2024シーズン総括<br />
ビジネスとフットボール(前編)

INTERVIEW2024.12.30

2024シーズン総括
ビジネスとフットボール(前編)

2024シーズンを戦い終えたFC東京。平均入場者数、年間売上などビジネス面で数々の過去最高数字を更新する一年となった一方、チームとしてタイトル争いに加われなかった現実にも直面した。クラブの現在地についてビジネス、フットボールの両面から川岸滋也社長に一年間の戦いを振り返ってもらったインタビュー。前編では好調な実績を残したビジネス面の受け止めについて聞いた。そこには好調な数字だけでは見えてこない未来への取り組みが織り込まれていた。

取材・構成=佐藤 景(フリーライター)


過去最高の数字と未来への取り組み

──2024シーズンのビジネス面とフットボール面、それぞれをどのように総括されているのか。まずはビジネス面から伺わせてください。
分かりやすい指標としてはリーグ戦の観客動員数が挙げられます。FC東京としては2019シーズンの31,540人が過去最高の数字でした。そして2024シーズンはその数字を上回ることができました。1試合平均33,000人を超えて、延べ630,000人の方に来ていただきました。ホーム味の素スタジアムでなかなか勝てないなか、それでも多くのファン・サポーターのみなさんにお越しいただいたこと、最後まで応援していただけたこと、本当に感謝しています。国立競技場開催のホームゲーム4試合はいずれも勝つことができましたが、味の素スタジアムで多くの勝利を届けられなかったことは非常に悔しく、申し訳ない思いで一杯です。

──それでも観客動員が伸びた要因をどう捉えていますか。
1試合平均の観客数が30,000人を超えた2019シーズンは優勝争いをしたシーズンでした。その数字を超えるという目標はクラブにとってチャレンジングなことで、すぐに達成できるものだとは考えていませんでした。ですが、2024シーズンは本当に多くの方に来ていただき、そのチャレンジに成功することができました。もちろん全試合を味スタで開催した2019シーズンと異なり、2024シーズンは国立競技場で4試合を開催して合計210,000人にご来場いただいた。延べ人数もリーグ戦のホームゲームが2試合増えていますから、数字を単純に比較することはできませんが、それでも大きな目標としていた数字を超えられた意味は大きいと思っています。
国立競技場で試合を開催するメリットは、これまで説明してきたとおりで、味の素スタジアムだけではFC東京の存在を届けられない人々に対して広くリーチできる点にあります。味スタをメインにしながら今後も戦略的に国立を活用していきたいと考えていますし、Jリーグでも『THE国立DAY』と銘打って盛り上げていますが、そこはクラブとJリーグと双方の思惑が一致しているところなので、より多くのファン・サポーターに来ていただけるようにやっていきたいと考えています。


──グッズの売上も順調に伸びていると話されていました。これに関してはいかがですか。
今シーズンは本当に好調でした。新エンブレムにしたことが良い効果をもたらした可能性はあります。もちろん、新エンブレムそのものがすべての方に受け入れていただいたとは思っていませんが、数字を見れば昨シーズンよりも数字が上向いており、多くの方に手に取っていただいたことを実感しています。通常、グッズを購入していただけるのは既存のファン・サポーターのみなさんです。その点から考えると、新しいエンブレムのアイテムに買い替えていくという需要が大きかったのだと思います。それに加えてライト層の方々に向けて、タオルマフラーなどの手に取っていただきやすい価格帯のグッズをしっかり用意したことも大きかったと思っています。前回のインタビューでもお話ししましたが、スタジアムでの物販について店舗を拡充し、在庫をしっかりとっていくことが良い効果をもたらしたと考えています。


──過去2年間の数字を見ていくと、グッズ売り上げは4億円、6億円と増加していました。2024シーズンのグッズ売上はいかがでしょう。
今年は7億円を超える見込みです。前回のインタビューでもお話しした在庫のリスクを怖がらない取り組みも結果につながったと見ています。ここは引き続き、積み上げていけるようにと考えています。

──新しくスタートした試みとしては、U-12チケットの販売がありました。改めてその狙いと、効果について聞かせてください。
今シーズンから一部の席種にU-12というチケットを設定しました。その“顧客層”を分析すると、当該席種において、大人を対象にしたチケットの販売も伸びていることが分かります。つまり、U-12チケットをきっかけに、ご家族で来場いただいているということです。夏時点の分析にはなりますが、さらにデータを詳しく見ていくと、来場者の平均年齢が1歳ほど若返っていました。これはU-12の来場者に加えて、その小学生のお子さんと一緒にいらっしゃるご家族の年齢が比較的若いことが関係していると思われます。Jリーグがスタートして30年が経ち、観客の平均年齢が上がってきたなかで、リーグもクラブもファン層の若返りが一つの課題になっていました。その点から見ても一定の効果が出た施策だったと思います。
今回の試みはかなり中長期的な視点から行いました。子どもがどのクラブを応援するかを考えた時に、親御さんの影響は大きいものです。そういった部分から、私は「親にスタジアムに連れていかれたのでFC東京を好きになった」という体験をどれだけ作れるかが重要だと思っています。こうした試みをやり続けることで10年、20年とFC東京のファン・サポーターが代替わりしながらも続いていくような環境を作っていきたい。目先の利益を考えるなら、小学生のお客さんが一人増えるのと、 大人のお客さんが一人増えるのではいわゆる『客単価』が違うので、大人にフォーカスすることになるでしょう。ですが、中長期的な視点が絶対に必要で、10年先、20年先、30年先を見据えて、親から子どもへ、子どもから孫へと伝わっていくようなサイクルを作っていきたい。そういう意味でもファミリー層へのアプローチは今後も続けていきたいと思います。


──また別の試みとして、2024年度は海外クラブとの提携がありました。レギア ワルシャワ(ポーランド)とSLベンフィカ(ポルトガル)との提携についてご説明いただけますか。
海外クラブとの提携というとクラブ間での選手の交流があるように思われがちですが、現実として、それぞれのリーグやチームで求められる選手像は違いますから、そうした簡単な話ではありません。レギア ワルシャワはスカウトの提携を軸に、お互いが持っているスカウトの情報を交換しています。我々が獲得を検討しているEU圏の選手についてセカンドオピニオンとして評価を聞き、逆に彼らが注目している日本人選手の情報も提供します。ここはお互いにニーズが一致して実現した提携でした。
SLベンフィカとは育成に関する連携です。アカデミーはFC東京が持つ強みだと思っていますが、いかにしっかり選手のキャリアパスを作るかは、FC東京のみならず、日本サッカー界が“ポストユース”と言われる年代で抱える課題だと思っています。大学に進学するのか、Jリーグでプレーするのか。トップチームに昇格した選手でもカテゴリを変える選択もある。その世代の出場試合数を確保するのはなかなか難しいです。J2クラブへの期限付き移籍で出場機会を創出することもありますが、それだけでは足りない。選手の価値を高めるために色々な可能性を広げたいと考えていました。そのなかで、海外で育ててもらうことも一つの選択肢であるという考えに至り、選手の価値を最大化する点で世界有数のクラブであるSLベンフィカと思惑が一致したので、提携する運びとなりました。

──2024年度の売上はどのような結果が出そうですか。決算前ですが、現時点の手応えを教えてください。
昨年度の売上が59.29億円でしたが、今年度はそれを大きく超えることができる想定で、お陰様で各事業セグメントともに過去最高の数字になりそうです。まだ詳細がまとまっておりませんので、こちらは決算後にあらためて経営レポートとしてご報告できればと思っています。

 

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