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2021.12.29[トップチーム]

アルベル プッチ オルトネダ監督インタビュー

Q、ファン・サポーターは、監督のことをなんとお呼びすればいいですか?
A、この2年間、アルベルトと呼ばれていたのですが、『ト』は発音せず、アルベル。『ベ』にアクセントがあるのがオリジナルです。日本ではなぜかアルベルトで登録されてしまって、Wikipediaもアルベルトになっているのですが(苦笑)、これを機にアルベルと呼んでもらえたら嬉しいです。

Q、では、アルベルさん、初めてのJ1、そしてFC東京という首都のクラブでのチャレンジとなります。オファーが届いたときは、どんなお気持ちでしたか?
A、まずお伝えしたいのは、新潟では本当に心地良く仕事をさせてもらえていたということです。クラブは方向性を変える努力をしてくれましたし、選手たちも私の志向するプレースタイルに付いてきてくれました。ファン・サポーターも気に入ってくれていたと思います。ただ、私はいつも新たな挑戦を求めています。私はキャリアの大半を育成年代の指導者として過ごしてきました。バルサ(FCバルセロナ)のアカデミーでコーチを務めたあと、バルサのアカデミーダイレクターという、育成年代における世界で最も重要なポストに就くことができました。クラブ内のさまざまな改革にも関わり、その後、新しい挑戦の旅に出ました。

Q、ガボン代表のテクニカルダイレクターや、アメリカ・メジャーリーグサッカーのニューヨーク・シティのコーチなどを歴任されましたね。
A、ニューヨーク・シティへは、ジョゼップ・グアルディオラ(元バルサ監督、現マンチェスター・シティ監督)の右腕を長く務めたドメネク・トレントが監督に就任する際、「一緒にやらないか」と誘ってくれました。2年間、トレントをサポートするなかで、自分も監督をしたいという気持ちが芽生えました。ただ、どこでもよかったわけではありません。リスペクトのある国や街で、魅力的なプロジェクトに関わりたいと考えているときに、アルビレックス新潟からオファーが届きました。そして2年が経ち、また新たな挑戦をしたいという気持ちが生まれたのです。

Q、J1でのチャレンジというわけですね。
A、それもJ1のトップクラスのクラブで、魅力的なプロジェクトならチャレンジしてみたいと。私の元にはいくつかのオファーが届きましたが、その中で最も魅力的だったのがFC東京からのものでした。クラブが改革に乗り出し、しかも新たなチームのプレースタイルに挑戦するという考えを聞き、魅力を感じました。しかも、日本という素晴らしい国の首都に存在するクラブです。偉大なクラブとなる可能性を秘めているのに、それに見合った結果をまだ勝ち取れていないところにも関心を持ちました。さらに、バルサのブラウ・グラナ(カタルーニャ語で『紺とえんじ』の意味)と似たユニフォームだったことも、私の関心をひいた要因のひとつです(笑)。

Q、かつて久保建英が在籍したクラブでもありますが、何か縁は感じますか?
A、10歳だった久保建英をバルサは獲得しましたが、それを決めたのが当時アカデミーダイレクターを務めていた私でした。その久保がバルサのあとに所属したクラブに私が来たというのは、美しいストーリーだと思います。ただ、彼がバルサに戻らなかったのは、残念ですが(苦笑)。

Q、新潟時代の試合も拝見していましたが、改めて、FC東京でどのようなサッカーをめざすつもりでしょうか?
A、(試合を見てくれていて)アリガトウ。私がかつて仕事をしたバルサは、ポジショナルプレーを重視したサッカーで、攻撃でも守備でも、ボールとともにどうするかを求め続けています。バルサが表現してきたスタイルは、日本人の長所や特徴とマッチしていると思います。日本人には賢い選手が多い。なぜそのプレーが求められるのか、なぜその現象が起こるのか、しっかりと理解してプレーする選手が多い印象です。世界の強豪国と比べると、フィジカルでは劣っていますが、一方で、テクニックのレベルはとても高い。さらにスピードもある。献身的な性格も持ち合わせているので、プレスを掛けてボールを奪うことも得意です。

