パリ五輪行きの切符が懸かるAFC U23アジアカップに向けた最後のテストマッチ。すでに本大会出場を決めているU-23マリ代表、U-23ウクライナ代表との2試合に、東京から野澤大志ブランドン、バングーナガンデ佳史扶、松木玖生、荒木遼太郎の4選手が選出された。3月22日に行われたマリ戦で野澤と佳史扶が、同25日のウクライナ戦で松木と荒木が、それぞれスターティングイレブンに名を連ねた。
大岩剛監督が率いるU-23日本代表にとってアフリカ勢との初対戦となったU-23マリ代表戦。スピード、パワー、アジリティに組織力を兼ね備えた相手との一戦は、立ち上がりにセットプレーから先制点を奪いながら連携ミスもあって3失点で逆転負け。日本にとっては課題と収穫の双方で実り多いものとなった。
積極的な攻撃参加と
当たり負けしないフィジカル
バングーナガンデ佳史扶
左サイドバックでスタメン出場したバングーナガンデ佳史扶は、前半9分に高い位置でドリブルを仕掛けてペナルティエリア付近まで侵入してファウルをもらうなど、積極的なプレーを披露。大声で「切り替えろ!」「マーク空いてるぞ!」と後方から指示を出してチームを引き締め、左サイドバックの位置で最終ラインもコントロールした。後半12分には約40メートルの強烈な無回転ロングシュートでコーナーキックを獲得。後半19分までピッチに立った。
「フィジカルもパワーもスピードも強いと感じましたが、対人やぶつかり合いの部分は個人的には思ったよりやれる感覚がありました。(攻撃面で良さは出せたが)サイドバックは守備の選手なので、3失点は良くない。そこはチームとしても個人としても修正しないといけません。試合に出る選手に大きな責任があるということは、代表を経験させてもらったことでとても感じています。試合に出たら全員がリーダーのつもりでやらなければいけないし、直接的に関わっていない失点も自分のせいだと思ってやっています。
強いチームは一人ひとりの責任感が大きいと感じていますし、そういう選手、そういうチームにならなければいけない。自分からどんどん発信していかなければいけないとも思っています。東京でも代表でももっと自分で高いレベルを求めてやっていきたいし、守備は大前提として、その上で、攻撃面で怖い選手になりたいと思っています」
日本代表を経験した守護神
野澤大志ブランドン
この試合でゴールキーパーを任された野澤大志ブランドンにとっては、昨シーズンのリーグ最終戦以来となる公式戦のピッチ。元日のタイ代表戦、1月のAFCアジアカップで日本代表に選ばれながら、怪我で出遅れた影響もあって東京ではベンチを温める日々が続き、約3か月半ぶりの実戦復帰となった。
前半5分、相手選手に抜け出されて1対1の場面を迎えるも、ギリギリまで動じずに待ち構えてしっかりとコースを限定。前半14分にはカットインしてきた相手のミドルシュートにも対応していく。
だが、前半34分にビルドアップのズレからゴール前でボールを奪われて同点弾を決められると、後半8分にはブラインドから放たれた強烈な無回転ミドルを弾き切れず、相手に押し込まれて逆転を許してしまう。終盤にも右サイドを崩されて追加点を奪われてしまった。
「この試合は、最終予選となるアジアカップに向けて勢い付ける試合と認識していました。(久々の公式戦出場で)ミスが起きたことは、やっぱり(試合勘の)影響はあったのかなとは思いますが、それを言い訳にはしたくない。個人的には良い状態だったので、あのようなミスをするのは久々でしたが、決して代表戦で起こしてはいけないプレーが出てしまった。ゴールキーパーがしてはいけないミスが続いたので、そこはすぐに修正できると思います。すぐに最終予選が控えていますし、そこに向けてイメージを上げていきたい」
試合は悔しい結果となったが、久々のゲームで最後方から大声で出したコーチングが何度もスタジアムに響き渡るなど、日本代表を経験した守護神がチームを引っ張った。
中2日で行われたU-23ウクライナ代表戦は、組織的にビルドアップしてくる相手に対して大岩ジャパンの生命線でもある前線からのプレスが機能。それぞれがうまく間で受けるプレーを見せたことも攻撃の流れをスムーズにした。試合は日本が後半3分に得意のセットプレーから先制し、後半31分に果敢なプレスから高い位置でボールを奪って追加点。マリ戦とは相手のタイプは異なるものの、初戦で見えた課題をクリアにして、チームとしての持ち味を発揮する形で勝利を収めた。
