木村誠二とバングーナガンデ佳史扶。U-15深川から長年の“盟友”が今シーズン、再び東京の地で同じユニフォームに袖を通すことになった。トップチーム昇格後、期限付き移籍を重ねて成長してきた木村は、昨シーズン、パリ五輪世代のU-23日本代表で主力となり、世界を経験して青赤に戻ってきた。一方の佳史扶は東京で研鑽を積み、2023年3月にA代表デビュー。パリ五輪は負傷の影響で本大会出場はならなかったが、ピッチで異彩を放つ存在へと進化を遂げた。異なる道を歩んできた二人が、それぞれ進化を遂げて再び邂逅する2025シーズン。果たして両選手はあらためて何を思うのか。後編では新シーズンのサッカーとお互いのプレー、背番号について語り合った。
──松橋力蔵新監督を迎え、東京のサッカーはどう変わっていきそうですか。
木村誠二 佳史扶は外から(練習を)見ていたでしょ? 俺はボールをつなぎたいのかなって最初は思っていたけど……。
バングーナガンデ佳史扶 うーん……。でも、こだわっているのは得点をとることだったり、チームの勝利だと思ったよ。
木村 チームの特長と(監督が)やりたいことをしっかり合わせていくと言っていたから、従来の縦の速さを活かしたスタイルに落ち着くのかなと思っていました。だけど、力蔵さんがやりたいのはそうではなくて、ボールを握れるなら握りたいし、相手を疲れさせるまで何回でもやり直してボールを動かそうって話をしていた。練習試合でも「相手をマネキンにしろ」と言っていたし。それくらいボールを失わず、保持することへのこだわりがあるタイプなんだと思っていましたが、「縦に速い攻撃をするな」とは言われてないし、行けるならそれが一番良いと言っていました。本来はつなぎたい監督なのかもしれないけど、このチームの良さを消すことはしない。今の東京の選手のクオリティなら、監督が求めることにちゃんとついていけると思う。何回でもゴールキーパーを使ってやり直すし、今までより下からつないでいくサッカーになると思います。
佳史扶 そうやってボールが持てるなら、サイドバックの立ち位置も本当により細かくなると思う。ピン留めする役割を担う場合もあるだろうし、攻撃ではクロスが上がってきた逆サイドのサイドバックにはゴール前に入っていくことも要求されています。後ろのリスク管理さえできていれば、そうやって逆サイドのサイドバックがエリアの中に積極的に入っていけると思います。
木村 昨シーズンはその形で2得点2アシストしたんだよね。
佳史扶 そうだね。
──さて、そのサッカーのなかで、自分たちはどう輝きたいと思っていますか。
木村 昨シーズン、サガン鳥栖で培ったポゼッションのイメージと大きく変わらないスタイルだと思います。ボールを持ってゆっくり運んでいると、攻撃にテンポを出したくて「早く出せ!」と急かす指導者もいますが、力蔵さんはそうではない。ボールを持って相手を引きつけるような駆け引きにも理解がある監督です。長い距離のパスも、通るならそれが一番だとも言っていました。自分が持っているイメージや理想にかなり近い感じはします。昨シーズンにモノにできたビルドアップをしっかり出せれば、うまく力になれると思っています。
佳史扶 サイドバックに求められる動きはより増えそうですし、ガンガン攻め上がることを求める監督なので、より自分の良さが活かせると思います。学ぶことが多そうなので、プレーの幅も広がると思っていますし、そこは今からすごく楽しみにしているところです。
──佳史扶選手がウズウズしているのは周りにも伝わってきます。
佳史扶 そうですね。
木村 でも、焦らないでいいから。これで復帰がまた延びたりしたら本当にもったいないからね。
佳史扶 おそらく今が一番気持ちの揺らぐ時期だと思っています。ようやく復帰が近付いてきたタイミングで新チームが始動したから、練習試合を見ていても「早くプレーしたい」ってずっと思っていました。リハビリ中にピッチを走っていても、選手たちが円陣になって監督の話を聞いていると、すごく気になります。昨シーズンも同じ気持ちではいましたが、より早く戻りたいと思うようになりました。特にキャンプでは、その気持ちは次第に強くなっています。
