似て非なる二人のアタッカーに迫った。そのテーマは“ドリブル”。
「特長はドリブル?」と聞かれて、首をかしげる遠藤渓太と迷いなく縦に振る俵積田晃太から出てくる答えは、共感する部分もあれば、真逆な部分もありと、同じ左ウイングを主戦場としながらも、その考え方はそれぞれだ。
前編ではお互いのプレーやドリブルの印象、持ち足と間合いについて聞いた。共感し合う二人が特に声を揃えたのは、右サイドと左サイドでの視野や感覚の違い。そこにはドリブラーにしか分からないものがあった。
──開幕を直前に控えた手応えや仕上がりはどうですか。
遠藤渓太 ドイツであまりプレーできていなかったので、フィジカル面で上げていくことが自分なりのキャンプからのテーマでした。60分間や90分間の試合をやれましたし、コンディション的には良い状態だと思います。チームとしての課題は、クロスへの入り方ですね。逆サイドにボールがある時の自分もそうですけど、トラップして中を見た時に入ってきてほしいシーンがあるので、そこは開幕までにみんなで改善していきたいと思います。
俵積田晃太 まだコンディションの上げ方とか調整の仕方は難しいと感じている部分もありますけど、若いのでどんどんガツガツやっていけたらと思っています。ただ、昨シーズンの一年間でプレーに関する部分の経験は積めたと思います。今年のプレシーズンも練習試合でドリブルやゴール、アシストでアピールはできていると思うので、スタミナ面や守備面、オフザボールの部分を改善していきたいですね。
──ポジション的には左ウイングを争う存在だと思いますが、ライバル視していますか。
遠藤 隣にいるのに絶対に言いづらいでしょ(笑)。
俵積田 そんなことないですよ。渓太くんから学べるものは多いと思っていますから。渓太くんのプレーを見ていて、ドリブル以外にもクロスの質や、クロスに入っていく動きは自分と比べてすべてを高いレベルでこなしているので、すごいと思います。それをどんどん吸収していきたいです。まさにお手本です(笑)。
遠藤 持ち上げすぎるのはやめろよ(笑)。東京に来る時に「速くて、若くて、お前に似ている選手がいる」とは言われていたんだけど、一緒にやってみたら自分よりも縦に行く回数が多くてビックリした。自分のプロ2年目よりも全然やれていると思うし、本当にうかうかしていられないですね。
俵積田 練習中は逆のチームに入って、逆サイドになっちゃうことが多いのであまり話せないですけど、練習後には話すこともありますよね。
遠藤 クロス練習の時は左サイドで一緒になるしね。でも、正直、特にアドバイスできることはないんだよ。「ここを直したほうがいい」とか「こうしたほうが良いよ」と思うこともあまりないから。
俵積田 それはうれしいです(笑)
ドイツでは「ドリブルから離れていた」と振り返る遠藤渓太と、プロ1年目の昨シーズンにドリブルにこだわって自分を証明しようとしていた俵積田晃太。置かれた状況は少し異なるが、 お互いに“ドリブラー”としてのタイプは「同じ」だという。持ち足、間合い、視野──。ドリブルと一言で括っても、考えることは多岐に渡る。意外にも、「渓太さんはどうですか?」と後輩がリードしながら会話は進んでいった。
──やはりお二人の共通項は“ドリブル”だと思います。武器がドリブルとか、プレースタイルはドリブラーとか、そう言われてしっくりきていますか。
遠藤 僕はあまりないですね。むしろ、前ほど仕掛けられなくなっていると感じていて。というのも、ドイツではサイドのポジションでプレーする機会があまりなくて、ずっとインサイドハーフでプレーしていたので、ちょっと錆びているんだろうなと思っています。もちろんドリブルは好きですけど、自分が仕掛けられる時は行けば良いし、行けない時は味方が良い位置にいるならば、そちらを選べば良いと思っています。
俵積田 僕はドリブルを特長にずっとやってきているので、その自覚はありますね。小学生の時からずっとドリブルばかりやってきて、ずっと磨いてきた感じです。きっかけは兄で、足が速くてサッカーをやっていてドリブルをしていたのを見て、その影響で自分もサッカーを始めました。そのきっかけは大きいと思います。
──似ている部分と異なる部分がそれぞれあると思いますが、お互いにどんな選手だと見ていますか。
俵積田 ドリブルの仕方は同じですよね?