Q、まさしくバルサのスタイルに求められるものばかりですね。
A、私は常々思っています、なぜ日本人はバルサのようなプレーを追求しないのか、と。バルサのスタイルが日本人に合っているということは、新潟で証明できたと思います。ほとんどの選手がそれまで経験したことがなかったにもかかわらず、2年目になると、かなり表現できるようになりました。さらに重要なのは、そうしたプレースタイルをファン・サポーターが気に入ってくれたことです。多くの観客がスタジアムに足を運んでくれたのです。新潟で表現したサッカーを、日本の首都である東京でも表現できたら、こんなに素晴らしいことはありません。

Q、新潟時代のサッカーは、攻撃と守備が同時にデザインされているように見えました。さらに守備でブロックを組む際と、攻撃でビルドアップするときでは、形が大きく変わるのも特徴的でした。
A、攻撃においても守備においても、全員がひとつのブロックとしてプレーしなければなりません。私の国ではそれを『全員で一緒に旅をしろ』と表現します。ポゼッション(ボールの保持)も大切ですが、それ以上に重視していたのは、ポジション(選手の立ち位置)です。ポジションとポゼッション、このふたつによって、より良い攻撃が実現できます。また、サッカーにおいて、守備の仕方は大きく分けてふたつあります。スペースを守るやり方と、ボールを保持することで守るやり方です。ヨハン・クライフが言っていたとおり、我々がボールを保持している限り、相手は攻撃ができません。

Q、つまりボールを持つことが、イコールいい守備ということですね。
A、そうです。一人ひとりがいいポジション取りをすることで、より良いポゼッションができれば、より多くのチャンスをつくることができます。攻撃において良いポジション取りができていれば、ボールを奪われたときに、良い形でボールを奪いにいける。それが私の求めるポジション取りです。そして守備では、チームのために汗をかいて走らなければなりません。それができない選手には、プレーさせません。もし、自分は走る必要性がないくらい素晴らしい選手だと思っている選手がいるなら、私はその選手にグアルディオラの電話番号を渡そうと思います(笑)。

Q、マンチェスター・シティに行くことを勧めると(笑)。
A、ただ、実際には世界中を見渡しても、走らなくていい選手はひとりしかいない。リオネル・メッシのことです。つまり、東京では全員が走らなければなりません。それプラス、相手がハイプレスを仕掛けてきても、怖がらずにしっかりパスを繋いでほしいとも思っています。新潟でも1年目の最初はボールを次々とクリアしていました。それが2年目になると、クリアせずにキープし、味方にパスを繋ぐようになりました。東京の選手にはより短期間で変わってもらいたいと思います。

Q、2021シーズンの東京のゲームを何試合かご覧になったようですが、2022シーズンに期待している選手、興味深い選手はいましたか?
A、東京の試合はたくさん観ましたが、この目で実際に選手を見てみなければ、分からないものです。まずは白紙の状態で選手を見たいと思います。ミーティングを行い、選手たちと明確なコミュニケーションを取りたいと思います。私は選手と個別に話すことを好むタイプです。分からないことがあれば聞きに来てほしいし、私もアドバイスを送りたい。オブラートに包まずストレートな表現をするタイプなので、ときに耳の痛いこともあるでしょう。若手、ベテラン関係なく、思ったことは選手に伝えていきたいと思っています。

Q、2021シーズンの新潟は素晴らしいサッカーを繰り広げていましたが、最後にやや失速してしまいました。その原因はどこにあると思いますか? 東京も2019年、素晴らしいシーズンを送りながら失速してタイトルを逃しましたが、東京でも生かせる教訓はありますか?
A、東京で起きたことは分かりませんが、新潟で起きたことは説明できます。2021シーズンの9割以上の試合において、チャンスの数やシュート数で相手を上回りながら、決定力不足によって勝点を取りこぼし続けたことが、失速の主な原因だと思います。新潟は明らかにどのチームよりも攻撃的でしたが、そうしたチームがあれだけ引き分けの多い理由を説明するのは難しい。シュート本数が20対3だったにもかかわらず、スコアが1-1という試合もありました。

Q、ライバルチームを見れば、ピーター・ウタカ選手(京都サンガF.C.)やルキアン選手(ジュビロ磐田)が決定力を発揮しましたね。
A、彼らはチームに勝点をもたらしていたと思います。こちらが先制点を奪えれば、相手も点を取りにこなければならず、我々が追加点を取りやすくなります。例えば、ホームで東京ヴェルディを7-0で下した試合は、そうした展開でした。ただ、あの試合のインパクトが影響してか、その後、多くのチームが守備を固めてくるようになりました。

