<マッチレビュー>
AFCチャンピオンズリーグ2へとつながる天皇杯が、今シーズンも幕を開けた。14シーズンぶり2度目の頂点をめざした戦いの初戦突破に向け、松橋力蔵監督は新鮮な顔ぶれを味の素スタジアムのピッチへと送り出した。14日に行われた2025明治安田J1リーグ第20節セレッソ大阪戦から導入された4バックシステムは継続したが、スタメン11人を全員変更して臨んだ。
最後尾には野澤大志ブランドン選手が入り、センターバックは岡哲平選手と土肥幹太選手のコンビ。長友佑都選手を右サイドバックに配し、左サイドバックには昨年5月31日のサガン鳥栖戦以来となるバングーナガンデ佳史扶選手が383日ぶりに公式戦のピッチに帰ってきた。また、北原槙選手と小泉慶選手が中盤の底に入り、右に野澤零温選手、左は佐藤恵允選手。そして、前線は6月に新加入した長倉幹樹選手と、仲川輝人選手が2トップを組んだ。
1stHALF—主導権を握り、佐藤選手の2ゴールで後半へ折り返す
辛苦のリハビリ生活を乗り越えたレフティーが会場を沸かせた。前半22分、左サイドの深い位置まで佳史扶選手がボールを運ぶと、ゴール前にクロス。ゴール前で野澤零温選手が頭で合わせるもバーに直撃する。続く前半24分には、相手最終ラインの背後に抜け出し、仲川選手にピンポイントパスを届ける。これを受け取った背番号39は相手ゴールキーパーに倒され、直接フリーキックを獲得。これを北原選手が直接狙うも、シュートは惜しくもバーに阻まれてしまう。
他会場ではアップセットも起きていたが、この日の東京は主導権を握りながら冷静に試合を進めた。すると、同32分に歓喜の瞬間が訪れる。
試合前日に、指揮官がキーワードとして挙げていた「トランジション」がそれを生み出した。中盤でボールを失ったが、すぐに切り替えて即時奪回。そこから仲川選手がドリブルで持ち上がり、併走した佐藤選手が冷静にゴールネットを揺らして先制に成功する。
さらに、前半44分には野澤零温選手が右サイドの高い位置でボールを受けるとサイド際を個人技で突破し、中央へとクロス。それを佐藤選手が頭で押し込んで追加点を挙げ、2点リードで、後半へと折り返した。
2ndHALF—長倉選手の移籍後初ゴールもあり、3回戦進出を手繰り寄せる
後半開始から指揮官は佳史扶選手に代わって木村誠二選手を、仲川選手に代わってエヴェルトン ガウディーノ選手を投入。木村選手はセンターバックの一角に入り、岡選手は左サイドバックへとポジションを移した。
攻撃の手を緩めたくない東京だったが、不用意なミスから金沢に付け入る隙を与えてしまう。すると、徐々に守勢に回る場面が増えていく。それでも、野澤大志選手を中心に失点を防ぐと、後半29分から北原選手に代わって途中出場した高宇洋選手がゲームを落ち着かせてふたたび流れを手繰り寄せた。
同34分にはふたたび佐藤選手が決定機を迎えるも、これは惜しくも枠を捉えきれず。さらに、その1分後には高選手のスルーパスに抜け出した長友選手がシュートを狙うも、これは相手ディフェンダーに阻まれてしまう。この直後に佐藤選手は俵積田晃太選手と途中交代。ハットトリックこそ逃したが、佐藤選手は2得点の活躍で勝利に貢献した。
そして、仕上げは同40分だった。俵積田選手のシュートのディフレクションに素早く反応した長倉選手がダイビングヘッドで押し込んでダメ押しの追加点。デビュー戦で、名刺代わりとなる一発を突き刺した。試合終了間際に金沢に1点を返されたが、公式戦6試合ぶりに勝利の凱歌が味スタに響き渡った。新たな仲間を迎え、6月の巻き返しに向けて期待の高まる価値ある一勝となった。
MATCH DETAILS
<FC東京>
STARTING Ⅺ
GK 野澤大志ブランドン
DF 長友佑都/バングーナガンデ佳史扶(後半0分:木村誠二)/岡哲平/土肥幹太
MF 野澤零温/小泉慶/北原槙(後半29分:高宇洋)
FW 佐藤恵允(後半35分:俵積田晃太)/長倉幹樹(後半41分:安斎颯馬)/仲川輝人(後半0分:エヴェルトン ガウディーノ)
SUBS
GK 波多野豪
DF 室屋成/白井康介
FW マルセロ ヒアン
MANAGER
松橋力蔵
GOAL
前半32分:佐藤恵允 / 前半44分:佐藤恵允 / 後半40分:長倉幹樹
<ツエーゲン金沢>
STARTING Ⅺ
GK 白井裕人
DF 畑尾大翔(後半0分:松本大輔)/ジェフェルソン ジャリ(後半0分:長倉颯)/毛利駿也(後半13分:石原崇兆)/宮崎海冬/山本義道
