<前節・アルビレックス新潟戦のレビュー>
ついに来た。
ついに零温がゴールを決めた。
誰もが待ち望んでいたJ1リーグ初ゴールは、公式戦3連敗を止める鮮やかなシュート。そして同期加入の盟友を送り出す送別の一撃でもあった。幾度となくビッグチャンスを逃して悔しい思いをしてきた今シーズン。それでも変わらずに努力を続けてきた彼の取り組みがようやく実った瞬間だった。
1-0で迎えた後半33分、鋭いカウンターで小泉慶選手が右サイドを駆け上がっていく。相手守備陣はゴールキーパーを除いて2人だけ。逆サイドを全力疾走しながらゴールに向かっていく野澤零温選手の前には、広大なスペースが広がっていた。
「走っている時に慶くんと目が合いました。絶対に最終ラインとゴールキーパーの間に入れてくれると信じて、僕はとにかく全力で走って、気持ちで押し込むだけでした」
右サイドから送られてきたグラウンダーのクロスは鋭く、そして狙いどおりに足下へ届けられる。シュートまでの時間と余裕がありすぎて、今までだったら緊張して外していたかもしれないシーン。だが、この日の彼は違った。
「今日は自然体でプレーできるなって思っていました。確かに結構緊張はしましたが、練習でも結構似た場面のトレーニングをしていて、思い描いていたシチュエーションでした。それを想定して整理できていたので、ほどよくいつもどおりの自分を取り戻すことができました」
細かくステップを合わせながら、右足インサイドでニアを破る。本人は「当てるだけだった。気持ちで押し込んだ」と振り返るが、ゴール左下ギリギリのコースを突いたテクニカルなシュートだった。ネットを揺らした瞬間、頭が真っ白になった。
「本当にただただうれしいというか、やっとみなさんの声援に一つ応えることができたという安心感と、決めた時の高揚感と、もう感情がぐちゃぐちゃでした」という殊勲の二十歳は、涙が出そうになりながら、「ここで泣いたら泣き虫キャラになってしまう」と気付き必死に堪え、一目散に東京ゴール裏へと走った。どんな時でも叱咤激励を送ってくれたファン・サポーターのところへ行きたかったからだ。
「今までチャンスがありながらもゴールを奪うことができなかったことが多くて、もがいてもがいて苦しい時間が続いていたなかでゴールを決めることができた。いろいろな言葉をもらえることは、常に一緒に戦ってくれているからこそだし、他人ごとだったら言ってもらえないと思います。その思いを力に変えて、結果で応えていかなければいけない。個人としてもチームとしても、また一つになるきっかけになったのかなと思います」
また、この試合をもって松木玖生選手が海外移籍を前提にした手続きのためにチームを離れることが決まっていた。野澤選手にとっては同期加入の盟友でもあった。
「勝って気持ちよく送り出してあげようとチームで話していました。個人的にはすごく刺激になっていたし、いなくなることは寂しいですが、同期として僕も負けていられない。切磋琢磨しながら、彼に負けないように僕ももっともっとチームを引っ張っていける存在になれるよう頑張っていきたい。世間一般的に見たら、僕はむしろ年下みたいな感じで、彼は本当に雲の上の存在だと思われているはず。それが悔しいと思えていることがポジティブだと思いますし、彼を超えていかないといけない。肩を並べて、またもっと高いレベルで一緒にできたら」
ようやく大きな一歩を踏み出した。
試合後のミックスゾーンで「遅くなって申し訳ないです」と苦笑いしながら、「やっとスタートラインに立てた」と笑顔を見せた。
「まずは一つ取れればと思ってやってきたので、ここからさらなる高みをめざして、どんどん取っていきたい。あそこで決め切るのがストライカーですし、僕はストライカーとしてやっていきたい。このゴールが自信になると思います」
ゴール裏で歓喜の輪が解けた後、右手を広げ、左手を耳に当てるゴールパフォーマンスを披露した。
「昨シーズンからやっていたんですけど、東京では初めて。ゴールをみんなに喜んでもらって、もっともっと称賛と声援を聴きたいという意味を込めてのパフォーマンスです。ゴールを決めたらやろうと思っていたので、ここからその機会を増やしていきたいですね」
