地道な取り組みが花開き
遅咲きの努力家がついにブレイク
DF 99 白井康介
人に、選手にストーリーあり。2024シーズンを戦い抜いた全青赤戦士を選手ごとに紹介する『2024 PLAYER’S REVIEW』。果たして彼らはいかなる想いを抱えながらシーズンを過ごしていたのだろうか。自信、手応え、課題、喜び、悔しさ……。それぞれが送った今シーズンの戦いを、本人の言葉を紡ぎながら振り返る。
左右のサイドバックのみならず、攻撃的なサイドアタッカーとしても起用された白井康介。抜群のスピードを生かし攻守両面で存在感を発揮。チームを支える存在へと進化した。その背景にあったのは自分と向き合ったことで見えた課題と、新境地へたどり着こうとする努力。縦への推進力だけではない選手へと成長するに至った彼の取り組み、そして新たに感じることになった課題とは。
背番号99が人々の耳目を集めたのは、4月の国立2連戦における驚異のスプリント力。従来から備えていた特長のパワーアップもさることながら、手応えの理由は自身の変化にあった。
「良い刺激を受けながら新しい自分に作り変えていくことに関しては、今シーズンは本当にうまくいったなという手応えがありました」
もともと、白井は前への推進力が持ち味のサイドアタッカータイプ。ただ、近年のサイドバックは中に入っていくプレーや足下の技術も求められるポジションになっている。東京もまさにその要素を採り入れ、縦の速さへの偏りを脱しようとしていたところ。
白井もこれまでの己から脱却し、東京でのレギュラー獲得と日本代表入りを願っていた。そのためには良い立ち位置をとってボールを動かしていくため、足下のボール扱いを磨かなければならなかった。
こうして昨シーズンから始めたトレーニングの成果により、主力組との連携が可能な水準で技巧を発揮できるようになった。それが大きな自信を生み、メンバー入りにつながっている。
「自分でも(技術的な)変化をすごく感じることができた。本当にこのチームに来て良かったと思います。移籍して苦しい時期を経験しないと、人間ってなかなか成長できなかったりする。ちゃんと自分をそういう環境に持ってきて変化できたのは、今後のサッカー人生にも大きく関わってくると思います」
すぐに成果を出せる人間と、時間をかけて向上していく人間の二種類がいるとすれば、自分自身は後者だという白井。大器晩成型というべきか、自主練を含めてコツコツと積み重ねてきた努力が今シーズン、花開いた。
「段階的にできないことを自分で受け入れていて、昨シーズン途中から少しずつ自分のなかでは感覚が良くなっていた。それを今シーズンの最初から落とし込めていけた。ラストの課題はそれを公式戦で、緊張感が漂う状況でできるか。それを出せた国立2連戦とアウェイのアルビレックス新潟戦は、本当に大きなターニングポイントだったと思います」。
ただ、不幸なことに、過去の所属先では大きな怪我をしなかった“鉄人”が、東京で出場機会を増やしていたタイミングで負傷離脱。要因は複合的で、これが今後に向けた新たな課題として立ちはだかった。それゆえ満点のシーズンではなかったが、それでも“超白井”と呼ばれるほどのブレイクスルーを果たしたことに変わりはない。
「ずっと成長し続けていきたい、今はサッカーが楽しい」と笑顔で語る白井にとって、周囲の信頼を得て飛躍した2024シーズンとなった。
Text by 後藤勝(フリーランスライター)