夢の続き

INTERVIEW2025.6.06

夢の続き

FIFAワールドカップ26北中米大会のアジア最終予選を戦うSAMURAI BLUE(日本代表)に初選出された俵積田晃太選手が、アウェイでのオーストラリア代表戦で先発出場し、記念すべき日本代表デビューを飾った。年代別代表を含めて初めての日の丸を着けた21歳は、憧れてきた舞台で何を思い、どんなプレーを見せたのか。そして何を語ったのか。オーストラリア・パースで取材を続ける青山知雄氏による現地レポートで、俵積田選手が踏み出した大きな第一歩の様子をお届けします。



 「悔しいの一言に尽きます」

試合後、誰よりも早く取材エリアに顔を出し、開口一番に率直な気持ちをこう漏らした。その表情には、まさに悔しさがにじみ出ていた。

サプライズの大抜てきだった。ワールドカップ出場権を懸けて本気で戦ってくるオーストラリアを相手にしたアウェイゲーム。絶対に負けられない一戦を迎える相手に対し、森保一監督が左ウイングバックの先発メンバーにセレクトしたのは、初招集の俵積田晃太だった。パース入り後初日の練習がリーグ戦と移動の疲れを考慮して別メニューだったため、チーム練習に参加できたのはわずか2日間のみ。各年代別の代表チームを含めて初めての代表招集となる21歳に大きな期待を寄せた上での決断だった。

試合前日、極めて強張った表情で「緊張しています」と話していたが、その理由こそが、自分がいきなりスタメン出場することを知ったから。日本を代表して戦う責任と重みが、自らの肩に一気にのしかかる。

「(スタメンは)前日に聞きました。人生で一番緊張しました」

スタジアムでの前日練習を終えて、一人になる時間がやってくる。いろいろなことが頭をよぎりそうになったが、逡巡する時間はない。覚悟を決めた。

「日の丸を背負うってこういうことなんだなと痛感しました。そんななかでも自分のプレーを見せてやるぞっていう気持ちで時間を過ごしていました。とにかく『目の前の相手にだけは絶対負けない』っていうメンタルを作って、あとはもう自分との戦いでした」

経験豊富なチームメイトの長友佑都も言葉で彼を後押しした。合流初日から緊張感が溢れ出る後輩の言動を気にかけ、代表チームに早くなじめるようサポートしてきたベテランは、試合に向けた準備を進めるなかで闘魂を注入するかのごとく、「やってこい! お前の良さをどんどん出していけ」と声をかけた。俵積田も先輩からの一言が「本当に心強かったし、助かった」と振り返る。


試合当日、スタジアムに足を踏み入れ、ロッカールームで初めて日本代表の青いユニフォームに袖を通した。そしてFIFAアンセムを背にピッチへと入場していく。子どもの頃から憧れてきた舞台。緊張感と同時に胸の高鳴りを感じていた。そして同時に日本代表としてピッチに立つ意味を改めて噛み締める。

「すごく興奮しました。ずっと自分が夢見てきたユニフォームだったし、すごく重みがあった。『ここまで来た』という気持ちもありましたが、そこで自分が活躍しなければ意味がない。もう本当に試合に集中していたというか、余計なことは一切考えず、日本代表として勝つんだという気持ちだけでした」

ポジションは3-4-2-1の左ウイングバック。東京でも状況に応じて仕掛けを見せてきたことのある得意な場所だった。森保監督から「最近は縦への突破が少ないんじゃないか。縦のほうが相手は怖がるよ」とアドバイスをもらったこともあり、「まずは縦にガンガン行こう」とキックオフ直後から強気な仕掛けを見せていく。


開始早々の前半3分に鎌田大地のパスを受けて縦へ突破を図る。これは慣れない芝でボールの滑りを計算できずにクロスボールがゴールラインを割ってしまったが、ベンチの指揮官は大きなアクションで拍手を送っていた。さらに同5分、6分、7分と立て続けに左サイドで縦へ仕掛け、クロスボールを供給。少しずついろいろなことを修正し、フィットさせながら意欲的な姿勢を見せていく。

