5月以降は常に10位以内をキープ
東京が改革元年と位置付けて臨んだシーズンも、いよいよ『ラスト3』を残すのみとなった。ホーム味の素スタジアムで戦えるのはそのうち2試合。10月12日(水)のセレッソ大阪戦と最終節11月5日(土)の川崎フロンターレ戦だ(もう1試合は10月29日のアウェーでの名古屋グランパス戦)。ともに東京よりも上位に位置するチーム。アルベルトーキョーの真価が問われる2試合と言っていいかもしれない。
チームは今シーズン、カウンター志向の強いプレースタイルから大転換を図った。大づかみに説明するなら、最適なポジションを取ってボールを保持し、試合を優位に進めるスタイルだ。安定的に成績を出すためには、受け身ではなく能動的に戦うことが必要だと、アルベル監督は就任会見で強調していた。
ただ、『言うは易し、行うは難し』がスタイル変更にはつきまとう。現在北海道コンサドーレ札幌を率いるペトロヴィッチ監督もサンフレッチェ広島時代、自身の哲学を落とし込むために多くの時間を必要とした。
いまやセルティックの監督となり、ヨーロッパで名声を高めるアンジェ ポステコグルー監督も同様だ。やはり横浜F・マリノスを率いた初年度の2018年は、ハイプレッシャーかつハイテンポのスタイルを浸透させ切ることができず、12位でフィニッシュ。生みの苦しみを味わった。スタイル変更が一朝一夕で完成しないことは、これら過去の例が証明している。
アルベルトーキョーもシーズン中盤は不用意なミスからポイントを失うケースが散見した。状況や戦況よりも立ち位置を意識するあまり、うまくパスがつながらず、攻めに転じた際にボールをロスト。結果、相手の速攻をまともに浴びることにもなった。
とはいえ、前述した例のような低迷には至っていない。指揮官はうまく折り合いをつけながら難しいタスクをここまでやり抜いてきたと言えるだろう。しかもコンセプトを途中で放棄するような愚を犯さずに、だ。32節までの順位変動を見てみると、10位以下だったのは序盤だけ。5月以降は常に10位以内をキープしている。
現在東京は7位だが、6位の柏レイソルとは勝ち点1差、5位の鹿島アントラーズとは勝ち点2差だ。しかも消化試合数がこの2チームよりも1試合少ない。ホームゲーム『ラスト2』で4位のC大阪、2位の川崎に勝てば、さらに上位をうかがえる位置につけている。
前回とは異なるC大阪戦に!
ピッチで見せている戦いぶりからも、チームの進化はうかがえる。たとえば国立競技場で行われた30節の京都サンガF.C.戦。自陣の深い位置からパスをつなぎ、相手のプレス網を何度も突破してみせた。選手が連動し、的確にボールを前進させていく様は、シーズン序盤には見られなかったものだった。
アウェーに乗り込み1‐0で勝ち切った31節の鹿島アントラーズ戦でも印象的な戦いを披露した。とくに前半はアルベル監督も納得の内容で、積極的なプレスによるボール回収率が高く、攻守両面で狙い通りの戦いを展開。強度の高い相手にも『自分たちのプレー』を実践できる力を示した。
京都戦後にアンカーでボールを循環させていた東慶悟は「それがチームのめざす形。続けてきたことが出せてきた」と、まだ発展途上の段階にあると断った上で、理想形に近づきつつあると語った。選手の側にも道を進んでいる実感があるのだろう。
事実、指揮官がコンセプト実現の指標の一つとしているポゼッションにおいても、東京が相手を上回るケースは増えている。9月以降の6試合のうち5試合で相手にまさった(参考:J STATs)。ヴィッセル神戸戦や湘南ベルマーレ戦のようにボールを持たされて速攻を狙われるケースの対応にはまだまだ改善の余地があるものの、総じて主導権を握り、相手を押し込む時間が持てている。
12日のC大阪戦で注目したいのも、そのポゼッションの中身である。すなわち、『持つのか、持たされるのか』。アウェーの前回対戦(3月6日)では逆にボールを持たれる時間が長く、後手に回ることも多かった。敵陣でボールを奪い、紺野和也がゴールを決めて1-0の勝利を収めたが、内容的には主導権を握れず、苦しんだ印象も強い。今回の対戦では、新スタイルに取り組み始めたばかりだった前回とは異なる姿を見せたいところ。持って攻め落とすことが理想だろう。
相手も3月の対戦時に比べて完成度を高めているが、攻め筋はある。攻撃的な両サイドバック、山中亮輔、松田陸の背後を突くのは依然として有効な策だ。ビルドアップ面でも攻撃に幅を生む上でも、サイドバックの攻め上がりはC大阪の生命線。1試合の中で必ず何度かは背後を突くチャンスが訪れるはずだ。東京のポイントは、その好機に、どのような形で人とボールをスペースへ送り込むかになる。
前回のようにハイプレスからのショートカウンターでゴールをめざす手も当然あるが、相手は同じ轍は踏まないと警戒を強めているだろう。今回はその攻め手のみならず、ウイングにインサイドハーフやサイドバックが絡んで背後を取り、そこにボールを差し込んでゴールへのルートを開通させる策も講じたい。仮にボールを持たされ、守備をセットされた場合にはパスワークで相手の守備陣形を動かし、サイドを変えてスライドされるよりも早く攻め切ればいい。
1年間、ブレることなくここまでアルベルトーキョーは研鑽を積んできた。C大阪戦を、成長を示す舞台とできるかーー。2022シーズンを良い形で締めくくるためにも、求められるのは内容が伴った勝利だ。
Text by 佐藤景(サッカーマガジンWeb)