THE PHILOSOPHY<br />
PETER CKLAMOVSKI

INTERVIEW2024.2.22

THE PHILOSOPHY
PETER CKLAMOVSKI

[開幕直前ロングインタビュー]
指揮官の哲学
ピーター クラモフスキー監督

いよいよ2024シーズンの明治安田J1リーグが幕を開ける。全20クラブで競い合うリーグ戦を勝ち抜いてシャーレを掲げ、アジアの舞台へと躍り出るためには、強固なチームをつくり上げることが必要だ。

しかし、いくら多様な戦術を用意したとしても、それを十分に遂行するに足る心構えや姿勢といった基本が身に付いていなければ、目標とするフットボールを具現化し、エキサイティングな試合を見せることはできない。

果たして指揮官が選手たちに求める基準とは何なのか。ファン・サポーターの期待に応え、試合に出るために欠かせない能力の秘密をつきとめるべく、ピーター クラモフスキー監督の哲学を探った。



──監督は「ハードワーク」という言葉を好んで使います。この言葉の意味するところは物理的に走ることなのでしょうか、それとも精神的に頑張るということなのでしょうか。
まずは攻撃と守備における決まりごとをやり切ることですね。もちろんフィジカル面のハードワークという意味合いも含まれていますし、自分たちのプレーに集中して徹底するといった部分にもつながっていきます。攻、守、セットプレーといったフットボールにおけるすべての要素に関して、もっともっと自分たちのゲーム、自分たちのプレーができるようにしていく。そのために必要なものがハードワークです。

そして相手よりもたくさん走り、相手にスプリントで勝ち、相手が嫌がるところにすばやくボールを運んでゴールを奪いに行く。これが私の考える「ハードワーク」です。もちろん守備でもハードワークをして無失点に抑えていく。チームで取り組んでいる決まりごとをやり切ること、出し切ることが重要だと思っています。



──攻撃に出たあとに素早く戻らなければ、ハードワークができていないということですね。
そうですね。我々のゲームは切れることがなく、すべてがつながっています。フィールドに立っている全員が、チームとしての最大出力を出せるように戦っていく。途中出場した選手も前向きにプレーできるようにして、自分たちのコレクティブなスタイルを出し切れるようにしていきたいと思っています。


──話を伺っていると、監督にとっては試合の90分間が連続したものとして描かれているように思えます。
すべてがつながっています。ゲームにおいて局面と局面はつながっていますし、自分たちが今日練習したこともそう。フットボールは生きているものだと思います。ワクワクさせるようなサッカー、エンターテインメント性の高いスタイルで我々が何を表現できるのか。そういった部分を突き詰めながら、最終的に勝利をつかみたいですね。


──瞬間的なボール扱いの巧みさだけでなく、一試合をうまく運ぶことも重要になるということですね。
確かに一人ひとりの選手が持つ能力も優れているかもしれません。ただ、素晴らしいチームはそれ以上のものを出せます。我々のフィロソフィーとしては、誰が試合に出てもチームとして大きな力を出せるようにすること。誰か一人の選手に頼るのではなく、ピッチに立つ11人全員で戦っていくことが大事だと思います。



──選手たちのコメントを聞いていると、「勇気を持て」、「自信を持て」という監督のメッセージが伝わっているように思います。それが背後を怖れず、自分たちから仕掛ける姿勢につながっているのではないでしょうか。
そういった意識やプレーも成長していますし、自分たちのフットボールを作っていく過程を表すものでもあると思います。勇敢で、アグレッシブで、観ている人がワクワクするようなプレー。そういったフットボールを求めていきたいですし、選手たちが勇敢に戦う姿で感動してもらえたらとも思っています。激しく戦う姿勢を誇りに感じてもらいながら、ファン・サポーターの皆さんが最後の最後まで信じられるサッカーをお見せしたい。そういったフットボールを作り上げるために歩んでいるところです。


──重要なのはメンタルとプレーのアグレッシブさということですね。監督が掲げる姿勢がなければ、どんな戦術を用意しても意味がないように思います。
そこはすごく大切です。特別なチームを作っていきたいですし、誰もが一緒に戦っていきたいと思えるようなスタイルを東京で構築したい。今は自分たちのフットボールを組み立てている過程で、その先にはクラブがめざす大きな目標があります。我々はここに歴史を刻みたい。東京の歴史において、まだJ1リーグ優勝というタイトルはありません。クラブにかかわるすべての人が勝ち獲りたいと思っているものですし、リーグ戦を制し、アジア最高のクラブになりたいとも思っています。そこへ辿り着くためには、信じられる軸がなければならない。一歩ずつ刻みながら、そして一つひとつ努力を紡ぎながら、目の前にある山を登っていければと思っています。