前半終了間際には左からカットインして右斜め前方の鎌田へつなぎ、決定機を演出。「鎌田さんがすごく良い位置に立ってくれて、自分はパスを出しやすかった。あのシーンは非常に良かった」と手応えを得たように、自分の持ち味がサイドからの単騎の仕掛けだけではないことを印象付けるプレーにもなった。

後半19分までプレーし、中村敬斗との交代でベンチに下がる。隣でプレーした鎌田が語る。

「(俵積田は)1対1が特徴的な選手なので、できるだけ多く仕掛けられるようにしていました。前半は割と縦に多く行ってたんで、『もう少し中も使っていいよ』とは言ってたんですけど、今日はコーナーキックを多くとったり、個人でよく剥がしてくれたと思います。ただ、これはチーム全体にも言えるんですけど、やっぱり中で崩せないと外がうまく空かない。外、外になってしまったし、新しいメンバーでアウェイのオーストラリア戦でリスクのあるプレーをするのは難しい部分もあった。ただ、最初はそうなっても仕方ないですけど、時間が経つにつれて、もう少し中央で崩せたかなとは思います」

試合序盤の攻撃での見せ場に加えて、球際の戦い、プレスバックでは試合前に話していたとおりに気持ちのこもったプレーを披露した。だが、多くの仕掛けが単発に終わってしまい、思い描いていたような活躍はできなかった部分もあったようにも見えた。オーストラリアが引き分けを視野に入れた5バックで守りを固めてきたことは、チームとして想定外だった部分もある。

タッチラインに張ったポジショニングについて俵積田自身は「自分がピン留めする(相手選手を自分のマークにつかせる)ことによって鎌田さんがフリーで受けられるスペースが空くし、そうすれば自分がもっと裏に走り出せるという狙いでした。いろいろな意図はありましたけど、もっとプレーの幅を広げられると思う」と狙いを明かしたが、本人も話しているとおり、臨機応変な判断や駆け引きの工夫、プレーキャンセルや緩急の使い方などを加えていくことがプレーの幅を広げていくはずだ。

そして終了間際、オーストラリアに劇的な決勝ゴールを許し。チームは今回の最終予選で初めての敗戦を喫してしまう。一定の手応えを得ながら、デビュー戦を白星で飾ることができなかった。何より日本代表として勝利に貢献できなかったことが悔しさを募らせる。

「今日は負けてしまったので、自分が試合に出て勝つことを次の目標としてやっていきたい。相手が結構引いてきて難しい試合ではありましたけど、それでも得点に絡んだり、チャンスを作ったりしなきゃいけない。最初のほうは緊張もありましたけど、先輩方の助けもあって、徐々に身体も動くようになって慣れてきた。これからは自分でそういうことができるようにならなきゃいけないと思いましたし、とにかく課題ばかり。周りからいろいろなものを学んで、もっとレベルアップしなきゃいけないということを改めて強く感じました。まだまだ課題だらけなので、しっかり修正していきたいと思います」


憧れから現実へ。今回のオーストラリア戦は日本を代表して世界と戦うことの意味を知った試合にもなった。試合後の記者会見、森保監督は「自分たちの未来は自分たちで切り拓くもの。アウェイで実力のあるオーストラリアとの最終予選を経験したことが、これからの成長につながっていくことを信じたい。初めて招集され、ピッチに立った選手たちが胸に刻んで成長につなげてくれれば嬉しい」と日本の未来について言及した。

百聞は一見にしかず。俵積田晃太が踏み出した大きな一歩は、彼にとって新しい世界の扉を開くものとなったはずだ。次の目標は中4日で行われるインドネシア戦。練習から再びアピールし、国際経験豊かな選手たちから多くのことを吸収し、成長を遂げてもらいたい。意識もプレーも変えられるのは自分だけ。彼が密かに抱き続けてきた夢は、もう自分だけのものではなくなった。

この1試合で終わらない夢の続きを、多くの人が楽しみにしている。

 

(文中敬称略) 

Text by 青山知雄 / Photos by 三浦彩乃