悔しさをバネに始めた
未来へつなぐ新たな取り組み
人に、選手にストーリーあり。2024シーズンを戦い抜いた全青赤戦士を選手ごとに紹介する『2024 PLAYER’S REVIEW』。果たして彼らはいかなる想いを抱えながらシーズンを過ごしていたのだろうか。自信、手応え、課題、喜び、悔しさ……。それぞれが送った今シーズンの戦いを、本人の言葉を紡ぎながら振り返る。
今年4月、約1シーズンぶりに大怪我からの復帰を果たした中村帆高。だが、その試合で再び負傷離脱し、シーズンを通じてピッチで輝くことはできず、苦しく悔しい日々を過ごすことになった。そんな彼が2024シーズンに抱えていた想い、そして未来のために始めた地道な取り組みとは。
中村帆高は「昨日の自分よりも」と、日々を更新し積み重ねる。地道な歩みが花開く、いつかのために。全体練習が終わると、スパイクを脱ぎ裸足になって芝生の上を走る。それを欠かさず続けてきた。
昨シーズンの4月に右アキレス腱を断裂。大怪我からの完全復活を期した今シーズンは4月の明治安田J1リーグ第6節浦和レッズ戦で約1シーズンぶりにスタメン復帰を果たすも、その一戦で左太ももに肉離れを負い、再び戦列を離れた。その後、ピッチに帰って来ると、身体づくりの一環として裸足のランニングを始めた。
「これからという時に肉離れをした。ゼロから身体の本質と向き合って、まずは怪我をせずにやり切る身体を作る。その一歩としてやっている」
地道に一歩ずつ──。そうやって丁寧に一日、一日をつないでいく。効果がすぐに出るとは思っていない。それでも“継続”は力なりと信じて毎日を送ってきたという。
「すぐに結果が出るとは思わない。来シーズンなのか、再来シーズンなのか。残りのサッカー人生が何年続くか分からないけれど、そこに視線を向けていつかのためにやり続けている」
5月31日の明治安田J1リーグ第17節のサガン鳥栖戦で実戦復帰を果たすも、スタメンに完全定着することができないシーズンになった。ベンチにすら入れず、悔しい思いも抱えてきた。乱高下する心と身体を維持することは、想像以上に難しかった。
「この気持ちを見ている人たちに分かってほしいとは思わない。ただ、終わった時に少しでも今の自分から成長できたと思えるようにしたい」
自身のことを「僕はやっぱり強くない」と、自覚する。だから、「波が出やすいのも分かっている」と言う。多くの怪我も乗り越え、良い意味で自分との向き合い方も変化してきたという。悔しい思いはため込まず、長い息と一緒に吐き出してきた。
「昨日の自分より少しでもうまくなろうとしてきた。そこがモチベーション。あと何年、サッカーができるかは分からないけど、一歩でも成長できているんだという思いでボールを蹴っている」
プロ入り後、「最も難しかったシーズン」になった。
「0がいきなり80や100パーセントに一気になることはない。20、30、40……と、まずそこに持っていかなきゃいけない。もちろん100パーセントを出したいけど、心も身体もついてこない1年だった。そこを受け入れることで、一歩一歩とか、どうやってコツコツやっていくかにつながった。悔しいけれど、これが自分の現状。でも、終わってはいないし、終わらせたくない。あらためて難しい世界に身を置いていることは実感できた。今シーズンをどう残りのサッカー人生に生かすかは自分次第。1年後、2年後どう自分が変わっているかは分からない」
いつか帆を高く掲げ、風を集めてピッチをグングン進むために──。「いつか……またいつか」と今を大切に生きていく。
Text by 馬場康平(フリーライター)