自分のために、チームのために
“ダマさん”が見せたプロ意識
GK 1 児玉剛
人に、選手にストーリーあり。2024シーズンを戦い抜いた全青赤戦士を選手ごとに紹介する『2024 PLAYER’S REVIEW』。果たして彼らはいかなる想いを抱えながらシーズンを過ごしていたのだろうか。自信、手応え、課題、喜び、悔しさ……。それぞれが送った今シーズンの戦いを、本人の言葉を紡ぎながら振り返る。
高いプロ意識をベースにチームに好影響を与えてきた児玉剛。カップ戦で出場機会を得て結果を残しながら、リーグ戦では悔しい想いも味わった。それでも前を向き、チームのために戦い抜いた“ダマさん”の2024シーズンとは。
JリーグYBCルヴァンカップのY.S.C.C.横浜戦、そして天皇杯のヴィアティン三重戦。これまで東京が苦手としてきたカップ戦の滑り出しで好スタートを切る役割を果たした児玉だが、一方で勝利に貢献できない試合では辛い役割を担うこともあった。
6月11日に開催された明治安田J1リーグ第13節の柏レイソル戦は、3-1と逆転に成功した前半アディショナルタイムに波多野豪が一発退場。以降を一人少ない状態でスクランブル出場の児玉がゴールを守った。しかし後半にリードを守れず2失点を喫して引き分けに終わると、批判の声が沸き起こった。
「めっちゃ叩かれたんですよね。それで結構落ち込んだりしました。俺も言いたいことはもちろんあるけれど……ずっと批判を浴びせられる一方で辛かった」
児玉は耐えた。失点の責任は自らが負う。言い訳が許されない立場であることは分かっている。信頼はピッチ上のプレーと行動で取り戻すしかない。
「俺たちはプレーで見せるしかない。すぐに切り替えてやりましたよ。トレーニングで良いプレーができなかった時にも落ち込みますけど。そこはもうしょうがない。割り切ってやらないと」
個人として良いプレーを見せながら同時に周囲を鼓舞し、チームメイトを気遣う。そんな“ダマさん”の姿勢はなかなか人目に触れることはないが、SNSやインターネットの端々に人柄の痕跡が残る。10月に小平で行われたシンガポール代表との練習試合では、司令塔の佐藤龍之介を勇気づける力強いコーチングを100人以上の観衆が目撃した。
「ピッチの上でチームに貢献したいという気持ちが強い。今もその想いは変わっていないです。ただチームのため、チームの勝利のために、どんな立場であろうと全力を尽くすというところも変わっていない。自分が置かれた立場でやれることを最大限にやるというスタンスで今シーズンもやってきました」
一つしかないゴールキーパーのポジションでは、好調を維持していても公式戦に出られないという状況は珍しくない。その意味では、怪我をしないことも頼もしさの一つだ。
「トレーニングを1日も休まず、離脱もなく、そこは自分の強みでもあると思う。体調不良になっていたら、計算できない選手なので」
自らを律し、節制し、コンディションを崩すような生活を送ることはしない。山あり谷ありのサッカー人生を進むなかで難しい状況をさりげなく乗り越えていく児玉は、まさにプロサッカー選手を体現する存在とも言える。
「いつ出番がきても良いプレーができるという自信を持っておかないとダメ」。そう語る背番号1は、毎日の小平で俊敏な動きを見せ続けた。
Text by 後藤勝(フリーランスライター)