青赤の若き守護神が、初めてSAMURAI BLUE(日本代表)のユニフォームに袖を通した。
約1年前、いわてグルージャ盛岡への武者修行から戻った際には思い描くことすらなかったポジティブで大きな変化の連続。東京でのレギュラー奪取から自身初の日本代表招集、そしてAFCアジアカップ カタール 2023のメンバー入りへ。果たしてそこにはどんな思いが秘められていたのか。
今回は昨年末から行われていた日本代表合宿リポートを、本人コメントを添えてお届けする
代表合宿初日の12月28日。鈴木彩艶選手(シントトロイデンVV)が合流前だったこともあり、この日は前川黛也選手(ヴィッセル神戸)と二人でのトレーニング。森保一監督を囲んで簡単な全体ミーティングに参加したのち、ランニングに移行するフィールドプレーヤーから離れて下田崇ゴールキーパーコーチとともに練習をスタートさせた。
ウォーミングアップではステップワークからボールを使った基礎練習へ。ここではバリエーションをつけながら入念にキャッチング練習を継続していく。その後は足下の技術確認。森保ジャパンのチーム戦術ではゴールキーパーもビルドアップに加わることが求められるため、メニューに短い距離でのパス練習が組み込まれ、基本的な部分を意識づけする形となった。
そこからフィールドプレーヤーが合流し、狭いエリアで6対6にフリーマンを入れたミニゲーム。さらに攻撃陣のクロスからのシュート練習に加わり、アタッカーたちの強烈なシュートを浴びる経験も重ね、ペナルティキックの練習にも参加した。
初日の練習後には日本代表として初めてメディア対応に参加。多くの報道陣に囲まれ、やや緊張の面持ちで質問に応えた。
「Jリーグの最終節が終わってから時間が空いて試合もなかったので、久しぶりに全体練習に混ざれて楽しかったです。オフは東京のゴールキーパーコーチ陣と一緒に準備してきました。
(日本代表合宿は)ギャラリーの多さもそうですけど、取材される方々の人数も増えて、見られているんだな、ということをすごく感じています。2023シーズンは個人としてすごく変化が多いシーズンで、J1リーグでスタメンで試合に出られたことは自分にとっては大きかったし、さらに代表にも選出してもらえた。
自分と年齢が近い選手たちが(日本代表に)どんどん選ばれていって。そう遠くはない存在なのかなとは思いつつ、そこまで本当に近くの目標としては考えていませんでした。今回の選出は自分にとってはサプライズでしたが、同時に自分のプレーを見ていただいているという自信もついてきました。シーズンが始まる時には描いていなかったことなので、代表選出は素直にうれしいですし、自分が持っているものをすべて出していきたいと思っています」
合宿2日目は前日同様にゴールキーパー陣のトレーニングから入ったのち、若手とベテランに分かれたシュートゲームが行われた。ここで何度もファインセーブを見せ、「タイシ! ナイスセーブ!」「ナイスキーパー!」の声が何度も飛んでいた。ちなみにゲームは10-8でベテランチームが勝利。若手チームに入っていた野澤大志ブランドン選手にも逆サイドのゴールラインまで往復ダッシュの罰ゲームが課せられた。
続いて6対6にフリーマン二人を入れたミニゲームを実施。名波浩コーチからは「タイシ、ビルドアップを意識しよう。上を通すのはナシな」と声を掛けられ、テーマ性と強度の高いトレーニングに臨んだ。チームトレーニング後にはフィールドプレーヤーの居残りシュート練習に帯同し、最後の最後まで強烈なボールを受け続けた。
ここで少しトラブルが発生してしまう。練習後に左手首に違和感を覚え、30日のチームトレーニングを回避。練習前のファン・サポーターとのふれあいと全体ミーティングに参加しただけで、大事をとって精密検査を行うことになった。
31日の練習前、タイ戦に向けた公式会見で森保一監督が野澤選手の状態について言及する。
「数日はあまり負荷をかけないほうがいいとは言われていますが、今後に向けては早期にプレーが可能だと聞いています。このままトレーニングの評価をして、アジアカップへの招集について、状態に問題はないと思っています」
ひとまず大事に至らなかったという報告を受けて前日練習がスタートすると、国立競技場のピッチにはスパイクとグローブを着用した姿が。15分間の公開時間ではキック練習と簡単なキャッチングを行うのみだったが、できるだけ練習に参加したいという意思表示、そして実際にできるところをアピールしたいという姿が印象的だった。
元日のタイ戦では無事にベンチ入り。さすがに起用は見送られたが、目の前で繰り広げられる国際Aマッチに想いを新たにした模様だ。試合後、今回の代表活動について本人に聞いた。
「左手首の怪我もあって、100パーセントの状態で参加することができなくて悔しいです。やっぱり怪我はしたくないと思いました。それでもやっぱりこの場にいられたこと、参加できたことは自分にとってプラスになったので、それを自分の今後にどうつなげていくか。そこをしっかり整理していきたいと思います。もっとギラギラして自分の力を出すことができれば変わってくるのではないかと思いましたし、このピッチに立ちたいという気持ちは強くなりました。
代表という場所では、できないことにトライすることよりも、とにかく自分が持っている力を出す必要があります。恐れや不安で縮こまることが実力を出せなくなる要素だと思うので、それらを自分で撥ね除けて、自分に打ち勝って、実力を出していくことができるようになったら、もっと良いんだろうなと代表にきて思いました。手応えはあったので、これからも一日一日をムダにしないで、大事に歩んでいきたいと思っています」
そして同日夜に発表されたAFCアジアカップ カタール 2023のメンバーに、“野澤大志ブランドン”の名前があった。「もし(大会の)メンバーに入ったら、日本代表の一員として誇りを持って参加したい」と話していた野澤選手。年明け早々にカタールへ出国し、もし決勝まで勝ち進んだ場合は2月10日まで大会が続くことになる。東京で開幕に向けたチーム練習の参加期間は短くなってしまうが、アジアの頂点をめざして真剣勝負に臨む日本代表の一員として、かけがえのない経験を得られることは間違いない。自分でも想像できないほどの変化を遂げる成長曲線を、さらに上向かせる絶好のチャンスだ。
思えば、クラブ在籍ゴールキーパーとして日本代表に選出されるのは、土肥洋一、権田修一、林彰洋に次いで史上4人目。いずれも東京で一時代を築いた偉大な守護神ばかりだ。「自分でも追いつかないくらい」という変化を遂げるなかで、果たして野澤選手は今回の国際大会で何を経験してくるのか。そして青赤の歴史を彩ってきた名手たちの跡を受け継ぐ存在へと進化していけるのか、そのターニングポイントになるかもしれない重要な1か月が、ここからスタートする。
Text by 青山知雄