パリ五輪に向けた東京でのラストダンスだ。
7月13日に国立競技場で行われる2024明治安田J1リーグ第23節アルビレックス新潟戦は、パリへ向かう荒木遼太郎選手にとって本大会前最後のリーグ戦。東京移籍で自らの可能性を広げたことを受け、大きな感謝の気持ちを胸に戦うゲームとなる。
“青赤のタロウ”が“日本のタロウ”へと進化した今シーズン。その背景にあったもの、そして東京にかかわるすべての人たちに感謝の思いを抱く理由とは。
Text by 青山知雄
Photos by 新井賢一
「新潟戦は本当に勝たなきゃいけない試合。必ず勝ってパリに行きたいし、個人的にもパリに向けて勢いをつけたい。ファン・サポーターのみなさんにゴールと勝利を置き土産にできれば」
チームのために、そして自分のために。荒木遼太郎が強い覚悟を持って国立競技場でのアルビレックス新潟戦に臨む。
その裏側にあったのは、他ならぬ東京への大きな感謝の気持ちだった。鹿島アントラーズで出場機会を減らしていた荒木選手。Jリーグ史上2人目となる10代での2ケタ得点をマークしてサッカー界に旋風を巻き起こしたが、その後2シーズンは出番に恵まれず。当時は試合に出るための取り組みに追われてしまい、「五輪出場は考えてもいなかった」という。
そして今シーズン、東京への期限付き移籍が彼のサッカー人生を大きく変えた。ピーター クラモフスキー監督に重用され、ピッチで躍動できることをしっかりと証明。本人は「鹿島時代とスタイルは変えていない」と話すが、青赤のユニフォームで試合に出続けることで感覚が研ぎ澄まされ、時間や試合の流れを読みながらのプレーに磨きが掛かった。荒木選手本人も「今シーズンは試合に出るにつれて余裕を持てて、広い視野でサッカーができるようになっている。試合を重ねるたびに自信もついてきた」と振り返って手応えを語る。
東京移籍で開幕戦から結果を出すと、今年4月にパリ五輪アジア最終予選を兼ねて開催されたAFC U-23アジアカップ2024で日の丸を着けた。同年代の代表に名を連ねるのは、2021年3月のドバイカップ以来。まさに青赤での活躍が認められての代表復帰だった。
大会ではスタメン、途中出場を問わずピッチで攻撃に変化を加える“ゲームチェンジャー”として君臨。“負けたら終わり”のプレッシャーと戦うことになった準々決勝のカタール戦では、2-2のまま突入した延長戦で2ゴールを演出する活躍を見せた。さらにウズベキスタンとの決勝では、後半アディショナルタイムに鮮やかなワンタッチパスで決勝ゴールをアシスト。圧倒的な存在感でパリ五輪出場権獲得、そしてアジア制覇に大きく貢献した。
自らの活躍、そして日の丸を背負う責任感が彼の意識を変えていく。
春先には「(U-23日本代表に)選ばれたら頑張りたい」と話すにとどまっていたが、大会後には「代表はやっぱり楽しい。そこでプレーできる人は限られているし、日本を背負って戦う特別な存在でもある」と語り、「プレッシャーも含めて楽しめたのは大きかったですし、そういう緊張感の中でもっともっとプレーしたい。U-23アジアカップを戦って、パリ五輪にも出たいと思うようになりました」と位置付けが大きく変化した。
パリ五輪は荒木選手にとって初めての世界大会。自分の現在地を知るためにもやりがいの大きな試合が続く。もちろん、日本を背負って戦うプレッシャーは大歓迎だ。
「U-23アジアカップみたいに緊張感のある試合は今まで経験がなかったけど、そういった試合のほうが楽しかった。これは自分の性格だと思うんですけど、緊張することが全くなくて、自分が持っているよりも高いパフォーマンスを出せた気がします。パリ五輪では世界における自分の立ち位置だったり、どこにどれだけやれるかも確認したい。同年代の世界の選手がどれだけすごいかを肌で感じられる大会にもなると思う。もちろん彼らには負けたくないし、そういう舞台でどんどん勝って自分の価値を上げていきたい」
7月13日に国立競技場で行われる新潟戦は、同じくパリ五輪に出場する野澤大志ブランドン選手とともに本大会への壮行試合的な意味合いを持つ。東京での半年間に感謝しているからこそ、パリ行きを控えた国内ラストマッチで五輪メンバー選出への恩返し、そして東京を代表して世界と戦う覚悟を語る。
「東京に移籍してこなかったら、パリ五輪のメンバーには選ばれていなかったと思う。温かく迎えてもらったファン・サポーターの皆さんには本当に感謝しています。国立での試合は、パリ行きへ向かう自分を勢いづけるという意味でも、チームとしても本当に勝たないといけない試合。まずは東京で最善を尽くして、結果を残してパリに行きたい。そしてパリでは東京を背負って、東京を代表して、世界に『FC東京』をアピールしたい」
新潟戦を最後にパリへ旅立つ荒木も、送り出す側も気持ちは一つ。国立でのゲームに向けて、「ゴールと勝利を置き土産に」と語った荒木の覚悟をしかと見届け、勝利と笑顔でパリへ送り出したい。