遠藤 ボールの持ち方というか、運び方や間合いは一緒だよね。ボールを2、3メートルくらい前に出して、スペースを作って、クロスまで持っていく形は自分のほうがうまいかなと思うけど、直線はタワラのほうが速い。縦にちぎるのは速いよね。
俵積田 仕掛ける時って、相手のことを見ていますか?
遠藤 相手は見ている。足の動きとかを最後まで細かくチェックしているわけではないけど、こっちが先手を取るほうが良いから、ディフェンダーに主導権を握られるよりも自分が主導権を握れるように意識している感じかな。
俵積田 そうなんですね。いつもだいたい感覚でやっちゃっています……(苦笑)。
──ドリブルを仕掛ける時に大事にしていることはありますか。
俵積田 まさしく渓太くんが言ったように、先手を取ることだと思います。相手主導になってしまうと自分の形に持ち込めなくなっちゃうから、とにかく自分から仕掛けていくことが大事だと思います。相手によっては前を向かせないようにしてきたり、そもそもドリブルをさせないようにしてきたりするので、そういう対応をされる前にドリブルできるスペースを作れれば、自分の形に持ち込める。どんな状況が優位というよりも、自分から仕掛けられ始めたら先手を取れたと思っています。
遠藤 対峙する相手と距離があったほうが、自分主体で自分の間合いで仕掛けられるよね。
俵積田 たぶん相手と距離が近いほうが良い選手はいないです(笑)。ボランチとかだったら足さばきでいなしてキープすることが得意な選手はいるかもしれませんが、サイドはそういう場所ではないというか、相手を剥がしにいくエリアだと思っているので、近過ぎてもダメだと思います。
──主戦場は左サイドで同じですが、ドリブラーにとって右サイドと左サイドでは感覚が違いますか。
遠藤 違いますね。
俵積田 全然違います。
遠藤 一番違うのは持ち足。今までは右サイドでも左サイドでも同じように内側の足でボールを扱えていたけど、それでも右サイドだとぎこちないですし、感覚は全然違います。分かりやすく言えば、日本代表だと、伊東純也くん(スタッド ランス)は右サイドで縦に行くじゃないですか。でも、タケ(久保建英選手/レアル ソシエダ)だったら右サイドで最初は左足で持って中央に行く。そうやってそれぞれスタイルがあるので、そこの難しさや慣れはありますよね。
俵積田 まず右サイドに立った時点で感覚も景色も全く違う。やっぱり持ち足の違いが一番大きいのかな。左サイドで右足でボールを持ったら、ほとんどの人がアウトサイドでドリブルをすると思いますけど、それが一番ゴールに向かえるんですよね。右サイドでも右足でボールを持ってゴールに向かうことはできますけど、右足が内側にあるほうが間違いなく仕掛けやすいです。
遠藤 そこは利き足が一番大きいんじゃない? 右利きで左足でさらして縦に行く選手はあまりいないと思う。でも、(室屋)成くんはそれをやるかも。
俵積田 右利きで左足持ちなんですか? それはすごいですね。
──どちらの足で持つかはそんなに違うんですね。
俵積田 逆サイドで得意なサイドと同じようにやるのは簡単じゃないですよね。
遠藤 そこは慣れもあると思う。その人がそのポジションでやっていくなかで自分に合う型を見つけられるか。ただ。両サイドから仕掛けて、クロスまで行ける人はそんなに多くないと思います。
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Text by須賀大輔(エル・ゴラッソ)