声援に応える責任

COLUMN2024.9.12

声援に応える責任

違和感が傾聴に変わり、悔しさから感情があふれ出た。
心に湧き上がってくるのは勝利への渇望、そして感謝と共闘への想い。
勝ちたい。勝たなければならない。
青赤に関わるすべての人を笑顔にするために、背番号39が魂を込めてピッチを駆ける。



6戦未勝利を告げる長い笛に、仲川輝人はフゥーッと長い息を吐き出した。

「また勝てなかった……」と、悔しさが胸を締めつける。

「情けない……」と、怒りがこみ上げてくる。

「申し訳ない……」と、自責の念に駆られた。

「……」


押し寄せる幾つもの感情は制御を失い、自然とあふれ出た。それが僕には青赤に関わる人たちの“イマ”をすべて引き受けるようにも映った。



8月17日(土)の2024明治安田J1リーグ第27節東京ヴェルディ戦は0-0の引き分け。試合後、味の素スタジアムにはブーイングが巻き起こった。その翌週、仲川選手は首を横に振りながら、こう吐き出した。

「今は結果がついてきていない。どんなサッカーをめざしているのか疑問に思っている人もいる。でも、そこに正解があるのなら、そのサッカーをしている。人生うまくいく時もあれば、いかない時もある。それはチームも一緒。自分たちの人生はどうなんだと問いたい。人生がすべてうまくいっているのなら、苦労なんてしない。苦しい時があるからチームはまとまる。その1試合に懸ける想いとか、勝つために何をしなければいけないとか。そういったことが個々に芽生えていく。ここでどれだけ踏ん張って勝ちに持っていけるか。そうすればまた一つひとつ強くなれる」



誰よりも勝ちたいと思ってきた。だが、翌週の第28節京都サンガF.C.戦でも0-3と完敗。ただし、そこにはさらに深くなるはずだったため息を吸い込ませてくれた人たちがいた。奥歯をかむ選手たちを後押しするように、声を張り上げて応援を続ける東京のファン・サポーター。それに拍手を送り、最後まで名残惜しそうに見守る仲川選手の姿があった。

「戦う姿勢や気持ちを見せられなかった自分たちが情けない。1点もとれていないし、開始1分半で出端をくじかれてしまった。毎回、多くのファン・サポーターが足を運んでくれているのに、ああいった試合をしてしまって本当に申し訳ない。最後まで声を出してくれていた人たちがいるから僕たちは戦えている。ずっと応援してもらっているぶん、しっかりあの声を聞かなきゃいけないという想いで、可能な限り応援を聞いていました」

期待に応えたいという想いを心に刻んだ光景だった。現状よりも一歩先へ。そう誓い、向かったのが前節のサンフレッチェ広島戦だった。台風10号の影響もあって移動は一日前倒しとなったが、仲川ら選手たちは勇躍敵地に乗り込むはずだった。

「こういう状況で、ファン・サポーターが一番勝ちたいと思っている。高いお金を払ってわざわざアウェイまで来て応援してくれる。本当に試合で戦わなきゃいけないし、勝ちに行く姿勢を見せないといけない。こういった時に一致団結して“FC東京ファミリー”という言葉を思い出して、チームだけじゃなくてファン・サポーターと一つになってやっていくことが大事だと思う。ここが踏ん張りどころ。今、6連勝している相手に勝てば自信がつく。そういう意味では楽しみ。一人ひとりが最高の準備をして、エディオンピースウイング広島では(YBC)ルヴァンカップで負けているので、その借りを返したい。どんなゴールでも1点入れば流れが変わる。自分たちの自信をなくしちゃいけない」

そう言葉にして乗り込んだ新幹線は、静岡県内の大雨による影響を受けて新富士駅で立ち往生。日付が変わっても列車は停車したままで、約8時間の缶詰め状態となった。その後、同駅付近のホテルに宿泊。翌30日の夕方に羽田空港近くのホテルにバス移動し、前日練習はできず。試合当日朝に山口宇部空港に入り、バスで約3時間を掛けて広島入りしていた。




台風に翻弄された一戦は、後半18分までに3点をリードされる苦しい展開となった。それでも選手たちの気持ちは折れなかった。後半34分に小柏剛選手がチーム5試合ぶりのゴールを決めて反撃の狼煙を上げる。

「何ですかね。諦めない気持ちもそうだったけど、途中から出た選手がチームを勢いづけてくれて、流れを変えてやろうという気持ちもあった。僕は0-3になろうが、諦めてはいなかった」



試合終了間際、その仲川選手が意地を見せた。ショートコーナーから個人技で広島の分厚い壁をこじ開け、最後はシュート性のクロスでオウンゴールを誘発。満身創痍のなかで、1点差まで詰め寄った。

「ショートコーナーは僕の独断。コーナーキックから得点できる気配は正直なかった。高さでは広島はデカいし、強い。単純にコーナーからボールを入れても勝てないだろうと思っていた。もちろんピンポイントで合えば分からなかったけど、キッカーも普段蹴っている選手ではなく(遠藤)渓太だったので、それも含めての判断。相手が油断していたのもあったと思う」

しかし、一歩及ばなかった。長い笛が吹かれ、堪えていたすべての感情をさらけ出すかのように涙があふれた。後日、そのワケをこう明かしてくれた。

「僕も人間なので、その時の感情がある。色々な感情が出ちゃったと思う。勝ちたいだけだった。勝ちたい気持ちが色々なカタチで出た。勝ちたい気持ちもそうだし、情けなさもあった。あんな移動をして、よく分からないスケジュールで試合を戦ったという複雑な気持ちもあった。色々な感情がすべてあふれ出た。そういう感じだった」

まだ物語は完結していない。涙で終わるつもりなんて毛頭ない。6戦未勝利と長いトンネルは抜け出すことができていないからだ。

「すべての膿や毒は、移動も含めて広島で出し切ったという想いでいる。毎試合、ホームでもアウェイでも力強い応援をしてくれている。僕たちにはそれに応えなきゃいけない責任がある。ただ、僕はみんなを笑顔にしたい。勝ってね」

2ヵ月勝利から見放され、楽観視できるようなチーム状況ではないことは誰の目にも明らかだろう。

だが、決して逃げない。

勝利を約束した人たちと共に戦う。それがこだわりの多い仲川輝人が自らに課した“男のルール”だからだ。


Text by 馬場康平(フリーライター)