──昨シーズンは東京都に本拠地を構える3クラブ中、リーグ戦順位が一番下になってしまいました。それに加えて1勝もできなかったのは本当に悔しいことだと思います。
木村 「東京」と言えば、FC東京というイメージは今まであったはずなので、どちらも絶対に負けてはいけない相手です。
佳史扶 本当に彼らに勝つことが一番の証明だと思っています。やはりアカデミー出身の選手たちはその気持ちが誰より強いだろうし、青赤で育った選手たちが今シーズンもたくさんいるので、僕たちがより士気を上げて彼らとの戦いに臨みたいです。
──昨シーズンはリーグ戦7位。新体制で臨む今シーズンに、期待と不安の両方を抱いているファン・サポーターもいるかもしれません。
木村 それこそ選手の半数がアカデミー出身という新チームで勝っていけば、自ずとアカデミーの力を証明することになると思います。たとえ全員が試合に関われなかったとしても、チームは在籍している選手全員の力だと思いますし、それが順位にも反映されます。なぜなら普段の練習強度や質が、チームの力を示すバロメーターになるからです。そう考えたらアカデミー出身の力をアピールする絶好のチャンスだとも思います。
佳史扶 客観的に見ても、アカデミー出身の選手たちが大学を経由しても戻ってきたいと思えるのはすごい。だからこそ、もしも不安になっているファン、サポーターのみなさんがいるのなら、僕たちは結果と成績で証明しなければいけない。今ここで何を言っても結果を出さないと何の証明にもならないし、逆に言えば、結果を出せば説得力が増す世界だと思っています。今シーズンはアカデミー出身選手が特に多いので、誠二が言ったようにトップチームの結果が必然的にアカデミーの評価にもつながる。そこで結果を出し続けることが一番ですし、東京のファン・サポーターのみなさんのためにも、アカデミーの後輩たちのためにも、結果で証明していくことに集中したいです。優勝争いをした2019シーズンのような戦いを今シーズン、チーム全員で見せていきたいと思います。
──今シーズンから佳史扶選手が6番を背負うことになりました。これを木村選手はどう見ていますか?
木村 良いと思います。(太田)宏介さんも諒也くん(小川諒也選手 現シント=トロイデンVV)も、それぞれタイプは違いますが、やはり歴代の左サイドバックが背負ってきた番号なので、佳史扶に一番ふさわしい背番号だと思います。ここで先輩二人を超えるようなプレーを佳史扶がしたら、さらに6番の価値が上がるので、それを期待して一緒に頑張りたいですね。
佳史扶 昨シーズンはサッカーもそうですし、プライベートでもいろいろなことがあって、毎シーズン勝負ではありますけど、今シーズンは特に勝負の一年になると思っています。自分にプレッシャーをかける意味でも、気分を変える意味でも背番号を変えようかなと思っていました。そこでちょうどクラブからも「変えてみないか?」と言われたので、良いタイミングだなと思って6番を背負う覚悟を決めました。
木村 そういう言い方をされると、俺が自分にプレッシャーをかけたくなくて47番が安全な番号みたいになるじゃん(苦笑)。
佳史扶 いやいやいやいや……違う、違う(汗)。でも、誠二も良い番号が空いていたのに……。
木村 クラブからも「何番にする?」と聞かれたけど、何も考えずにもともとの「47でいいです」って答えて、それに決まりました(笑)。もう少しちゃんと考えればよかったかな(苦笑)。
──それでは最後にファン・サポーターと、今シーズンを戦っていくにあたって「これだけは守りたい」という約束をしてください。
木村 もちろん勝つことが一番ですけど、引き分けても負けても「良い試合だった」、「面白かった」、「面白いサッカーだった」と思ってもらえたり、次につながったりするような熱いプレーをしっかりチーム全員でできるようにしたいと思っています。
佳史扶 スタジアムに来てくれたファン・サポーターのみなさんもそうですし、すべての方が「楽しかったな」と言いながら家に帰れるようなプレーをしたいです。心から応援したいと思えるチームになりたいし、そういうプレーをどんな状況でも見せることを約束します。
前編はこちら
Text by 馬場康平(フリーライター)