<前節・アルビレックス新潟戦のレビュー>
スタジアムを埋め尽くすオレンジ色の波は、ピッチ上のオレンジ色の11人を乗せて青赤のゴールを呑み込みつつあった。
序盤こそ東京も攻撃への積極性を持って新潟ゴールへと迫っていたが、ボールを保持しながらぐいぐいと押し込んでくるアルビレックス新潟に徐々に主導権を握られていく。
なんとか耐え、ゴールを割られずに0-0のまま時計の針は90分を超えた。
あとはアディショナルタイム。まだ勝利への希望も捨てずに戦っていた瞬間にエアポケットがあった。
後半45+1分、自陣ゴール前を固めながらも、サイドと中央を使い分ける新潟に揺さぶられ、左サイドからクロスボールを入れられると、ゴールの目の前にフリーで飛び込まれて頭で合わされる。
ゴールエリア付近で打たれたヘディングシュート。いくら野澤大志ブランドン選手が長身といえど、シュートコースは広大だ。セオリーのように地面に叩きつけてゴールキーパーが処理しづらいシュートを打ってくる。オレンジの波に乗ったシュートがゴールラインに迫る。
その一連の流れがスローモーションで見えていたかのように、野澤選手は冷静だった。クロスボールに備えてゴール左サイドにポジションをとり、クロスボールに合わせて、ボールから目を離すことなくポジションをゴール中央へと移動する。
足元に飛んできたボールに対して、ステップを踏みながら運んできた右足をボールに合わせてはじき返した。オレンジの波をはじき返した右足。連敗中だったチームが自信を取り戻すために必要だったクリーンシートは、野澤選手の冷静沈着な対応によって達成された。
<試合プレビュー>
前節はアウェイでアルビレックス新潟と0-0で引き分け、連敗を2で止めた。3試合ぶりの出場となった長友佑都選手は、この一戦に向けて「徹底して守備をやってきた」と言う。2週間の準備期間中、守備の基本に立ち返ってチームの細かい約束事や、個人戦術を確認してきた成果が実った。
不安定な戦いが続いた今シーズンは、特にアウェイで2勝5分9敗と大きく負け越してきた。その理由を、長友選手は「守備がもろすぎた」と指摘する。「まず守備を安定させなければいけない。相手を気持ち良くプレーさせない粘り強さや、守備の緻密さが必要。(新潟戦では)ディフェンダーとして最低限は示せた」
ホーム最終節の相手は北海道コンサドーレ札幌。前回対戦ではアウェイで今シーズン最多となる5失点を奪われているだけに、今節も守備の安定が一つのテーマとなるだろう。仲川輝人選手は「観ている人が来シーズンに期待できるような試合をしたい」と語り、この1シーズンを支えてきたファン・サポーターとともに、ため込んだ悔しさを吐き出す一戦にすることを誓っている。今シーズンの集大成として、しっかりと内容を伴った勝利を期待したい。
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[ピーター クラモフスキー監督インタビュー]
Q、アルビレックス新潟戦でみられた攻撃の課題を今週どのように改善しましたか。
A、相手の最終ラインの裏を取ったあとに、相手のゴールに向かい脅威になれるようにと考えています。そして、ボールを保持している時に、どのようにスペースを使うかが大事になります。自分たちのフットボールをしつつ相手にプレッシャーをかけること、相手のゴールキーパーまで圧力をかけること、そして相手が嫌がるところに飛び出す、ボールを供給していくことを、ここからさらに改善していきたいと思っています。
Q、新潟戦後には「(攻撃で)少し急ぎ過ぎてしまった」という言葉もありました。
A、完璧なパフォーマンスを出すことは非常に難しいですが、ゲームのなかでもう少しスペースにボールを動かして運べるシーンはいくつかありました。それが表現できれば、相手にとって脅威になると思います。ただ、前へ行こうとする意識を出していることはとても大事なことですし、新潟戦では自分たちがコントロールできそうな場面でボールを失うシーンが多くあったと思っています。
Q、前節の新潟戦は無失点に抑えることができて、守備に重点を置いたトレーニングの成果が出たのではないでしょうか。
A、私たちにとって守備面を整備することは非常に重要なことでした。合わせて、得点も積み重ねていかなければいけません。新潟戦では、攻撃面の成果を試合で発揮することができずに終わりました。私たちが作り上げてきているものを北海道コンサドーレ札幌戦では表現していきたいと思います。無失点に抑えること、多くの得点を生み出すこと、トレーニングから積み重ねてきていることを出し切る強いメンタリティを選手たちには求めています。
Q、札幌戦を意識した守備や練習もありましたが、手応えはいかがですか。
A、札幌はとても素晴らしいフットボールをしているクラブですし、ペトロヴィッチ監督をリスペクトしています。札幌がボールを保持している時に、我々はいかにシャープな守備ができるかがポイントになります。その準備を今週は進めているところですし、チームとしての守備の基本や原則を軸に、良い攻撃に繋げていきたいと思います。攻撃の際にはうまくボールを動かし、スペースを有効活用して守備ブロックをこじ開けていきたいと思います。良い場面を作り、ファン・サポーターのみなさんにとってエキサイティングな試合にしたいと思います。
Q、今節の札幌戦はホーム最終戦になります。