同期の移籍を受けて、自分がやらなければという自覚を強くした。厳しくも温かい声で支えてくれたファン・サポーター、居残り練習に付き合ってもらったスタッフへの感謝も忘れない。周りの期待に応えるべく、誰よりも自分自身が待ち望んでいたJ1リーグ初ゴール。国立競技場の大観衆の前で決めた忘れられないゴールは、必ずや彼にとって大きなターニングポイントになるはずだ。
<マッチプレビュー>
前節、国立競技場で行われたアルビレックス新潟戦に2-0と勝利し、公式戦の連敗を3で止めた東京。海外移籍に伴う手続きのためチームを離れることが発表されたキャプテン松木玖生選手の最終戦、そしてパリ五輪に出場する野澤大志ブランドン、荒木遼太郎両選手の壮行試合という意味合いもあったゲーム。57,885人という国立競技場におけるJ1リーグ最多入場者数を更新する大観衆の前で見事に白星をつかみとった。
絶対に負けられない試合で青赤が意地を見せた。序盤から最終ラインと中盤をコンパクトにしたミドルブロックで新潟のパスサッカーを封じ、試合展開に応じてボールを持たせながら鋭いカウンターで仕留めてリードを広げる。ゴールキーパーを使ったビルドアップでボールをつなぎながらペースを握るシーンが何度も見られ、課題だった試合展開に応じた臨機応変な戦い方を意識できていたこともポジティブな要素だろう。
そして終盤には野澤零温選手がついにJ1リーグ初ゴールをマーク。松木選手と同期のアタッカーがようやくネットを揺らしたことも今後に期待の持てる結果となった。
今節を最後に2週間半の中断期間に入る明治安田J1リーグ。中断前のラストマッチで臨むのは、鹿島アントラーズとのアウェイゲーム。相手の指揮を取るのは、かつて青赤でともに戦い、アジアの舞台にも挑んだランコ ポポヴィッチ監督だ。東京時代は華麗なポゼッションサッカーが象徴的だったが、現在はハイプレスからのショートカウンターを主体としたスタイルを採用。今シーズンから鹿島を率いて、ここまで12勝5分6敗の4位という成績に導いている。
また、鹿島は今週、ポルトガルやベルギーでプレーしていた元日本代表の三竿健斗選手を完全移籍で獲得。古巣復帰となる大型ボランチはすでに選手登録を終えており、最短で東京戦から出場が可能になった。攻守に高い能力を持つ選手だけに、起用してきた場合はしっかりと警戒しておくことが必要だろう。
東京にとっては松木、荒木、大志という3選手が不在となるが、4月から5月にかけてパリ五輪予選で彼らが抜けた際には、3連勝を収めるなどしっかりと結果を残している。ピッチに立った選手が順番に活躍してきたのも今シーズンの東京らしさ。まずはアウェイ鹿島でしっかりと勝利を手にして、上位進出を視野に入れながら、良い形で中断期間に入りたい。
[ピーター クラモフスキー監督インタビュー]
Q、アルビレックス新潟戦の2得点は再現性の高いプレーだったと思います。狙いがうまく落とし込まれた手応えはありますか。
A、スペースや相手のエリアを突いていくために、チームのなかでいくつかの形があります。2得点ともハードワークから、各選手が役割を認識したポジションどりができていました。相手も止めにくい一連の流れだったと思います。狙いを各選手が掴んでいる証です。ただ、改善しなければいけないこととしては、攻撃時のスペースの使い方です。ボールをコントロールする時間を増やしつつ、相手のスペースをうまく突いていく必要があります。
Q、新潟戦の後半、守備ブロックの位置が少し下がる時間帯もありました。
A、それもフットボールの一部ですし、試合では起こりうるものです。後半は自分たちがボールをコントロールする時間を失っている場面がありました。相手のスペースを見つつ、ボールを動かすことができれば、保持する時間を長くできたと思います。それができなかったこと、新潟もボールを保持することに長けているチームということもあり、守備の比重が高くなったことが要因の一つだと思います。試合のなかで起こりうる難しい時間帯に、割り切って戦うことも重要です。ですが、改善は必須です。ボールを簡単に失わないこと、スペースを活用することで全体を押し上げることができると考えています。
Q、チャンスクリエイト数とボールを保持する時間を増やすバランス感覚が特に今後求められてくると思います。
A、攻撃面で効率良く進めることが大切です。ボールを持った時に、キープするだけでは観ている方々も当然面白くありません。コントロールをしつつ、前への意識を失わないことです。前への意識は、我々に攻撃の厚みをもたらしてくれます。全体的なコントロールが効果的なプレーを生み出すと思います。