Q、東京には素晴らしいストライカーが揃っています。
A、決定力が高いことを、彼らは改めて証明しないといけません。というのも、2022シーズンは狭いスペースで決定力を発揮することが求められるからです。カウンターアタックはシュートを放つ際にスペースがあるものですが、2022シーズンは相手を押し込むゲームが増えるでしょう。そうなると、相手ゴール前のスペースは狭くなります。それでも決められるかどうか。もちろん、彼らにはすごく期待しています。若手にも期待しています。日本人は年齢を気にする傾向がありますが、私は若手を起用することを躊躇しません。ベテランをリスペクトしていますが、ピッチ内で重要なのは年齢ではなくパフォーマンスです。35歳であろうと、15歳であろうと関係ありません。

Q、久保建英も16歳でJ1のピッチに立ちました。
A、日本には才能あふれる若手がたくさんいるので、アカデミーの選手にも注目したい。いい選手がいれば、トップチームでチャレンジさせたいと思っています。一方、外国籍選手は、日本の選手では与えられないものをチームに与えなければなりません。それは私自身も同じです。日本の監督でも提供できるものしか提供できないのであれば、私がチームを率いる必要はありません。それに、私のあとを継ぐ監督は、日本人監督でなければいけないとも思っています。

Q、しっかりとしたベースを築いていく、ということですね。
A、私は遅かれ早かれ、このクラブを、この街を、この国を去ります。東京の人々のためのクラブであるFC東京を育てること、それが私の使命です。日本では誰もが「優勝をめざします」と言うことには驚きました。私はそんなことは言いません。誰よりも負けることが嫌いで、勝ちにこだわる人間ですが、約束できるのは、明確なプレースタイルを植え付け、常に優勝争いに関われるだけの力を備えさせ、クラブを成長させること。アカデミー出身の選手を重視し、質の高い外国籍選手を補強し、私のプレースタイルに適した選手を補強しながら継続的に成長していく。FC東京はまだ、J1でトップレベルの経営規模ではありません。現在のプロサッカー界は、経営規模でトップを争えないクラブが常に優勝を狙えるほど簡単な世界ではありません。ただ、チームが、クラブ全体が継続的に成長すれば、経営規模の成長も促すことができます。

Q、現状の選手を成長させることに加えて、クラブの経済力がつけば、さらに確固たる力をつけられると。
A、それは時間の掛かるプロセスですし、忍耐強く進めなければなりません。ファン・サポーターのみなさんには、長い目で見ながら支えてほしいと思います。チームがどのようなプレーをめざしているのか、どのようなプレーを表現しているのか、しっかり見てほしい。みなさんが誇りを感じられるようなプレーを表現し続ければ、スタジアムにファン・サポーターが増えていくはずです。ファン・サポーターが増えれば増えるほど、多くのスポンサーを獲得することに繋がると考えます。

Q、スポンサーが増えれば、収入が増え、より質の高い選手を補強することが可能になります。
A、例えば川崎フロンターレも、明確なプレースタイルを持っているがゆえに、常に優勝争いに関われています。私も2〜3年をかけて、このクラブの基盤を構築したい。そのベースをもとに、毎年タイトル争いに関われるクラブに成長させたいと思います。それには選手、チームだけでなく、クラブのあらゆる分野がプロフェッショナルになる必要があります。それを促すことも私の役割だと思います。ピッチで表現されるプレースタイルだけの話ではなく、クラブ全体が成長しなければなりません。素晴らしい人間であること、プロとして、素晴らしい仕事人であることが求められます。

Q、では最後に、東京のファン・サポーターへのメッセージをお願いします。
A、日本人は互いに尊重し合う国民性だと思っています。私もリスペクトを重んじる人物です。協力して戦っていきましょう。もし私がミスをしたら、謝罪をしようと思いますが、試合に負けても謝罪はしません。全力を出しても試合に勝てないことはあります。それは失敗ではありません。どのようなプロジェクトでも成功には時間と忍耐が必要です。そのなかで、みなさんが団結できるように、私は戦い続けたいと思います。みなさんにお会いできる日を楽しみにしています!

text by Atsushi Iio