「非常に悔しいゲームでした。何度かあった決定的なチャンスを一つでも決めることができていれば、と思いますが、その流れを断ち切ってゴールを決めてくる部分で、最後は鹿島アントラーズのゲームだったと思います」(松橋力蔵監督 試合後コメント)
この試合に限った話ではないが、『入っていれば』、『決まっていれば』、と強く思わされた一戦だった。

月日は流れ約5か月が経ったが、監督や選手に話を振ると、明治安田J1リーグ第4節鹿島戦の敗戦を、いわば『リーグ前半戦のターニングポイント』として口を揃えて挙げる。ファン・サポーターも少なからず選手と同じ気持ちを抱いているのではないだろうか。
試合中盤までは東京のペースだった。連勝中の鹿島を相手にあとはゴールを決めるだけと言っていいほどの試合運びだった。

しかし、前半から立て続けにチャンスを逃すと、高い位置でコンパクトにセットされた守備陣形と球際への圧力に対して徐々にトーンダウン。後半20分過ぎから立て続けに与えてしまったコーナーキックでは、野澤大志ブランドンのセーブに救われる場面やバー直撃のシュートを浴び、最終的にはサイドに流れたボールをゴール前に供給され、ペナルティエリア内でファウルをとられてペナルティキックを与えてしまった。
勢いを取り戻した鹿島は、さらに強度のギアを上げ、縦横ともに圧迫感を与える守備でパスコースを限定。鹿島の自由を与えないプレーと陣形は時間を追うごとに強固になっていき、東京は先制を許すまでの勢いを取り戻せなかった。
後半38分には、北原槙が15歳7か月22日でのJ1リーグ最年少デビューを飾り、前線へのスルーパスで攻撃の組み立てを試みるも同点弾にはつながらず。試合終盤にセットプレーから追加点を許し、試合は0-2で終了した。
その熱を逃すな
徹底したハードワークとコンパクトな守備をベースとする鹿島を相手に、高い集中力が求められる一戦。今度こそ、チャンスを逃すことなく仕留め切り、勝利につなげたい。
第20節のセレッソ大阪戦以降、複数得点の試合が『4』と得点力が徐々に向上しつつある東京。C大阪戦や浦和レッズ戦のように、早い時間帯に先制点をゲットして良い流れと勢いを掴み、鹿島に対して心理的にも物理的にも圧力をかけていきたい。
カギを握るアタッカー陣は多士済々で、それぞれ調子は右肩上がりだ。自身7点目のゴールを挙げたマルセロ ヒアン、契約の関係で前節の浦和戦に出場できなかった長倉幹樹、前節に4月以来の得点を挙げた仲川輝人。彼らのさらなる得点量産に期待が高まる。

守っては、室屋成、森重真人、長友佑都、アレクサンダー ショルツ、がそれぞれの経験値をプレーで還元。1対1で負けない強度の高さ、チャレンジ&カバーの絶妙な距離感とバランスでゴール前への進入を許さない。彼らはまた攻撃の起点としても重要な役割を果たす。自陣後方からの組み立て、両サイドバックの果敢な攻撃参加は前節の浦和戦でも相手のセットポジションを後ろに下げる効果的なオプションになっていたことは間違いない。
一方の鹿島は、松村の後半アディショナル弾を含め7試合ぶりの複数得点で3-2と柏レイソルに勝利。一度は2点差を追いつかれるも、最後の最後で勝ち越す勝負強さ、一瞬のスキから流れを何度でも手繰り寄せる風格、いわば“鹿島らしさ”が詰まった一戦だった。
試合メンバーを見ると、実力者が多く揃い、東アジアE-1サッカー選手権2025決勝大会で高い評価を受けた早川と植田がゴール前に立ちはだかり、最前線にはJ1リーグの得点ランクトップを独走するレオ セアラと高い技術でチームを支える鈴木が2トップを組む。また、東京との古巣対戦となる小川の左足は言うまでもなく、一発のキックで得点を創出する。ベンチには昨シーズンの東京の攻撃を牽引した荒木、推進力に優れる田川も名を連ねていた。

特に注意すべき選手が、ハードワークでチームを支える小池。前回対戦、前節の柏戦ともに右サイドで出場し、左サイドでボールを持たれた時には、ボールサイドまでポジションを絞り、パスコースを限りなく封じたかと思えば、サイド際の攻撃には必ず顔を出し、チャンスに関わるプレーを多く見せる。
4-4-2のシステムをベースに高い位置でのボール奪取とサイドを経由して素早くゴールを狙う鹿島。前回対戦でも、サイドに人数をかける攻撃、奪われた後の素早いアプローチがボディーブローのように徐々に効いてしまい、最終的にはシュートチャンスや失点につながってしまった。
今節は日中の暑さがキックオフ後も残るであろうナイトゲーム。球際で主導権を握るのか、素早く守から攻に切り替えられるのか。1ミリたりとも気の抜けない熱い戦いが待ち受けている。会場内に溢れかえる熱量を勝利につなげる一戦に期待したい。
取り戻しつつある“輝き”、攻撃を支える“幹”となる
ゴールが遠のく試合が続いたが、前節の浦和戦では身体でボールを押し込み、試合終盤の勝ち越しゴールを手繰り寄せた仲川を注目選手に挙げたい。
前回の対戦を「リーグ前半戦は良い試合をしているにもかかわらず勝点を拾えない試合、負けてしまった試合が続きました。特に鹿島戦は、試合中盤まで決定的なチャンスを多く作りましたが、セットプレーの流れから失点をしてしまいました。この試合が個人としてポイント、印象に残っている試合です。良い試合内容でも結果がついてこないことで、選手たちも下を向いてしまったのかなと思います」と振り返るように、あの敗戦が脳裏に焼き付いている。

しかし、2019シーズンにJ1リーグMVPと得点王をダブルで受賞した実力は健在だ。特にシーズン途中に加入した長倉との相性は抜群で、この二人が組むことで、速攻と遅攻のバランスが保たれ、攻撃が過度にバタつかなくなった。実際、横浜FC戦の試合後には「長倉選手と仲川選手がボールを受けに来てくれたことで攻撃がよりスムーズになった」と最終ラインに入った森重が取材陣に対して答えたように、最前線の選手ながら攻撃の潤滑油にもなれる存在だ。
長倉自身も初めて仲川と2トップを組んだ天皇杯2回戦のツエーゲン金沢戦後には「仲川選手とは本当にプレーがしやすい」と語るなど、二人が見せる阿吽の呼吸にも注目したい。

前回の対戦では3-4-2-1のシャドウに入り、前半にはボックス外から放ったシュートがバーをかすめ、あと一歩が届かない苦汁を味わった。得点数も現在2点と、ここからゴール量産体制に入るキッカケをこの試合で掴みとりたいはずだ。
対峙するであろう植田、キム テヒョンのツーセンターバックは高さと対人の強さを誇り、共に各国の代表に名を連ねる選手。強靭なディフェンス陣を相手に、持ち前の一瞬のスピードと味方の好機を演出するポジショニング、そしてゴールネットを揺らす一瞬の煌めきに目が離せない。
(文中敬称略)


