継承と挽回<br />
それぞれの「今」を越えていく

COLUMN2024.6.04

継承と挽回
それぞれの「今」を越えていく

憧れのサッカー選手。

同じプロサッカー選手としてのステージに立った今も、その背中を追いかけ続けたいと、サッカー少年だった頃の気持ちが変わらずによみがえってきた――。

しかし、そんな憧れの存在を越えなければいけない。
それこそが、チームの躍進、ルヴァンカップのタイトル獲得に大きく近付くからだ。

そして、憧れの存在としてチームをプレーで引っ張るベテランも、東京にタイトルをもたらすべく、自身が持つ全てをこのクラブに捧げる覚悟だ。


プレーと姿勢を受け継ぎたい


JリーグYBCルヴァンカップ 1stラウンド3回戦 サガン鳥栖戦。120分間では決着が付かず、ペナルティキック戦までもつれた激闘の末、東京は勝利を掴んだ。

駅前不動産スタジアムのピッチに立った岡哲平選手は、久しぶりの先発出場だけではなく、もう一つの出来事に心を震わせていた。

センターバックのコンビを組むのは森重真人選手。岡選手が幼いころから憧れとする東京のバンディエラだ。

「小さい頃から憧れていた選手と同じピッチで、同じポジションで一緒にプレーできたことに対する感謝の気持ちがありました。それと同時に、どのようなプレーを魅せてくれるのかという楽しみ、ワクワク感もありました。120分間一緒にプレーできたことが、本当に刺激になりました」

公式戦のピッチで二人が試合開始からコンビを組むのははじめてのこと。後半終了間際の失点を除けば、森重選手の鋭い読みと守備対応能力、岡選手の正確なビルドアップと対人守備の強さ、という互いの長所が活き、最少失点で試合をクロージングさせた。

岡選手にとって、公式戦初の先発出場が120分のプレータイムと、タフさが求められた一戦。しかし、ともにコンビを組む森重選手の存在が、あと一歩、あと数センチのディティールを後押しした。

「練習から100パーセントで臨む森重選手の姿勢は本当に見習わないといけないと感じています。僕や若い選手たちが100パーセントで取り組むのは当たり前ですが、ベテランの選手がそのような姿勢で取り組んでいることがチーム全体に良い影響と刺激を与えてくれています」

ここまで、J1リーグの試合出場はわずかに途中出場の1試合とプロの世界の現実と向き合っている岡選手。“若手の登竜門”と言われるルヴァンカップで得たチャンスを是が非でも結果に繋げたいところだ。

「森重選手の練習から人一倍身体を張ってブロックする姿やハードワークの姿勢が常に僕の手本であり、見習うべき姿です。今度は、僕がその姿を継承していきたいです」

激戦必至のセンターバック争いを制するため、そして、憧れを越えるために――。


このクラブにはタイトルが必要


東京在籍14シーズン目を迎える森重真人選手も、人一倍タイトル獲得に飢えている。それこそが、東京の未来を大きく変えることを誰よりも知っているからだ。

「若い選手が多いので、タイトル獲得が成功体験になると思います。過去を振り返った時に、『タイトルを獲得したシーズンは、こういうところがちゃんとできていたよね』とか、一つの成功体験が、チームや選手それぞれの物差しになると思うんです。優勝、タイトル獲得という経験が、若い選手たちに与える影響は大きいと思っています」


ベテランと呼ばれる域に突入した森重選手。木本恭生選手やエンリケ トレヴィザン選手、土肥幹太選手らの活躍もあり、し烈なポジション争いが繰り広げられている。

しかし、一歩下がって傍観する気はさらさらない。

「良いチームは、常に良い競争があります。僕自身は大歓迎ですし、チーム内で切磋琢磨できるということはチームにとっても個人にとってもプラスなこと。気を抜かないで日々過ごすことができています。僕自身、全然まだまだできると思っていますし、試合を振り返っても足りないことだらけです」

現状に、もどかしさを抱いているに違いない。しかし、これまでも修正と改善を繰り返し、一歩一歩前進し続けてきた自負がある。
そして、試合出場とタイトル獲得に誰よりも飢えているその眼差し、熱い想いがプレーで味方へと伝播し、相乗効果をチームにもたらしてきた。

岡選手の存在は森重選手にとっても刺激になっている。

「お互いが試合に出て、チャンスをつかみたいっていう気合いがありましたし、岡選手が真摯に練習に取り組む姿も知っています。悔しい想いをしていたことも知っています。だからこそ、チームとして鳥栖に勝って、結果を残したいという気持ちがありました。岡選手が僕のことをリスペクトしてくれるのは嬉しいですが、ポジションを争うライバルでもあります。鳥栖戦のように一緒に出た時はアドバイスしながら、自分の経験を伝えていきたいと思いますし、若い選手たちが思い切ってプレーできる空気感やサポートをこれからも心がけていきたいですね」

どのポジションを見ても、出場を確約されている選手はいない。チーム内に競争があり、だからこそ、クオリティの高いプレーと良い緊張感が生まれる。

岡選手は憧れの存在を越えるため、森重選手は最高の景色をチームにもたらすため――。

それぞれが内に秘める野心や熱い想いが、今ピッチで解き放たれる。