<前節・湘南ベルマーレ戦のレビュー>
無敗記録が5でストップしてしまった明治安田J1リーグ第35節の湘南ベルマーレ戦。前半終了間際と後半開始早々に失点を喫して2点を追いかける展開を強いられたが、後半に大きな期待と注目を集めたのが18歳の佐藤龍之介選手。後半37分からピッチに送り出された青赤育ちの若武者が攻撃を活性化した。
味の素スタジアムの大歓声と大きな拍手が彼を迎え入れる。ファン・サポーターが出番を待っていた。そして誰よりも出場機会に飢えていたのは、他ならぬ彼自身だった。
リーグ戦出場は4月27日のアルビレックス新潟戦以来、約半シーズンぶり。練習試合で結果を出してもなかなか出番が巡ってこない現状に、心が折れそうになったこともあった。だが、そんな難しい時期も「ネガティブに考えても仕方がない。自分にベクトルを向けてパフォーマンスを上げていくことに力を注いでいく」と前を向き続け、パーソナルコーチをつけて課題とされてきたフィジカル強化も図ってきた。
U-19日本代表で司令塔を務める逸材だ。7月にはパリ五輪に参加するU-23日本代表のトレーニングパートナーに選出され、本大会直前にはU-23フランス代表との国際親善試合に出場。大岩剛監督から「日本の宝」とも称された。チームで苦しい状況にあっても、常に懸命に自身の成長と向き合ってきた姿があった。
たゆまぬ努力を続けて半シーズンぶりに立ったリーグ戦のピッチ。与えられた時間はアディショナルタイムを含めても10分あまりだった。それでも2点を追いかけるチームを勢いづけるべくボランチに投入された背番号23が、残された短い時間で存在感を見せていく。
「ボールを持たないと自分の良さは何も出ないと思ったので、今日は『自分に渡せ』くらいの感じでボールを集めました」という覚悟で積極的にボールを受けて持ち運び、チーム全体のベクトルを相手ゴールに向かわせた。
自然とボールが集まってきたのは、パスコースに顔を出すタイミングやポジショニングの良さに長けているからこそ。後半42分には右サイドでクイックネスあふれる小刻みなボールタッチからクロスを供給。ゴール前に走り込んだ山下敬大選手にはわずかに合わなかったが、「あそこにポジションをとってくれていると思っていたので、間接視野で(動きを)捉えて、点で合わせるイメージでした」という類稀なるサッカーセンスと技術の片鱗を見せた。
試合は東京が終盤に猛攻を見せながらも反撃弾は生まれず、このまま0-2で敗戦。だが、青赤の未来を担うであろう18歳が、その大きな可能性を見せた試合でもあった。
「久々に試合に出たことで、より出たいと思った。自分としては次につながるプレーができたし、ラスト3試合で絶対にスタメンをつかみ取りたいと思いました。ここから良いマインドでやれるはずだし、自分のプレーを出しながら勝利に貢献できたら、もっと評価されると思う。今度はゴール前での怖さをプラスアルファで出していきたい」
思い悩んだ時期にも「期待や責任を自信にして、自分の力に変えていきたい」と語っていた“リュウ”。この試合でピッチに入った瞬間の大歓声は、彼の胸にも届いているはずだ。プロサッカー選手としてチームを勝利に導くために、そして応援してくれている人に歓喜をもたらすために、青赤育ちの若き逸材がさらなる飛躍を期す。
<マッチプレビュー>
前節湘南ベルマーレ戦の黒星で無敗記録が5でストップした東京。だが、気落ちしている時間はない。今節はアウェイの国立競技場に乗り込み、同じ東京を拠点とするFC町田ゼルビアとの対戦。まさしく絶対に負けられない試合となる。
初顔合わせとなった4月のホームゲームは、味の素スタジアムで1-2と敗戦。前半、インテンシティの高い展開から1点ずつを奪い合うも、同点とした直後に一瞬のスキを突かれて再びリードを許し、相手の守備を崩し切れずに悔しい敗戦を喫した。
J1リーグ昇格初年度から優勝争いに加わっている町田。直近のリーグ戦5試合は2分3敗と少し苦しんでいるものの、現在3位で逆転優勝の可能性を残しながらAFCチャンピオンズリーグエリートの出場圏内にある。今節はパリ五輪代表アタッカーの藤尾選手が出場停止となる一方、チームキャプテンの昌子選手が出場停止明け。チームを束ねる守備の司令塔が戻ることで雰囲気が上向きになることが予想される。優勝争いに残っていくため、そしてアジアの舞台を勝ちとるために何としても白星が欲しい試合となるのは間違いない。
だが、東京としては同じ首都をホームとする相手に“シーズンダブル”を食らうわけにはいかない。