攻守に存在感を放つ東京のキャプテン
松木玖生
4-3-3のインサイドハーフで荒木遼太郎と並んで先発出場した松木玖生は、持ち味の運動量とボール奪取で随所に存在感を発揮。積極的なプレスで守備から攻撃へのシームレスな連動に貢献しただけでなく、前半33分にはコーナーキックから浮き球でこぼれてきたボールを左足でダイレクトボレー。これは惜しくもバーに弾かれたが、攻守に存在感を見せる。
前半36分にはスペースを指さして走り抜けようとする荒木に左足でピンポイントフィード。あと少しのところで決定機にはつながらなかったが、“青赤ホットライン”の大きな可能性も感じさせた。
「攻撃のところはすごく流動的にできたと思いますし、あとは決め切るだけ。フィニッシュまでスムーズにできていると思いますし、チャンスも多く作れていた。自分たちの特長であるセットプレーで点をとれたことは、かなり前向きに捉えられると思います。今後はもっと流れのなかで決めたいし、次はアジアでそういうところを見せたいです。(荒木との連携は)タロウくんがいると、自分的にはすごくやりやすい。常にお互いを見てやれていますし、東京に戻ってもそういうコンビネーションのところは高めていける。さらにそういうところを磨いて、個人としてもしっかりレベルを上げていきたいと思います」
攻撃の中心となり決定機を生み出す
荒木遼太郎
そしてこの試合で大きく輝いたのが、2022年3月以来2年ぶりの世代別日本代表招集となった荒木遼太郎だ。東京でリーグ戦4戦4発と結果を残してつかんだ代表戦に「日本を背負って戦うのは特別なものがある」という想いを秘めてピッチに立つと、立ち上がりから“荒木のチーム”と思わせるほどボールが集まり、何度もチャンスに絡んでいく。
開始早々にペナルティエリア内で相手ディフェンダーを抑えながら右に流れてシュートを放つと、前半12分には藤田譲瑠チマ(シントトロイデン)とのコンビネーションで左サイドのニアポケットに侵入。さらに前半14分、横パスを受けて巧みな足技で縦に持ち出して右足を振り抜くと、前半22分には前線で連動したプレスを誘引して決定機を生み出した。そして後半開始直後の後半2分、左サイドから持ち込んで右足で強烈なシュートを放つと、その流れで得たコーナーキックから佐藤恵允(ブレーメン)の先制ゴールを導いた。
北九州スタジアムのピッチの上には、久々の代表にも関わらず東京でのプレーと同様に攻撃の中心となる荒木の姿があった。
アンカーに入ったゲームキャプテンの藤田も「(荒木は)パスの精度やスペースでうまくボールを受け取る技術が本当に高い。そういったところで自然とボールが入ったり、奪った後にパスが渡ったりするシーンが多かった」と話すなど、すぐさまスムーズな連携を見せたこともあって、一気にレギュラー候補へと名乗り出た形だ。
個人的にはゴールという結果は残せなかったものの、チームとしては大きな収穫。荒木自身も「攻守にわたって、今持っているものは出せた。自分のプレーは本当にできたと思うし、自分がやれることはやれた」と落ち着いた口調で冷静に手応えを語った。
「ボールも非常に良く動かせたし、相手のスキを突きながら前進させられた。(藤田譲瑠チマ、松木との)中盤の関係性は本当に良い。(先制点につながる」コーナーキックは狙いどおりです。リーグ戦から続いて、ボールタッチの感覚も良かったのでシュートを積極的に狙っていました。(AFC U23アジアカップに)行く準備はできていますし、選ばれた時のパフォーマンスをもっと上げられるように(東京に)帰ってから短い期間ですが、しっかりやっていきたい」
四者四様の代表ウィーク。それぞれが手応えと課題を手に、未来への誓いを新たにした期間となった。4月上旬にはAFC U23アジアカップの招集メンバーが発表され、大岩ジャパンは4月16日の初戦に向けて決戦の地であるカタールへ旅立つことになる。今回の活動で得た向上心と覚悟を胸に、東京の若き代表戦士たちが再び青赤のユニフォームに袖を通してJのピッチに立つ。
text by 青山知雄
photo by 新井賢一