長友選手も若い頃は、ピッチで自分の好き勝手にプレーする印象もありました。先輩と言い合ってでも構わずやり続けるから、ベテランが苦笑いしながら尻ぬぐいをしていたのを思い出します。
A、だからこそ考えられないんですよ。何も言わずに、プレーしても楽しくないでしょ?って。今の場面ではこうしたら良いのにとか、ボール出してくれたら良いのにとか、絶対思っているはずなんです。何で前向かないのとか、前向いてこっち出せよとか、それを要求し合わないといけません。もちろんみんなが好き勝手やっても勝つことはできませんが、例えば松木選手がそれをやり出せば、それに共鳴して周りが反応して、こういうプレーをやりたいならもっとサポートしようという空気感が生まれます。一つひとつを要求することで良いサッカーが作り上げられます。
東京で勝ちたい
Q、残念ながら森重選手自身の連続ゴールは今シーズンで途絶えましたが、最終節の湘南ベルマーレ戦は勝って終わることができました。
A、記録については全く気にしていませんし、何かをいただけるわけでもないので(笑)。最後は勝って終わることができましたが、冷静に今シーズンを振り返らないといけないですし、しっかりと分析しなければいけません。来シーズンに向けては危機感しかありません。今シーズンを終えた手応えはあまり得られていないのが正直なところです。このままでは、明るい未来が待っているなんて考えられません。各シーズンが勝負ですし、一つ歯車がかみ合えばチームがうまく行くことも知っています。なんとかもがきながら危機感を持ってやっていきたいと思います。
Q、その来シーズンに向けて、このチームはどう変わるべきですか。
A、中堅の選手が中心となってチームを動かしていくことが重要です。そのなかで、プレースタイルとして攻撃的なスタイルを掲げている以上は、細かい部分や場面でみんながアイデアを出し合って作り上げていかなければいけません。そのスタイルで、覚悟を持ってどんな結果になろうが、勝利をめざしていくと決めた以上はやっていくしかありません。
Q、ホーム最終節では厳しい言葉を投げ掛けた以上、自分にも厳しい視線が注がれると思います。
A、その覚悟があったうえで言いましたし、自分にもプレッシャーを掛ける意味で言葉にしました。今、チームとしてもっと危機感を持たなければいけません。一人ひとりが責任を持って東京の中心選手だと思いピッチに立つ必要があります。僕自身が何を言われたって構いません。一人でも多く共鳴してくれる若手が出てくることを待っています。もしも誰かを批判したいのなら、“自分が思うようにやってほしい”と話した俺を批判してくれれば良いです。だからこそ、若い選手たちは何も恐れずにチームの中心となってやってほしいと思っています。
俺は東京で勝ちたいんです。
Text by 馬場康平(フリーライター)