この街を、味スタを熱狂させる <br />
-負けは許されない。死ぬ気で戦う-<br />

INTERVIEW2024.8.13

この街を、味スタを熱狂させる
-負けは許されない。死ぬ気で戦う-

ポストユースの育成問題を大学が解決している──と見られるようになって久しいが、その見方を肯定する材料が今シーズンの東京で増えた。明治大学を出たばかりでありながら即戦力として活躍している、岡哲平選手の存在だ。

東京のアカデミーは多くの人材を輩出する。そのすべてをトップチームでは吸収し切れず、卒業後は全国の大学サッカー部に進路を求めることになる。そして大学で経験を積み、様々なカテゴリーや場合によっては海外でプロをめざす。


結果として、大学経由で東京のトップチームへと“復帰”を果たすケースが増えてきた。安部柊斗(現:RWDモレンベーク)選手や常盤亨太(2025シーズン加入内定)選手もそうだが、東京のアカデミー出身ではなくとも中村帆高のように明治大学で鍛えられて青赤軍団の一員として活躍する例はあり、同大学サッカー部の信頼は厚い。そして、新体制発表の時に発した「大学に行っても遠回りじゃないということを本当に証明したい。即戦力として使われるようにしていきたい」という自身の言葉を、岡選手は現実のものとしつつある。

視野を確保し、前方の空いているスペースに的確なフィードを送る。あるいは、空中戦でも地上戦でも身体を張って攻守に競り勝つ。こうしたプレーは大学の時点ですでにある程度完成されていたものであり、そうした特色は東京でのデビューから時間が経ち緊張がほぐれてくると、色濃く表れるようになってきた。伸び伸びと、力強く、思い切りよくプレーすると、センターバックの先発に定着。隣に立つ相手を替えながら、チームとしての改善を模索している。第22節柏レイソル戦では大先輩の渡辺剛選手もゴールを決めた思い出の地である三協フロンテア柏スタジアムで、衝撃のJ1リーグ初ゴールを決め、攻撃力の高さも示した。


直近では土肥幹太選手とのコンビが実現した。FC東京U-18から直接トップチームに昇格した土肥選手は高卒2年目。5月3日におこなわれた第11節の京都サンガF.C.戦では土肥選手がスターティングメンバーで出場し、負傷によって前半で退いた際には、後半のキックオフからの出場によって岡選手がJ1リーグデビューを果たすという“奇縁”があった。アカデミー出身選手の入れ替わりによって今シーズンの味の素スタジアムでの初勝利を得るという結果が未来を象徴するようにも映ったが、その未来が早くも具体的に形となったのだ。

中断期間が明けて再開初戦、第25節ガンバ大阪戦は0-0の引き分け。岡選手と土肥選手のコンビとしては上々の滑り出しだったが、2試合目でつまずいた。第26節の川崎フロンターレ戦では3失点で敗戦。いずれも守備組織を崩されたものではなく、クロスとセットプレーを点で合わされた失点だった。

「ボールホルダーにして対しての寄せの甘さだったり、自分を含むセンターバックの連携でマークをつけなかったことが、失点の原因だと思います。山田新選手にやられただけなので。失点の責任は自分と幹太にあると思う」


序盤は東京がサイド攻撃で何度かのチャンスを創出した。しかしそこで得点に至らなかったあと、川崎の山田選手にクロスをヘディングで合わされて前半の中盤だけで2失点。これが大勢に影響した。山田は身長175センチ。高さで負けたわけではなく、相手のポジショニングとタイミング、精度に屈したことになる。それをかつて東京でフォワードとしてプレーした戸田光洋ヘッドコーチが指導していたのは皮肉な話だが、ともあれ、そこで弱点が露呈したのは確かなことだ。

プロで試合に出ている以上、その時点で優秀な選手であることは間違いない。ただ若い時は、得意としていない部分を実戦で“発見”するもの。それらの課題を一つひとつ克服することで、より己の力を高めていく。ベテランの森重真人選手にしても、出場停止が3回あった2010シーズンの翌シーズンから、よりシュアな守備を心掛け、日本代表の一員としてワールドカップ出場へと上り詰めていった。その意味では、この敗戦の後にやってくる東京ヴェルディ戦が、岡にとって正念場の一つとなる。

ミドルゾーンでセットした状態から対応していく、構えた守備を整備した。状況によって前からプレッシャーをかけ、自分たちから仕掛けていくことにも挑んでいる。しかし起点となる相手のクロッサーに対する寄せが甘く、かつ中でもフィニッシャーをフリーにさせた。多摩川クラシコのような複数失点を繰り返さないためには、このクロスへの対応を磨くことが重要になってきそうだ。


そして、多摩川クラシコ以上に、8月17日は負けられない、ホームの味の素スタジアムで勝たなくてはいけないという、強い想いが必要になる。

「チーム一体として想いが揃わないとやはり、勝利から逆算できないのかな、と。次、切り替えて、東京ヴェルディ戦に向けて本当にチーム一丸となって、気持ちを揃えていきたいです。チームのために走る、身体を張って守る、身体を投げ出してゴールを守るというところが、全体的に足りなかった。背中を押してくれてるファン・サポーターのため、労力を惜しまずに、ベクトルを揃えていきたいと思います。幼い頃からライバルのチームには絶対負けることは許されないので、死ぬ気で身体を張って、まずはゴールを守りたいと思います」

青赤で育った身として、緑に負けるわけにはいかない。今シーズン白星に恵まれていないホーム味の素スタジアムで、アカデミー出身の若武者が決死の覚悟を示す。

 

 

text by 後藤 勝(フリーランスライター)