MF 大山啓輔(後半33分:大澤朋也)/村田迅/嶋田慎太郎
FW 土信田悠生/大谷駿斗(後半13分:四宮悠成)
SUBS
GK 上田樹
MF 加藤大樹/熊谷アンドリュー
FW 杉浦恭平
MANAGER
辻田真輝
GOAL
後半44分:村田迅
[松橋力蔵監督インタビュー]

Q、本日の試合を振り返ってください。
A、無事に次のステージに進めたということで、今はホッとしています。内容は勝ったうえでの反省ができるということで、数多くあると思っています。しっかりとファン・サポーターのみなさんに勝利を届けられたということで安心しています。
Q、バングーナガンデ佳史扶選手が約1年ぶりの実戦復帰で、いきなりスターティングメンバーでの起用でした。起用の意図とパフォーマンスの評価をお願いします。
A、メディカルスタッフと慎重にやってきたなかでの決断です。僕もタイミングが来ればというところはありました。ミーティングで佳史扶選手の顔を見た時にグッとくるものがありました。受傷したところからの期間を考えれば、僕はそこまで長く付き合っていませんが、このクラブに来てからはプレーしている佳史扶選手をあまり長く見ていなかったので、彼が良いスタートを切れたと思いたいですし、それに匹敵するようなプレーができていたのではないかと思います。
Q、前半の彼のパフォーマンスは不安を感じさせないものだったということでしょうか。
A、気持ちとしてはフルで、というところもありますが、慎重に起用していくということもチームで共有しているところです。ただ、今日の45分間が何かの皮切りになる可能性も十分にあると思っています。
Q、相手とのカテゴリーの違いはあったかもしれませんが、個の力でも剥がしながら、ボールもよく動いていました。チームとして進んだ感覚があるのではないですか。
A、僕のなかでは、リハーサルでやってきたものをどれだけの選手が理解しながらプラスアルファのプレーができたのかな、と考えると、数は少なかったのかなと思います。ハーフタイムにその話をしたのですが、徐々にということもありますが、後半はメンバーも代わってスタートしてからフィットするまでに時間が掛かりました。相手のカウンターを受ける、ビルドアップで剥がされて、やられてはいけないようなところを平気でやられる、というシーンもありました。試合の入りのところも、「後半の入りを2-0ではなく0-0(のつもり)でいけるか、お前たち」という気持ちのところも大事だと思いました。その意味では、後半の入りは難しいものになってしまいました。
Q、今日が東京でのデビューとなり、ゴールも決めた長倉幹樹選手の評価を教えてください。
A、彼の良い部分もしっかり出せましたし、ここが合いさえすれば彼の良さがさらに光るというようなシーンもいくつかあったので、そこをフィットさせていくことが次の段階かなと思います。ハーフタイムには本人にも話をして、出し手との関係性なども少しですが見えている部分もありました。ただ、しっかりと収めるところ、収めた後の次のパスの精度など、攻撃の起点という部分では良い働きをしてくれました。
Q、スターティングメンバーで起用した北原槙選手は惜しいシーンもありました。
A、前半は少しアンパイなところでプレーすることが多かった印象です。我々の狙いとする部分が出し切れないなかで、ボールを触る機会が多いのでテンポを作ったりすることが多いですが、必ずしも良いところにパスを通せたかというと通せていなかったし、ミスも多かったです。後半は体力的な問題もあって完全に足が止まってしまいました。彼の良さは十分に発揮できると思って起用していますし、ピッチに立つだけの準備も十分にできていると思います。ただ、今日のパフォーマンスは彼自身も納得できないものだったのではないかと思います。
[選手インタビュー]
<バングーナガンデ佳史扶選手>

Q、久しぶりの味の素スタジアムのピッチはいかがでしたか。
A、入場したタイミングではとても緊張していましたが、試合がはじまったら緊張も解けて良い状態で試合に入れました。懐かしい感じはありましたが、違和感なく試合に入れました。ファン・サポーターのみなさんも名前を呼んでくれたり、チャントを歌ってくれたりと、良い雰囲気を作ってくれていたので、スムーズに試合に臨むことができました。
Q、383日ぶりの公式戦となりました。試合を振り返っていかがでしょうか。
