この街を、味スタを熱狂させる <br />
-勝利のみ正解。決着をつける-<br />

INTERVIEW2024.8.14

この街を、味スタを熱狂させる
-勝利のみ正解。決着をつける-

2024年4月13日。J1リーグの舞台では16シーズンぶりに実現した東京ヴェルディとの一戦は、前半の内に2点のビハインドを背負い、さらに退場者を出す窮地に追い込まれていた。意気消沈する青赤を前にして沸き立つ緑。いつもはホームである味の素スタジアムが、“一番遠い色”に飲み込まれていた。

そんな重苦しい雰囲気を背番号22が一掃する。ピッチに立ってからわずか7分後の後半23分にカウンターから白井康介のクロスを蹴り込み1点差に詰め寄ると、ほぼラストプレーとなった後半45+4分にゴール前で左足を一閃。豪快な一発を突き刺し、青赤のプライドを保った。それは同時に遠藤渓太という選手の名が、クラブの歴史に刻まれることとなった瞬間でもあった。


「あの試合は、東京に来て自分の見られ方が変わったゲームだったと思います。今シーズンは怪我で出られない試合も多く、出場時間としては半分にも達していないですし、数字としても4ゴールと満足できる結果ではない。それだけど、ファン・サポーターの人と話していても、あの2ゴールのことを言われる機会は多い。そのくらい非常に大事なゴールだったと思う。自分が思っている以上に、ファン・サポーターのダービーに懸ける想いの強さが理解できました」

東京での初ゴールを含めた殊勲の二発を大事な記憶として振り返った遠藤であったが、間を置くことなく、「でも……」と続けたあとに思わず本音がこぼれた。

「結果として勝っていないですからね。あの展開で、10人で引き分けたから美談みたいになっているけど、それは違う。正直、ファン・サポーターの雰囲気に前半は選手たちが応えられていなかった」


ドイツ時代にウニオン ベルリンの一員としてヘルタ ベルリンと、アイントラハト ブラウンシュバイクの選手としてハノーファーと「本当に殺伐とした雰囲気、街の威厳をかけた戦い」を経験している男は、ダービーこそ結果がすべてということを知っている一人である。

「この前は引き分けで終わってしまったからこそ、決着をつけるのは次の試合だと思っています。たとえ少し汚くても、カードを何枚もらおうが、最後にはどんな手を使ってでも勝っていないといけない相手。お互いのファン・サポーターの想いや因縁、歴史があってこそのダービーだと思うので、そういう環境で試合をできる幸せをかみしめて戦いたいです」


物言いはストレートで、時にはチームに対して強烈なメッセージを発信する遠藤からすれば、勝点1を持って帰ってくるのがやっとであった前々節のガンバ大阪戦も、ホームで屈辱の0-3のスコアを突きつけられた前節の川崎フロンターレ戦も、不甲斐なくてしょうがない。中断明け、まだ上を狙える位置にいたにも関わらず、この2試合は勝点を積めずに、上位争いからは完全に脱落。その現状に隠すことなく真っすぐに危機感を訴える。

「ガンバ大阪、川崎と内容が乏しいゲームをしてもファン・サポーターは後押しをしてくれて、何とかつながっている細い糸があると思うけど、ここを落とすと本当に見放される可能性もある。クラブにとっても本当に大事な一戦であることは間違いない。分岐点になるゲームだと思っています」


“東京は青赤だ”と叫ぶためにも、首都クラブの威厳を示すためにも、ホーム・味の素スタジアムで負けるなんて到底許されない。勝利だけが正解となるゲームを前に、遠藤の覚悟は決まっている。

「誰がヒーローになっても、とにかく勝てば良い。だけど、選手は目立ってナンボ。前回の試合のこともあって、自分が注目されるのは分かっているけど、だったらなおさらもう一発決めてやりたい」

チームを敗戦の危機から救いクラブ史にその名を刻んでから4か月後、次は2024年8月17日に、遠藤渓太が伝説となる。

 

 Text by 須賀大輔(エル・ゴラッソ)