「試合に使ってもらえれば結果を出す自信はある」
東京加入後、かねてからそう断言してきた荒木遼太郎が開幕2試合で3ゴールの大活躍。トップ下を定位置とするパリ五輪世代のゲームメーカーが、一気にチームの“顔”となりつつある。
選手個人として開幕から大きなインパクトを残し、U-23日本代表選出が注目されるなど輝きを放つ一方、チームは3戦未勝利と苦しんでいた。“10番”の役割を託され、攻守両面で前線から青赤軍団をけん引する立場になった彼は、果たして自身とチームの現状をどう見ているのか。
ピッチ内外における荒木遼太郎の思考と成長、そして変化を紐解いていこう。
──セレッソ大阪との開幕戦では、得点後にゴール裏へ向かってジャンプして喜びを表しながら、胸のエンブレムを叩いていました。開幕戦のめちゃコマレビューでもイラストになっていましたが、ゴールパフォーマンスはいろいろ考えているタイプですか。
いやいや、全然考えていませんよ。それこそ開幕戦なんて、ゴールを決めたいとは思っていたんですけど、本当に決めるとは思っていなかったので、パフォーマンスは何も考えていなくて(苦笑)。だから開幕戦のパフォーマンスは、本当にとっさに出てきました。そこでゴールを決めることができたので、「もしかしたら次もあるかも」と思って、もし決めたら味の素スタジアムでファン・サポーターのみなさんにあいさつをしようと考えて“お辞儀ポーズ”を準備していたら、しっかり決めることができました(笑)。
──今までお決まりのゴールパフォーマンスはあったんですか。
特にないんですよね。鹿島アントラーズではゴールを決めたらベンチに行って、みんなで喜ぶようにしていたので。それがチームとしての士気を高めると思うし、今後は東京でもそうしようかなと思っています。
──セレッソ大阪、サンフレッチェ広島と対戦した開幕からの2試合は、ともにリードを許しながら粘り強く追いついて引き分け。ヴィッセル神戸との3戦目は初めてリードを奪う展開から悔しい逆転負けでした。個人的には結果を出せている一方、チームが未勝利というもどかしさもあるのではないかと思います。まず開幕からの戦いを振り返っていかがですか。
これは結構メディアのみなさんにも言っているんですけど、チームとしての攻撃も守備もどんどん良くなっていますし、そこはプラスに捉えています。ただ、ゲームの運び方がまだまだ足りません。
──試合運びに関して、具体的にどんな部分を課題だと捉えていますか。荒木選手が昨シーズンまで在籍していた鹿島アントラーズは“試合巧者”というイメージが強いです。
例えば神戸戦だったら、先制点を決めた後の5〜10分が大事になってくるので、そこで絶対に失点をしてはいけないですよね。それは守りに入るのではなく、もっと攻めに行こうという話はしていたんですが、それがうまくできず、ピッチで表現することができなかった。そういう部分は課題ですね
──それはどうしたら改善していけるものなのでしょうか。
まずチームとして高い位置でプレーするのは一つの策だと思います。相手は先制されて前に出てくることが多いので、東京としては安易に縦に蹴るのではなく、しっかりつなぎながら恐れずにビルドアップして、そこで一つ二つ外せれば、相手はちょっと下がらざるを得ない。そういう勇気を持ったプレーは必要だと思います。
でも……今シーズンは開幕からリードする展開がなかったので、正直少し難しいかなとは思っていたんですよね。ただ、それもプラスに捉えれば、チームとして良い勉強になったとも思います。開幕からの3試合はリードされながら引き分けに持ち込んだり、先制しながら逆転負けをしたりしましたが、ここからチームとして勝ち切る力が絶対必要になってくる。色々な要素があるなかで、そういう力をしっかり手にしていきたいですね。
──勝ち切るためには荒木選手を含む攻撃陣がゴールに絡むシーンを増やしつつ、しっかりと連動した守備を見せていくことが必要になりそうです。
まず攻撃陣に関しては、本当にすごい選手が揃っていますよね。一人ひとりに個性があるし、攻撃に関して連携がハマっていけば問題ないと思うんです。ただ、開幕から失点が多くなっているところは課題。チーム全体で守ることが大事になってくるし、前線からの守備はもちろん、チーム全体で絶対失点してはいけない時間帯を共有して、しっかり守ることができたら、もっと勝利に近づくことができるはずです。
──それは時間帯や守り方の意識を合わせる必要があるということですか。
そうですね、みんなで時間帯における考えをちゃんと合わせた上で戦うことができれば失点は減っていくと思います。
──個人としては開幕2試合で3ゴールという結果を出しています。ここまでの自己評価はいかがですか。
数字を見れば良いかもしれませんが、2ゴールを決めた開幕戦も90分間を通してのプレーは全然良くなかったと思っています。試合を重ねるごとにパフォーマンスは上がってきているし、自分のゴールでチームを勝たせたいという想いが強いので、自分でゴールを決めて、自分で守るくらいの気持ちでもっともっと貢献していきたいです。
──開幕戦の試合後、「使ってもらえたら結果を出す自信はあった。東京に呼んでくれて、使ってくれたピーター監督に感謝している」と話していました。実際に加入してみて、具体的にどんな部分がフィットしていると感じていますか。
