苦しい時期を乗り越えて
終盤戦の躍進を支えた背番号10
MF 10 東慶悟
人に、選手にストーリーあり。2024シーズンを戦い抜いた全青赤戦士を選手ごとに紹介する『2024 PLAYER’S REVIEW』。果たして彼らはいかなる想いを抱えながらシーズンを過ごしていたのだろうか。自信、手応え、課題、喜び、悔しさ……。それぞれが送った今シーズンの戦いを、本人の言葉を紡ぎながら振り返る。
シーズン終盤の快進撃を抜群のバランス感覚で支えた東慶悟。一時期はベンチからも外れる苦しさから、張り詰めた糸が切れそうになったこともあった。だが、経験あるベテランは決してあきらめなかった。さらなる成長を心がけ、新たな視点からチームや試合の状況を把握して自らに流れを引き寄せると、気づけば再び青赤の中盤に不可欠な選手となっていた。
「3月に最初の怪我をして、そこから難しい時期に入ったなという感覚はあります」
2024シーズンについて聞かれた東慶悟は、真っ先に3月16日の明治安田J1リーグ第4節アビスパ福岡戦での負傷に伴う影響を挙げた。右大腿二頭筋筋挫傷で全治約6週間。開幕から続けてベンチ入りを果たし、公式戦に向けた準備サイクルで日々を過ごしていたが、この離脱の影響で7月20日の第24節鹿島アントラーズ戦までリーグ戦のメンバーに入ることができなかった。
「コンディションが5月、6月くらいから徐々に上がり始め、試合に出たらやれる自信があるというレベルまで来てから、なかなか試合に関われない時期を約3か月過ごしました」
しかしこの間、下を向くことなく明るい表情でトレーニングを継続したことが、終盤戦のスタメンメンバー入りにつながった。練習でも練習試合でもカップ戦でも“黒子”になり、流れを変えようとした。鋭いパスを送るプレーのクオリティは決して衰えなかった。
この時期については東自身も「ブレずにやれたことが、現在のこの立場につながっているというのはすごく自信になる」と振り返る。9月以降に見せたチームの躍進は、彼がボランチに加わり、チームメイトを活かす働きを心がけたことが背景にあった。
試合から遠ざかっていた時期の取り組みが実った。時間を無駄にせず、プラスに変えていこうと考えた。ある時はDAZNで、ある時は味の素スタジアムで、つぶさに試合を観た。何が足りないのか、何が良いのか──。B級ライセンスの指導者講習に参加していることもあり、指導者にも近い、より俯瞰した視点でチームの観察、分析に励んだことも新たな発見になった。
フィジカルに関しては、練習開始1時間半前からの準備を心がけ、100パーセントの状態でトレーニングに臨める状態を作り上げていた。「そこをやると自然と練習からも良いプレーができる」と繰り返し向上に努めた結果が、秋の試合に現れた。
いつしか周囲に「慶悟が必要だ」という空気が漂い始める。東はその期待に応えた。
思えばアルベル監督が指揮を執り始めた2022シーズン開幕当初は出番を失っていたが、途中からアンカーのポジションを獲得した。気がつけば必要な存在になっているように考え、ベテランになっても成長を心がけるところが彼の優れた特質なのだろう。
「この年齢になって多少のプライドもありますし、メンバーから外れてアカデミーの選手と練習試合に出て、いつ糸が切れてもおかしくない状態でやっていた感覚はありました。ただ、そういう時でも『絶対試合に出たらやれるよ、俺は』という、変な勘違いは捨てたらダメだなと思っていたので」
与えられた課題をクリアし続けている達成感。あらためて試合に絡み続ける喜びを感じながら、シーズン終盤に青赤の背番号10が輝いた。
Text by 後藤勝(フリーランスライター)