A、内容的には修正が必要なところが多くありました。まずはチームとして、久しぶりに勝利できたことが良かったです。内容どうこうよりも、結果が必要な時期だと思っていたので結果を出せたことが良かったです。ここから、チームがリーグ戦を含めて良い軌道に乗るターニングポイントとなる試合になればいいと思いました。次の試合が本当に大事になると思います。
Q、復帰までに時間が掛かってしまいましたが、しっかりとパワーアップして帰ってきているように感じました。
A、この期間では、一日一日自分と向き合ってやり続けてきたので、それをピッチで表現できたことは嬉しいです。今日は45分間でしたが、ここから出場時間が長くなった時も変わらないクオリティでプレーをしていきたいですし、逆にチームが苦しい時間帯にしっかりと結果を残せるようにしていきたいです。今日は、アシストや得点という数字での結果を残せなかったので、そこにフォーカスしてパワーアップしていきたいです。数字を残せるようになってくれば、さらにチームの力になれると思います。なので、数字のところをしっかりと求めていきたいです。
Q、バングーナガンデ佳史扶選手らしいプレーも多くみられました。
A、自分らしいプレーをしようと思って試合に入りましたし、チームメイトやスタッフからも楽しんで来いと声をかけてもらっていました。今までやってきたことを出そうと思って、その一心でプレーしていました。
Q、ここからリーグ戦も連戦となります。ここからの連戦をどのように臨みますか。
A、今日は勝てましたが、ここからの連戦で勝利できなければ意味がないと思っています。リーグ戦でしっかりと結果を残せるように、個人的にはどれだけ試合に絡めるか分かりませんが、出場のチャンスがあれば、チームのために“勝利”という結果をもってこられるようなプレーをしたいです。
Q、佳史扶選手の復帰を待っていたファン・サポーターへのメッセージをお願いします。
A、いつも、サポートいただきありがとうございます。この離脱している期間もたくさんの応援してくれている声が、SNSやふれあいの場を通じて届いていました。本当にそれが僕にとっての活力になって、苦しい時期も毎日努力を重ねることができました。ここからもっと、みなさんにパワーアップした姿を見せられればと思います。引き続き応援よろしくお願いいたします。
<長倉幹樹選手>

Q、東京加入後のデビュー戦となりました。初ゴールも生まれた今日の試合の振り返りをお願いします。
A、ボールを触る回数をもっと増やして、プレーの質をこれから高めていきたいと思いました。初出場の試合で得点を奪えたことはラッキーでした。フォワードの選手として、どのような形であれ、加入後すぐに得点を奪えたことは、メンタル的にも大きくプラスに働くと思っています。得点シーンに関しては、俵積田晃太選手がドリブルで運ぶタイミングで“シュートが仮に弾かれたらここに来るな”という意識もありました。こぼれ球にうまく反応することもフォワードの仕事です。多少の運もありますが、うまく反応できたことは良かったと思います。
Q、前後半それぞれツートップを組む選手が変わりました。どのような意識を持ってプレーしましたか。
A、自分だけの動きだけではなく、前半であれば仲川輝人選手、後半であればエヴェルトン ガウディーノ選手の動きを見て、ツートップの連携や距離感を特に意識しました。試合前の段階からポジショニングの部分は意識していました。
Q、特長とするオフザボールの動き、守備面の貢献度も高い動きが随所に見られました。
A、特長、持ち味とするプレーなのでチームのために特に意識してプレーしました。ですが、もっと質の部分にこだわりたいですし、高めていきたいです。守備の部分で言えば、前線からのプレスの掛け方が後半はチームとしてうまくいかず、前半のように守備から攻撃へスムーズに移ることができなかったことが次への課題だと感じています。
Q、週末にはリーグ戦が控えています。ここからどのようにチームに貢献していきたいですか。
A、フォワードの選手にはいろいろなタイプの選手がいますが、僕自身“味方に活かされる”選手だと思っています。うまく活かしてもらうためにも良いポジションをとり続けることを意識していきたいです。週末のガンバ大阪戦に向けて、ここから良い準備を進め、勝利に繋がるプレーをしていきたいと思います。