まずフォーメーションの部分で“10番”(トップ下)を置くようにしているのは自分にとっては大きかったですね。実際にピッチの中でも自分を経由しながら攻撃を進めていくサッカーで、それが本当に自分に合っていると感じています。キャンプを終えて、日々練習を重ねていくうちに少しずつ周りからも信頼してもらえるようになってきて、パスが出てくるようになって、そこから攻撃を作れるようになってきたので、やっぱり合っているなと改めて思いますね。
──ちなみに東京移籍を決める際、色々な選択肢があったと思います。ピーター クラモフスキー監督から言葉をかけられて決め手になった口説き文句はありましたか。
まず本当に監督のスタイルが自分に合っているなと思ったんです。あとは今もずっと言われているんですけど、「お前のプレーが大好きだ」って(笑)。実際に自分の良さが出せているので、本当にピーター監督のところに来て良かったと思っています。
──開幕から完全に攻撃のリンクマンになっている印象です。周囲から信頼されるようになった部分も大きいと思いますが、実際にピッチ内ではどんな工夫をしていますか。
ボールホルダーに対して常に顔を出して「自分はここにいるよ」って動きと声で示し続けて、そこからパスが出てくるようになりました。前線には動き出しの分かりやすい選手が多いので、自分がたくさんボールを引き出して、前線の選手を生かすようなパスを増やしていきたい。全体的にやりやすい選手は多いです。後ろのポジションにいる選手は自分を見て、パスをどんどんつけてくれますし。個人的にはボールを触りながらリズムを作るタイプなので、やりやすさは増していますね。
──ズバリ、良いプレーができている時の自分とは。
やっぱりボールをたくさん触れている時ですね。ボールを触ればチャンスを作れるし、自分が触ることによってチームのリズムを作ることもできるとも思うので。
──逆にチームとしても個人的にも試合中に難しい状況になることはあると思います。そうした時の解決法は。
そこは試合数を重ねていって解決していきたいところですね。今までは自分が年下の立場で、先輩たちが引っ張ってくれていたから、あまりそういうことを意識したことがなかったんです。でも、もう若手ではないし、どんな立ち居振る舞いをできるかは……難しさはありながら、正直まだ探っているところです。
──ここからチームの立て直しに向けて、どんなことをしていきたいですか。
まず周りへの声掛けは絶対必要ですよね。それに選手としては、難しい状況を一人で打開できるくらいのプレーヤーになりたい。それが一番簡単ですから。
──チーム内での立ち位置や自分の意識、置かれている状況は少しずつ変わりましたか。
そうですね。年齢もそうですし、変わってきた実感はあります。このチームは若い選手が多いので、そういう部分も意識の変化につながっているのかな。
──東京に移籍してきて、期待に応えて結果を出さなければという責任感も生まれてきましたか。
いや……そこはそんなに感じてないですね(苦笑)。まずはしっかりサッカー選手として輝くために頑張っていきたいと思います。
──4月には浦和レッズ、鹿島アントラーズとの国立競技場での2連戦があります。まず浦和レッズの印象はいかがですか。
開幕直前に練習試合をして、結構良いチームだなと思いました。リーグ戦も見ましたし、完成したら怖いなという印象はありますね。
──今シーズンからアンカーにスウェーデン代表のグスタフソン選手が加入しました。ポジション的にはまさに荒木選手とマッチアップする相手になると思います。
そこは練習試合でも結構苦戦しましたね。グスタフソン選手は顔の出し方がうまいし、センターバックの二人を含めたトライアングルは足元の技術が高いので、簡単にボールを取れそうにないという印象があります。そこをどう対応していくかがポイントになるかなと。浦和もいろいろな対策を練ってくると思うし、実際に試合が始まって相手がどう出てくるかを見ながら臨機応変に対応することが必要になると思います。
──鹿島戦には期限付き移籍契約の関係で出場できませんが、今シーズンの鹿島に対する印象はいかがですか。
監督が変わっているので、僕がいた時とは違うチームになっていますけど、第2節のセレッソ大阪戦で土壇場で追いついて勝点を手にするあたりは鹿島らしい勝負強さがあるなと思いました。対戦するにあたっては、まず90分間を通して集中することが絶対的に必要になってきますね。
──東京の選手たちに伝えたい情報はありますか。
スタイルが変わってしまっているので、チームとしての情報はそんなにないですね。選手個々の特長とか細かな部分では話せることがあるとは思います。
──最後に国立でのプレーに向けて思うことは。
ピッチ上で熱い試合を繰り広げたいですし、そこで勝ってみんなで喜び合いたい。個人的には大観衆のなかでプレーするのは好きなので、気持ちは上がりますね。
この2試合で勝てればチームとしても選手としても勢いも自信もつくと思うし、思いっきり勝ちにこだわりたい。ゴールで魅せられたら一番ですけど、その他の部分でも自分の良さを出していくので、そこを見てもらえたらと思っています。自分のプレーを多くの皆さんに知ってもらう良い機会にしたいですし、チームにとっては浮上を懸けた重要な2連戦になるので、とにかく結果にこだわって戦いたいと思います。
Text by 青山知雄
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