2023明治安田生命J1リーグ第10節 アルビレックス新潟戦で右アキレス腱断裂という大きな怪我を負った中村帆高が約9ヶ月の長期離脱から全体練習に合流した。今シーズンに懸ける覚悟、リハビリ期間中の仲間との絆、同期の活躍、そしてファン・サポーターへの想いを語った。
Q、1月27日にゲーム形式のトレーニングを含め、全体練習に合流しました。戻ってきてあらためて感じたことはありましたか。
A、東慶悟選手には『良い顔しているね』と言われました。サッカーは楽しいと思いましたし、自然とその想いが表情に出ていたんだと思います。ピッチに立って思うことは色々ありますが、一番はサッカーを楽しめていることです。ピッチを駆け上がる感覚や、やっぱりここだな、ここに帰って来られたんだな、という気持ちです。ですが、スタートにまた戻ってきただけ。ここから新たな戦いが始まる覚悟を持てた一日になりました。
Q、9か月という期間を経て全体練習に復帰しました。この期間、どのようなことを考えていましたか。
A、正直、色々なことがありすぎて覚えていない部分もあります。一言で表すと本当に大変でした。アキレス腱の治癒過程やリハビリに関しては、トレーナーやドクターをはじめ、多くの方に支えていただきました。“もうやるしかない”と思えましたし、妥協せずにここまで来ることができましたが、怪我をしたという現実を受け止めるまでには多くの時間を費やしましたし、メンタルの部分は本当に辛かったです。
Q、相当な覚悟を決めて臨んだ2023シーズンだったにも関わらず、大怪我での途中離脱でした。悔しさが強く残ったと思います。
A、2022シーズンがアルベル前監督体制1年目で、個人としても本当に難しいシーズンを過ごしましたが、多くのことも得られました。東京というチームで結果を残さないことには自分自身が納得できない、現状から逃げたことになると思っていました。その部分を自分自身にも問いかけて、毎シーズン覚悟を持って戦っていますが、2023シーズンは言葉に表せないくらい懸ける想いが強く、キャンプからフルスロットルで、リーグ開幕後もアシストや得点も良いペースで重ねることができていました。シーズンを通してプレーできればもっと新しい世界が見える――。そう思っていたタイミングの怪我だったので、受け入れるまでには時間がかかりました。
Q、怪我の期間に、新たに掴んだ感覚や得たものはありましたか。
A、どれだけ身体のケアを勉強して気を遣っていても、怪我が起こってしまうリスクはありますし、入念にケアをしなくても怪我をしない人はいます。ある意味、運の要素があると思います。怪我をしたことをいつまでも考えていると、自分の今までやってきたことを否定することにもなりがちで、それだけは避けたかったですね。起きてしまった怪我はしょうがないと割り切って、怪我の期間中はトレーナーの方と毎日話をして、意見を採り入れて、より自分の身体と対話しました。
怪我をしてしまった自分に対して、後悔はありません。怪我をする前の自分を見た時に自信を持って“やれることはやった”と言えますし、先ほど言った通り、怪我のリスクは常にあり、どうすることもできない場合が多々あります。根本的にどのように治すのか、どのように改善していくのかを、トレーナーと手探りで前に進みました。まずはアキレス腱を完治させること、100パーセントで戻ることが重要でした。何かが起きてしまった時に、過ごしてきた日々を後悔しないようにここまでやってきた、と思える状態を常に作っておくことができたとは思っています。
人生で 一番落ち込みましたし、先が見えない、もうサッカーができないと思った時もありました。膝の怪我を負ってしまった時もそうでしたが、メンタルの上下動があり、どうしてもネガティブな方向に進んでしまいます。心の持ちようという意味では、本当に多くの方々に支えていただきました。一人ではきっとダメになっていた部分、メンタル面の管理については、心のブレる幅が少なくとても安定していましたし、成長できた部分の一つです。
Q、リハビリの期間中にはチームの活動にも精力的に参加されました。
A、シーズン序盤に選手会長をお願いしたいという話をいただきました。自分自身が選手会長になることは考えていませんでしたが、やるからにはピッチ内外で自分にできることは全てやる、と決めていました。それが結果的に東京を良くするためであれば、ピッチ内外を問わずに全力でやろうと。2023シーズンは、結果的に怪我をしてしまい、“今の自分にできることは何か”と考えた時、ピッチ内では貢献できないですが、ピッチ外でチームに貢献できることがたくさんあると思っていました。自分にできることであれば、という想いで色々なことに関わらせていただきました。
Q、“支えてくれた人”という部分では、怪我をした中村選手へのメッセージTシャツがとても印象的でした。
A、あのTシャツの件については、僕はもちろん何も知らされていませんでしたし、手術が終わったばかりの病室で川崎フロンターレ戦をDAZNで観ていました。試合が終わり、周回する選手たちが同じTシャツを着ていて、よくよく見るとメッセージが書いてあり、驚きました。チームのみんなが本当に待ってくれている、手術が終わったばかりでここから先、復帰までに長い時間を要するタイミングでTシャツを着ている映像が目に飛び込んできました。仲間が死に物狂いで戦い、多摩川クラシコに勝利し、メッセージTシャツを着てくれた。これだけ待ってくれる人がいるなら、ネガティブにくよくよしている方が申し訳ないですし、こんな姿でみんなにまた会えるのか、と思いました。非常に辛い時期でしたが、決意を固めた瞬間でしたし、辛い時間の支えになりました。
「with Hotaka ~メッセージTシャツ誕生の裏側~」はこちら
Q、同時期には、ファン・サポーターの方々から寄せ書きもありました。
A、きれいごとに聞こえてしまうかもしれませんが、“やっぱり俺って一人じゃないんだな”って改めて感じることができました。先ほどの話にもありましたが、多くの方々がメッセージを届けてくれて、復帰を待っていてくれるのであれば、僕はその場所に必ず帰らなければいけないと思えました。ネガティブなこと、辛い気持ちをパワーに変えて、何としてでも戻るしかないと。そうすることでしか、僕はファン・サポーターのみなさんに、恩返しできないと思っていますし、いくら口でかっこいいことを言っても、選手はサッカーやプレーでしか返すことができません。ファン・サポーターのみなさんのためにピッチに立って活躍する姿を見せることが僕にできる唯一のこと。厳しい戦い、ポジション争いが当然待っていますが、自分を信じて頑張りたいと思います。
Q、ポジション争いも含め、これからが楽しみですね。
A、今シーズンはどのポジションを見てもスタメンを確約されている選手は誰一人いない、選手層の厚いチームになっていると思います。ただし、サッカー選手、プロの世界はそういうものです。怪我をしていたと言い訳もできません。また最初から激しい争いに飛び込み、必ずポジションを掴み取って自分の力を証明したいと思います。
Q、安部柊斗選手や紺野和也選手には負けたくない気持ちも強いのではないですか。
A、もちろん彼らの今の活躍に嬉しさもありますが、正直に言うと悔しさの方が大きいです。僕自身、怪我で出遅れてしまいましたが、追い越す準備はできています。『紺ちゃんも柊斗も待っていろよ。すぐに追いついて、追い越してやるぞ』と思えることこそが同期だと思います。ポジションは異なりますが、同期であり仲間であり絶対に負けたくない二人。必ず追い越します。