[選手インタビュー]
<小泉慶選手>
Q、アルビレックス新潟戦の振り返りをお願いします。
A、連敗している状況でしたし、何としても勝利が欲しい試合でした。試合全体を通して割り切ってプレーすることを意識していました。全てのシーンでビルドアップをして得点できるほど、相手も甘くはないので、手数をかけずにゴールに向かうシーンも意識して作っていました。また、ゴールキックを蹴るのか、後ろから繋ぐのかの判断についても試合中に修正しました。守備面でも相手がボールを保持してくることが分かっていたので、ボールを持たせても問題ないという認識を共有して、試合を進めることができたので、そうした判断の部分は良かったです。
Q、新潟戦の2点目のアシストシーンはどのような狙いが追加点に繋がりましたか。
A、ボランチの選手が飛び出すということは、試合前からも言われている部分だったので、狙い通り良い形でそのスペースを活用したことが得点に繋がったと思います。やはり、あのような飛び出しは相手の陣形も崩れるので、チャンスになる可能性が高いと思います。どんどん増やしていき得点を増やしていきたいです。
Q、リーグ戦中断前の最後の試合になります。どのように試合に臨みますか。
A、上位争いに食い込んでいくためにも、自分たちより上位にいるチームにしっかりと勝つことが大切だと思います。勝点を直接縮めることができる大事な試合なので、しっかりと良い準備をして臨みたいと思います。
<波多野豪選手>
Q、出場となれば、久しぶりのリーグ戦になります。
A、チームは前節のアルビレックス新潟戦で勝利しましたが、内容的には満足のいくものではなかったと思います。それまで連敗していたこともありましたし、今度は連勝できるように全力を尽くしたいです。練習から、守備ブロックが下がり過ぎないようにコミュニケーションは図ることができていると思いますし、前節の反省を活かしていきたいです。
Q、試合に出場できない悔しさも大きかったのではないですか。
A、悔しさというよりは、自分自身の責任を感じています。出場のチャンスをもらえれば、しっかりと試合に入って、自分の持っているものすべてを表現したいと思います。
Q、上位に位置する鹿島アントラーズとの対戦になります。
A、4位につけている相手ですが、今シーズンのJ1リーグはどのチームもレベルが高いことを感じています。変に高ぶり過ぎず、平常心でプレーしたいです。最後尾からチームを盛り上げていきたいですし、苦しい時にプレーや声で助けたいです。
<白井康介選手>
Q、アルビレックス新潟戦はスプリント回数(26回)で第23節のJ1リーグトップの数字を残しました。献身性が勝利に大きく勝利に繋がったと思います。
A、相手にボールを握られる時間が多い試合でしたが、我慢強く守ることと得点をとるべきタイミングでとれたことが勝利に繋がったと思います。個人としては、走ったというよりかは“走らされた”試合になってしまったかもしれませんが、守備の面で僕自身の特長を活かすことができた場面もありました。スプリントの部分では、さらに攻撃でそのパワーを発揮できるように次の試合から意識していきたいです。
Q、夏場のハードな試合でどのような対策とケアが重要になりますか。
A、夏場の試合はハードですし消耗戦になりがちです。新潟のようなボールを保持するチームと対戦した時に、受けに回るだけではなく、僕らもボールをうまく保持する、試合をコントロールする時間を増やすことが重要です。ボール保持を得意とするチームは、相手にボールを持たれることを嫌がります。東京にはハードワークできる選手が多く揃っているので、新潟戦のような戦い方もできますが、相手を走らせるような戦い方を意識して、攻撃や試合運びをコントロールする時間を増やしていきたいと思います。個人としては夏場の試合は得意です。対峙する選手がキツい顔を見せてくれたら、相手を上回るスプリントで何度も仕掛けて、サイドを活性化していきたいと思います。
Q、今節は4位の鹿島アントラーズとの対戦です。
A、上位を狙うためにはここから1試合も落とすことができない状況です。僕らよりも上に位置する鹿島にしっかりと勝って、上位との差を縮めたいです。