その熱を逃すな<br />
33 TAWARATSUMIDA KOTA

COLUMN2025.8.08

その熱を逃すな
33 TAWARATSUMIDA KOTA

火のついた導火線は、ジリジリとソノトキへと向かっている──。

俵積田晃太が歩む道は決して平坦ではない。何度も壁に弾き返されながら、また立ち上がって向かっていく。その歩みは彼のプレーそのもので、どんな険しい悪路も果敢に突き進んでいく。

今シーズンは、そんな日々の連続だった。あの日もそうだ。3月1日に行われた明治安田J1リーグ第4節鹿島アントラーズ戦。この日の俵積田は「身体のコンディション的にもすごく良かった」と言う。

その言葉どおり、アーカイブに残るハイライト映像には、たびたびその姿が映し出される。前半25分、ペナルティエリア内に侵入して中央へと折り返したボールを長友佑都が右足でシュートを放った。これは相手選手に阻まれ、ゴールネットを揺らすことはできない。その10分後には、仲川輝人の放ったシュートがバーに弾かれる。この直前で仲川とパス交換をしたのが俵積田だった。


後半開始直後には岡哲平のフィードを無理な体勢で収めて「一番得意」というカットインからシュートを放ったが、これも相手ディフェンダーに阻止されてしまう。

そして同11分には、マルセロ ヒアンが相手ゴールキーパーと競ってこぼれたボールが俵積田の前に転がった。目の前には無人のゴール。だが、放った左足のシュートは枠を捉え切れず、唇を噛んだ。

「自分が決め切るところで決められなかったところもあったし、他の選手たちと一緒でチャンスを作りながらも得点に結びつけられなかった」

すると、勝負強い鹿島が牙をむく。ペナルティキックとセットプレーで失点を重ね、チームは敗戦を喫した。その悔しさから、俵積田はこう言葉を吐き出す。

「前回はもったいない負け方をしたと思うので、今回は本当に決め切りたい。最近はチームとしても得点をとれているので、今回はたくさん得点をとって、無失点で終わらせたい」

そう言葉にしたのは、手応えがあるからだろう。チームは直近の公式戦7試合で6勝1敗と確実に上向いてきている。

「チームとしてのやり方を、今はみんながしっかりと統一感を持ってやれている。開幕当初と比べて統一感もあるし、やるべきことをみんながスムーズにやれているのが大きいと思う」

前回の鹿島戦で敗れたチームはそこから8戦未勝利を経験し、5月17日の第17節浦和レッズ戦からは5戦未勝利という辛苦の時間を過ごした。そのなかで、俵積田自身はボールを受けても前を向ける場面が少なく、得意のドリブル突破を見せられない試合も少なくはなかった。ちょうどチームが上向くきっかけとなった6月25日の第15節横浜F・マリノス戦後には、こんな話をしていた。

「昨シーズンは、良い形でなかったとしても、前向きではもらえていたので仕掛けられていた。でも、今シーズンはなかなか良い形でビルドアップができていなかったので、みんなとも話しています。『もう少しセンターバックが高い位置をとることができないか』とか、そういうコミュニケーションをとりながらチーム全体として取り組んでいます。自分だけじゃなくて、(佐藤)恵允くんも前を向いたら良いプレーができるし、前線の選手にどう預けられるのかがビルドアップをしていく意味だと思う。もっともっとチームとして良くしていかないといけない。そこが向上してくれば得点の確率はより上がってくると思う」


苦しんだ時間にチームメイトと要求し合って打開策を模索した。それは決してムダではなかった。横浜FM戦で手にした3-0の勝利を契機に、ビルドアップの質が上がって予感どおりに得点増へとつながった。俵積田は前向きの選手を使って、「一枚剥がすことができれば、相手がどんなブロックを組んできても崩せる」と言う。

「その一枚を剥がすためのビルドアップをやるには、チームみんなの考え方や矢印を揃えないといけない。それができれば絶対に勝てない相手はいない」

みんなが運んできてくれたボールを前向きで受け、そこで一枚剥がすのが俵積田の真骨頂のはずだ。

ここに小さくない変化があった。今年6月、自身初となる日本代表の活動から帰ってきてから、以前の“唯我独尊”的なプレーの印象が少し変わって映るようになったのだ。「代表に行って、心境に変化があったのか」と、俵積田に聞いた。こちらはてっきり「また選ばれたい」と返ってくるものだと思っていたら少し表情の違う言い回しが飛んできた。


「自分が東京を引っ張らなきゃいけないという気持ちが強くなった。日本代表に選ばれたいという気持ちは小学生の頃から全く変わらず、ずっと思ってきたことなので。もちろんまた代表に入りたいという気持ちはあるけど、今のチーム状況を考えると、本当にそれどころじゃないというか。とにかく勝たなきゃいけない気持ちが強い」

それを聞いたからなのか、「みんなが届けてくれたボールをゴールに近付けたい」という意志がプレーからもビンビン伝わってくるようになったのだ。

さあ、鹿島との再戦だ。あの悔しさは胸に刻まれていることだろう。

「鹿島とは毎回難しい試合になるイメージがあるけど、優勝争いをしているチームに勝てれば自分たちもそこからさらに波に乗れる。そういう大事な試合で勝ちたい。個人での打開が自分の武器なので、そこで優勝争いをしている相手に対し、自分のところから崩していってチームに貢献したい」


そして、正直に話すが、ここからのコメントは口下手でシャイな彼に半ば強引にこちらが言わせたもの。ただし、僕からは『熱」というワードを使ってコメントをお願いしただけだ。

「ここで勝って東京を熱狂させたい」

その意志がなければ、口にはしない。火のついた導火線は、ソノトキへと確実に近づいている。

それは、タワラと青赤が両方同時に、だ。


(文中敬称略)

Text by 馬場康平(フリーライター)