黙々と積み重ねた月日だった。すでに歴代16位となるJ1通算438試合を達成。あと12試合で史上14人目のJ1通算450試合にも迫る。それが今シーズンを終えると、プロで過ごしたキャリアが人生の半分に到達することになる。森重真人は「そんなに時間が経ったんだ」と、かみしめるように言った。
そんなプロ18年目はJリーグ30周年と重なった。リーグ発足当初の熱を体感したサッカー少年は「選手のカードを集めたり、マスコットのイラストが入ったトレーニングシューズもはいていた」と、当時を振り返る。昨年末にカタールで開催されたワールドカップでサッカー人気も再燃した。そうした当時の熱気を再び取り戻そうとする機運は確実に高まっている。このリーグに育てられた選手として、こう言葉にする。
「ワールドカップが終わってJリーグを盛り上げなきゃいけない思いは強くなった。東京がもっと大きくなるために、露出を増やすことももっと力を注がないといけない。Jリーグは自分が長くプレーしてきたからこそ、当たり前の日常だと思えている。でも、ワールドカップが終わった後に俯瞰してみると、まだまだこの国の文化にはなっていないと思う部分がやっぱりある。街中で普通にユニホームを着ることがカッコイイと思ってもらえるようにならないと。だからこそ、首都・東京からからさまざまな発信をして盛り上げていかなければいけない。東京の選手たちが、Jリーグのブランディングや地位向上も担っていかないといけない」
そのメモリアルな年の開幕に向け、チーム最古参の14年目のキャプテンは変わらぬ日々を過ごしてきた。ただ、普段とは異なる日常も存在した。
「いままでにないくらい意欲的に若手とベテランがコミュニケーションをとっていて、チームの雰囲気も含めていいキャンプだったと言えるぐらい。若い選手から学ぶこともたくさんあったし、いままで東京でやってきた選手から若手も学ぶことができたので、そういう良い相乗効果があったと思う。あいつら若手と話すのも楽しいし、なんかかわいいんだよね」
意気盛んな若手が猛アピールし、それに張り合うようにベテランも自らの力を誇示する。そうした毎日が沖縄や宮崎で繰り返された。アルベル体制2年目は、昨シーズンから取り組む良い立ち位置をとり、ボールを保持するポジショナルプレーの継続と進化へ挑戦する。日々更新されていくチームの課題や成果を見直しながら手応えと課題も口にする。
「目の前の試合に集中し、言い訳を作らないことが重要になる。このサッカーを作り上げるために意見を出し合える環境があるからこそ、優勝するためにはそこをどれだけ逃げずにみんなでできるかが大事になる。みんな優勝したい思いは一緒で、試合に出られない選手も当然これから出てくる。ただ、試合に出られない選手が文句を言って外に出るのではなく、試合に出るために『ヨッシャ努力しよう』という風にできるはず。それが今のチームの良いところだと思っている」
そして、開幕前には聞き慣れないからこそ、妙な違和感とともに鮮烈な記憶に残った言葉があった。森重は確かに言った。「ワクワクしている」と。コロナ禍以降、限定的な規制の解除はあったものの原則声出し応援は禁止されてきた。それがようやく今年から元に戻る。
「いままでも東京のことは大好きだった。でも、在籍14年目にして今まで以上に東京のことが好きだなって感じることが多い。これだけ長くいるからこそなのかもしれないけど、愛着はすげぇある。このチームで結果を残したいとか、このチームにいる幸せだとか、そういうことがここ1、2年で多く感じるようになった。コロナ禍の最初に感じた、ファン・サポーターあっての自分たちということに変わりはない。ただ、声出し応援がどんな雰囲気だったかを忘れている。それを経験していない選手もいる。東京のスタジアムの雰囲気を知らない選手も多い。あの雰囲気だったり、勝った後にみんなでユルネバを歌う気持ち良さだったり、そこを想像するだけでモチベーションが自然と上がる。きっと鳥肌が立つんだろうなって思う。これまで溜まっていたことが良い方向に爆発してほしい。それをより新鮮に感じると思うし、いままで当たり前だったことがモチベーションになると思う。そういった意味では楽しみでしかないし、ワクワクしますよ」
その言葉は、もちろん大目標にも掛かっている。「みんなで目指す目標はリーグタイトルしかない」からだ。あの最高の雰囲気が味スタに帰ってくる。森重は「そりぁワクワクするでしょ」と、被せた。
森重は2019シーズンの“あの味スタでの約束”を守ろうと、また今シーズンもあきらめずに「優勝したい」と口にした。僕のおかんの近所の茶飲み友だちからは「あきらめの悪い男は嫌われるわよ、あんた」と、教わった。でも、これほどあきらめの悪い男なのに、好きだという人が年々増えているんだ。あの日のおばさまたちに訂正してもらうためにも、プロとして人生の半分を過ごした男には証明してみせてほしい。あきらめなければいつか願いはかなうのだ、と。
Text by 馬場康平(フリーライター)