A、特別かつ大切な試合です。勝利を掴むことがどれだけ大事かを全員が理解しています。そして、ファン・サポーターのみなさんを喜ばせることに集中しています。そのために選手・スタッフは必死に戦っていますし、その準備をしっかりとしてきました。選手たちは勝つためにすべてを出し切ってくれると思っています。
[選手インタビュー]
<森重真人選手>
Q、シーズンも終盤に差し掛かりました。昨シーズンと比べると、苦しんだシーズンだったのではないですか。
A、順位を見れば分かるように、今シーズンは不甲斐ない成績だったと感じていますし、実際に結果にも表れています。シーズン途中で監督も交代するなど、自分たちがシーズン当初に思い描いていたような戦いができませんでした。非常に難しいシーズンになってしまったと思います。
Q、チームとして苦しい状況の時に、キャプテンとしての役割を果たすことも多かったのではないでしょうか。
A、クラモフスキー監督がシーズン途中から就任し、どのようなサッカーをして、どのようなスタイルを作り上げていくのかなど、すべてを監督任せにしてはいけないと思っています。もちろん監督それぞれに色がありますが、一番大切なことは選手自らアクションを起こして、色々なことにチャレンジしていくことだと思っています。チャレンジする環境を作ること、選手それぞれの意見を吸い上げ、みんなが何を思っているのか、各ポジションでどのようなプレーをしたいのかなどのすり合わせ作業は、これからさらに増やしていかなければいけないと感じています。
Q、今シーズンの森重選手のコメントを振り返ると“選手がどうするか”という点にフォーカスしているようにみえます。
A、ピッチ内でプレーするのは監督ではなく選手です。全体的な舵を取るのは監督ですが、ピッチに立つ僕ら選手たちが成長して、その一瞬一瞬で感じたことをプレーで表現していかないといけません。自分たちが何をしたいのか、ピッチに立つ11人のそれぞれがどういうプレーをしたいのか、それぞれが選択したプレーがチームにどのような影響を与えるのか、自分の持ち味は何なのかということを、もっと一人ひとりが考えて表現してほしいと思っています。求められていることだけではなく、それ以上のものを表現していく必要があります。自分はどうしたいのか、ということを、選手それぞれが発信していくべきだと思います。
Q、最後の2試合をどのような形で戦っていきますか。
A、ある意味、色々なことを試すことができる2試合だと思っています。最終節の12月3日まで残りわずかですが、残りの期間でチャレンジできることは山ほどあると思っています。もちろん、リーグ戦の順位はある程度絞られてきてはいますが、一番はファン・サポーターのために、そして自分たちの来シーズンにつなげるために、色々なアクションを起こしていきたいと思います。何か一つでも良いので、きっかけを掴みたいです。来シーズンもそのきっかけ探しから始めようとすると、どうしても前進することに時間がかかってしまいます。そういう意味では、来シーズンに向けた戦いがすでに始まっていると思っています。
Q、今シーズンはJ1リーグ通算450試合出場を達成しました。さらに、ディフェンスの選手として歴代1位タイとなるJ1リーグでの12シーズン連続得点という記録も期待されています。
A、今シーズンはコンディションを上げるため、フィジカル面の強化に取り組んできましたし、自分自身への一定の評価はできると思っています。まだまだ、戦えると思いましたし、1シーズンを通して戦えたことは今後の自信に繋がりました。連続ゴールについては、周りから言われることも多く、意識せざるを得ないですが、そこを狙って何かを変えることはありません。もちろん記録を達成できることは嬉しいですが、まだまだその他でも見せられる部分があると思っているので、結果的に記録更新ができれば良いと思っています。
<仲川輝人選手>
Q、前節のアウェイゲーム、アルビレックス新潟戦は引き分けに終わりましたが、その流れをどうつなげて戦いますか。
A、アウェイでの試合をクリーンシートで終えることはできましたが、得点を奪えていないので、今節に向けてその改善が必要になると思っています。アウェイで無失点という結果は良いことですが、試合内容はそこまで満足できるものではありませんでした。攻守両面で内容を改善していきたいと思います。
Q、仲川選手自身、攻守両面でどのような役割を担いたいですか。
A、大切なことは球際の強度と試合に臨む気持ちやメンタリティだと思います。相手陣内でボールを保持する時間を長くして、ポゼッション率を高めたいと思っています。今言ったところが勝つためのすべてだと思いますが、まずは勝利という結果を残すために戦うことを一番に意識しています。
Q、北海道コンサドーレ札幌がハイプレスをかけてくる分、攻撃面で多くの選択肢が生まれることが予想されます。
A、うまく相手の守備陣をはがすこと、スペースを突くことができれば、必然的にチャンスシーンは増えると思います。その反面、自陣の低い位置でボールを奪われればピンチに直結してしまいます。マッチアップした相手をうまくかわすチャレンジを試合中からしていかなければ、チームとしても個人としても成長はないと思っていますし、そこが勝敗を分けるキーポイントになると思っています。
Q、今節の試合がホーム最終戦になります。
A、みんなで最後に笑って終わりたい気持ちが一番にあります。来シーズンにつながるような期待を持ってもらえる試合を、ファン・サポーターのみなさんに見せたいと思います。