ほとばしる想い

COLUMN2025.6.05

ほとばしる想い

青赤からSAMURAIBLUEへ。FIFAワールドカップ26北中米大会のアジア最終予選に東京から長友佑都、俵積田晃太の両選手が選出され、世界一をめざす刺激的な時間を過ごしている。5大会連続でのW杯出場を狙う38歳の長友選手、年代別代表を含めて初めての日の丸を着ける21歳の俵積田選手と対照的なキャリアの両者。それぞれ夢の舞台に向かう二人のチャレンジを現地で取材する青山知雄氏がレポート。今回はオーストラリアのパースで行われている代表活動の序盤を長友選手の立ち居振る舞いや言葉を中心にお届けします。


アウェイ京都の地で喫した悔しい敗戦から懸命に心を切り替えた長友佑都と俵積田晃太。翌朝、関西国際空港発のフライトで乗り換えを含めて約14時間という長旅を経て、オーストラリアのパースへと移動してきた。

すでに世界最速でワールドカップ出場を決めている森保ジャパンは、来年6月の本大会に向けて一足早く選手選考のサバイバルがスタート。今回の活動では7名が初招集され、復帰組を含めてフレッシュなメンバーが並んだ。軸となる選手を残しながら、新戦力を試していくシリーズ。そこに東京から選ばれたのが、圧倒的な経験と代表への強烈な熱量を持つ長友、そしてJリーグで強烈な“個の力”を披露している俵積田だった。

日本代表にとって、長友はまさに“伝道師”的な存在となっている。今回の代表活動でも練習冒頭のランニングで常に先頭を走り、ウォーミングアップでは大声でチームを和ませながら盛り上げる。そして実戦的な練習が始まれば、球際の強さを見せながら一つひとつのプレーに対するこだわりを言葉で表現して自分にも周囲にも求めていく。チームメイトの表情や雰囲気を見ながらのアプローチは熟練の技、そのものだ。


新しいメンバーが増えた練習初日、長友がチームの雰囲気に言及する。

「まだみんな緊張している感じですね。僕も(2008年に)初めて代表に入った時、香川真司と一緒に入ったんですけど、本当に緊張していたことを思い出しました。その思い出がしっかり残っているんで、緊張している選手には声を掛けたり、フォローしたりしていきたい」

現在の森保ジャパンには、長友の熱量、経験、言葉が広く伝播している。堂安律や鎌田大地、板倉滉を始めとする20代の選手たちが「佑都さんの言葉や立ち居振る舞いを見聞きして、日本代表、日の丸を背負う重みや責任、覚悟を強く持つようになった」と口々に語る。大きくメンバーが入れ替わった今回は、選手として強度の高いプレーを見せるだけでなく、言葉で“伝える”という部分も頼られているところとなる。長友が続ける。

「代表の雰囲気とか、日の丸を背負う重みもそう。戦術的なところも含めて、本当に短い時間で合わせていかなきゃいけない。そこはピッチ内だけではなく、ピッチ外でも、食事をしている時のコミュニケーションが非常に大事になってくると思う。(食事は)テーブルが三つくらいに分かれているんで、うまくいろいろなところを回りながら、みんなとコミュニケーションをとって、代表にいることの責任や誇りを伝えていきたい」


そこでどうしても気になるのは、まさに初練習でこわばった表情が見られた俵積田の様子だ。初日の練習後、長友に直撃した。

「タワラ?めちゃくちゃ緊張してるよ。今日はあいつの声、一回も聞いてないじゃん(笑)。だからホテルに戻って、ちょっといじって、あいつの良さをどんどん出していきたい。パースへの移動も一緒だったから多少の話はしましたけど、すごく緊張してるから、上手くなじめるようにやっていかないとね」。

長友自身は昨年3月の代表復帰後、試合に出場できない状況が続く。もちろん選手としてのこだわりもある。ピッチで表現できなければ自分が伝えたいことも伝わらない。「自分にしかできない魂のこもったプレーや球際で戦う部分では、他の選手に負けたくないし、そこは示していきたい」と話す長友。「上手さとか技術では彼らには劣ってしまうんで、どこで上回っていくかは自然と戦う部分になる。そこでは絶対に誰よりも上回っていきたい」というスタンスは年齢を重ねても変わらない。


森保ジャパンはパリ五輪世代を始めとする若手が増え、幅広い年齢構成になってきた。それでも自分が日本代表に呼ばれている意味を感じとり、そこに選ばれることへの自負や覚悟を強くしているのではないか。そう考えて尋ねると、想像とは異なる答えが返ってきた。

「もう日々怖いですよ。いつ自分が排除されるのかっていう不安と恐怖みたいなものと戦いながら日々過ごしてるんで。それを楽しまなきゃいけないんだろうけど、なかなか大変ですよ。でも、ここで食い下がって、這いつくばってでもこの場所をしっかりと保っていけるように頑張りたい。(恐怖や不安に)真正面からぶつかって、正面突破していくしかない。そこを逃げても成長はないと思ってるんで。そこはプロになってから常に戦ってきた部分なんで、正面突破して乗り越えて、成長した先に光があると思って頑張ります」

そして今回のシリーズ、青赤にまつわる選手が5名選ばれている。長友、俵積田に加えて、スペインへと旅立った久保建英、ベルギーのKAAヘントでプレーする渡辺剛、そして今シーズンからファジアーノ岡山へ育成型期限付き移籍している18歳の佐藤龍之介だ。長友と佐藤は実に20歳差になる。

KAAヘントで圧倒的な存在感を見せる渡辺が「今回は佑都さんを始め、東京にゆかりのある選手がたくさんいて、合流してすぐに『FC東京、どう?』みたいな話にもなった。そうやって身近に話せる選手、自分の生い立ちに近い選手がいるのはとてもうれしい」と語れば、岡山で急成長して初の日本代表入りを果たした佐藤は「建英くんとか剛くんとは直接一緒にやってないんですけど、東京出身ってことでちょっと心強いですし、優しさも感じるので、非常にうれしいですし、馴染みやすい環境なのでありがたいです。佑都さんとは東京でもずっと“20歳差だ”みたいなノリでやっていたので、それが懐かしい感じです(笑)」と笑う。

最後に長友にもFC東京出身選手の多さについて聞いてみた。普段から東京で接している自分が聞いてしまったからなのか、珍しく質問から回答が逸れ、代表の場で青赤への想いがほとばしる。

「それはうれしいことですよね。ただ、FC東京と聞くと、やっぱり今苦しい状況なので、非常に僕も苦しい思いをしていますけど、ここで日の丸を背負って戦うことで大きなエネルギーを得て、またチームにしっかりとエネルギーを注入できるように頑張りたいです」


青赤からSAMURAI BLUEへ。そしてSAMURAI BLUEから青赤へ。長友佑都の熱量は変わらない。

初日の練習後、メディア対応を終えると、森保ジャパンを激励に訪れた現地日本人学校の子どもたちに「俺は全員やる」と言いながら、最後の一人まで全員にサインをして回り、チームバスではなくスタッフのワゴンに乗ってホテルへ戻った。

そうやってファンを大切にする姿も、いつもどおりの長友だった。

 

(文中敬称略)

Text and Photos by 青山知雄