今回の試合もピッチ各所で激しいバトルが繰り広げられることが予想されるが、それはすべて想定内。相手のロングボールやロングスロー、カウンターといった攻撃パターンもしっかりとつかんでいるはず。まずはチームとして勝利を重ねていた時期の「良い守備から良い攻撃」というベースに立ち返り、強度の高い積極的な守備、速攻と遅攻を織り交ぜた試合運びのうまさを含めた東京らしさを出し、しっかりと勝利を手にしたい。
[ピーター クラモフスキー監督インタビュー]
Q、前節の湘南ベルマーレ戦から、どのような修正を加えて臨みますか。
A、目の前の試合に集中するだけです。そこに対しての準備が大事になります。湘南戦で出た課題を修正しながら、FC町田ゼルビア戦に向けて準備していければと思います。毎試合が自分たちにとっては大事な試合です。自分たちのパフォーマンスをしっかりと出し、勝ちにいきます。
Q、今節は町田との一戦です。
A、チームとしての決まりごとをやり切るだけです。そして、球際のところでしっかりと高い強度でプレーすることを求めていきたいと思います。コンパクトに奪ったボールをつなぎ、自分たちが主導権を握る試合にしていきたいです。そこから裏への飛び出しを繰り返し行うことで、相手が嫌がる攻撃ができると思います。
Q、今節は国立競技場での試合であり、同じ東京をホームとするチームとの対戦になります。
A、毎試合が重要です。色々な感情があるなかでも、自分たちのパフォーマンスを最大限に出すことに焦点を置いていきます。もちろん、相手を常にリスペクトしていますが、自分たちの100パーセントを出す準備を進めていきます。
[選手インタビュー]
<安斎颯馬選手>
Q、今節はFC町田ゼルビアとの対戦です。
A、勝利のために徹底している印象ですし、相手チームのウィークポイントを突くプレーを今節もしてくると思います。相手の特長であるセットプレーやロングスローなど、プレーが止まる、途切れる時間も今節は多くなると思います。そのような時に相手に流れを渡さないマネジメントや自分たちのペースでプレーする意識を特に集中させたいです。相手のペースに飲み込まれることなく、自分たちのサッカーで勝利を手にしたいと思います。
Q、前回の対戦ではセットプレーから失点を喫しました。どのような対策や準備が特に必要ですか。
A、選手それぞれがアラートにプレーすることが求められてきます。どのようなことが起きても対応できるような予測や準備が重要です。相手の癖やセットプレーのパターンなども頭に入れておくことで、ピッチ上での対応も変わってくると思います。まずは、全員で声をかけ合って、臨機応変に、柔軟に対応したいと思います。
Q、相手のロングボールを活用した攻撃に対して、どのような守備が求められますか。
A、まずは簡単に蹴らせないことです。前線の選手としては、しっかりと守備のアプローチをして、自由を与えないようにしたいです。ロングボールが増えてくると、セカンドボールの回収も重要です。この二つが主導権を握るためにも必要だと思っています。
Q、高校時代に指導を受けた町田の黒田剛監督との対戦を控えるなかで、どのようなことを意識していますか。
A、一番はチームの勝利に貢献することです。これがブレることはありません。個人的な対戦というよりも、同じ東京のクラブとして町田に勝ちたい想いが強いです。ですが、黒田監督は青森山田高校時代にお世話になった方ですし、僕自身が成長した姿をピッチで見せたいと思います。
<荒木遼太郎選手>
Q、前節、湘南ベルマーレ戦の振り返りをお願いします。
A、結果だけをみると“やられてしまった”という印象が強くなってしまいますが、チャンスは僕らにも多くありましたし、「あのシーンで決めていれば」というような場面も多くありました。チャンスをしっかりとものにできなかったことが敗因だと思います。僕自身のコンディションも良い状態ですし、周りとの連携を意識したプレーをみせていきたいです。
Q、FC町田ゼルビアのイメージや、警戒すべき点を教えてください。
A、攻守においてタフに戦うチームですし、セットプレーも様々なパターンから得点を奪っている印象です。前線の選手は高さもありますし、ヘディングや身体の強さを活かしてくるので、そこが警戒すべきポイントだと思っています。間違いなく厳しい戦いになると思います。セカンドボールの回収や対人プレーでは負けずに、すべてにおいて相手に勝る戦いをしたいです。
Q、東京をホームタウンにするクラブ同士の対戦です。
A.前回の対戦は僕自身出場できずにチームとしても負けてしまう、悔しさが残る試合になってしまいました。絶対に勝ちたいです。
Q、良いイメージがある国立競技場での一戦となります。
A、僕らはたしかに国立競技場では負けを経験していませんが、選手たちはそのデータに頼っているわけではありません。結果にこだわることに集中して臨みたいと思います。