──自陣からビルドアップしていく攻撃も、相手の背後を一瞬で突く攻撃も、どちらも昨シーズンに比べてシャープになっている印象があります。
そういった成長もワクワクするポイントですね。選手たちが勇敢にプレーすることで、フットボールが進化してきました。今後の可能性に明るい兆しが見えていますし、我々が大切にしてきた哲学も表現できはじめていると思います。キャンプからの積み上げは、ここから特別なものになっていくはず。プレシーズンは良い時間を過ごすことができていますが、重要なのはそれを開幕戦で出すこと。そして継続して成長し、学び続け、自分たちのフットボールを作り上げていくことです。


──選手たちもハードワークをしなければ出場機会が得られないと気付いてきたようです。
それが我々のフットボールの成長にもつながっています。選手が高い基準を置き、日々のトレーニングから冷酷なまでにやり切ることができれば、もっともっと成長していけると思っています。


──開幕戦で対戦するセレッソ大阪は主に3トップを採用していて、サイド攻撃がストロングポイント。ここをどう防ぐかが試合結果を左右しそうです。
開幕戦は、良い内容のフットボールが見られるのではないかと思っています。まず自分たちは攻、守、セットプレーにおいて、決まりごとをやり切ること。そこで持っている力を最大限に発揮できれば、必ず勝てるはずです。すべてのチームに対して「勝てる」というメンタリティを持って戦わなければならないですし、目の前にある1試合1試合を大切に戦っていきたいと思っています。


──ピーター監督には攻撃のイメージがある一方、しっかりと守備にも力を入れています。勝ち方の哲学としては、失点が少ないほうが良いという考えでしょうか。
そうですね。チャンピオンになるチームはそういった戦い方ができると思います。東京は本当にすべての要素を伸ばしていかなければならない。ただ、私は攻撃的な指導者で、なるべく多くのゴールを奪いにいこうと考えています。それと同時に相手に戦いにくさを印象付けて、東京とは二度と戦いたくないと思わせるようなゲームをしたい。それが我々のフットボールです。


──コンディションや怪我の問題でメンバーが入れ替わる可能性もあります。そういった場合への備えはどのように考えていますか。
負傷者を出さないことが一番ですが、フットボールですから、そういうわけにはいきません。選手たちにも「長いシーズン、カップ戦も含めて、すべてのタイトルを獲得するために戦っていく。そのためには全員の力が必要です。もし目の前の試合に出られなかったとしても、集中を切らさずに準備をしておいてもらいたい」と話しました。チャンピオンになるようなチームでは自然とできていることです。巡ってきたチャンスでしっかりチームに貢献できるよう準備してほしい。誰が試合に出ても、我々のフットボールがお見せできるようにしたいと思っています。



──監督は普段から「全員がキャプテンのようであってほしい」と言ってきました。
ピッチに立っている“11人のキャプテン”だけでなく、登録されている35人全員がキャプテンのようであってほしいと思っています。全員が高いレベルでトレーニングを積み、みんなで一丸となって戦っていく。同じ方向を向ける集団は強いです。もしかしたらシーズン中、流れが悪くなることがあるかもしれません。そういった状況でも自分たちの基準を落とさず、全員が継続して取り組み、チームを引っ張る意識を持ってもらいたい。難しい時期があったとしても、みんなで前を向いて続けていくことが未来につながると考えています。


──今シーズンは森重真人、小泉慶、そして松木玖生の3選手をキャプテンに任命しました。
小平での4日間、そこから沖縄と宮崎でのキャンプを経たなかで、チーム全体でリーダーシップは伸びている部分だと思っていました。そのメンタリティを持たせ続けたい。キャプテンを務める3選手は特に何も変える必要はありませんし。今まで取り組んできたように自分の力をしっかりと出し切ってくれれば良い。それはキャプテンではない選手も同じです。日々継続していくことを忘れなければ、必ず成長できますから。今シーズンの“キャプテンズ”はクリュウ、ケイ、モリの3人ですが、全員がキャプテンだと思って戦ってもらいたいと思っています。



──開幕戦を含めて、一戦ずつ勝利を積み重ねていくことでタイトルにたどり着くとおっしゃっていました。最後にタイトル獲得への道筋を聞かせてください。
とにかく一試合ごと。それがなければ頂点にはたどり着けません。日々の練習で成長を心がけ、自分たちのフットボールを作っていく。そして次の対戦相手に集中して焦点を当て、彼らを吹き飛ばします。そして新しい試合に向けた準備をしていく。リーグ戦38試合、そういった取り組みを続けていくことになります。クラブがずっと夢見ている景色、頂点を勝ち獲りたい気持ちがあることを誰もが感じています。ただ、そこへ到達するための道筋を知らなければならない。どの方法で、どこに向かって行くのか。どんなことがあってもブレずに信じて進んでいくことが重要ですし、我々が今取り組んでいるフットボールがその基盤になると考えています。世界の名だたるビッグクラブがそうであるように、我々は自分たちのフットボールを究めて、大きな山をみんなで一緒に登っていけたらと思っています。




Text by 後藤 勝(フリーランスライター)